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#13 ボスバトル

 親玉を倒した後も、まだ眼を覚まさないラーン。

 彼女を寝かせて、私たち三人は周囲を見張った。


 辺りを見回すけれど、これといった危険はない。

 親玉ゴーストを倒してから、ロワーゴーストも現れなくなった。

 ついでにモヤも晴れて、今のダンジョンはとても見通しが良い。


「しっかしパトナ、お前すげーな!」

「え?」


 ウィングは私のほうを見て、感心したように頷く。


「バッチリ聞こえたぜ。『私は仲間を見捨てない』って!」

「あ、聞こえてたんだ? アレ……」

「おう。な、センコウ?」


 センコウは眼を伏せて、首肯を示すこともない。

 けれど、そっと剣から手を離して、腕を組んだ。


「……パトナ殿は脅威を前にしながら、そう断言したでござる」

「えへへ、必死だったからね」

「感服致した」

「えっ……!?」


 まったくこっちを見ないまま、彼はそう言い放ったのだ。

 たぶんだけど、今、褒められたんだよね?


「ね、センコウ……もっかい言ってくれない?」

「断る」

「今、褒めてくれたよね? ねぇねぇ」

「一度目で聞き取ったでござろう」


 えへへ、褒められちゃった。

 センコウってば、けっこう素直に褒めてくれるんだね。

 感服だって! えへへ……


 思わずニヤニヤしてしまう。

 嬉しいから、もう一回だけ褒めてもらいたい。

 そう思って、考えを巡らせていると……


「ん……」

「ラーン!」


 ラーンはようやく目覚める。

 身体を起こそうとした彼女は、ふと顔を歪めた。


「うっ……!」

「だ、大丈夫!?」

「はい……少しケガをしただけです……」


 その視線は足首のあたりに向かっている。

 確認すると、ロワーゴーストによる傷が残っていた。


「うわわ、はやく治さなきゃ!」

「はい……“遺失、破壊、枯れた花。不感に満ちた者へ、神の指輪を授ける”――無限の清浄(シンフォニー)


 足首の傷へ向けられた杖は、先端から温かな光を放出した。

 すると、痛々しい跡が少しずつ消えていく。

 良かった……これでもう、痛みもなくなるはずだよね。


「はい、もう大丈……っ!」

「あっ、ラーン!?」


 私がそう思ったのも束の間、ラーンは辛そうな声を上げた。


「まだ痛いんじゃ……!」

「……霊につけられた傷は、回復魔法も効きにくくなるんです」


 そ、そっか……

 魔法が効きにくいって特性が、傷にまで影響してるんだ。

 うう、厄介すぎるよ。


「身体は!? 平気!?」

「腹部に強く突進されましたけど、それくらいです。あとは軽傷ですよ」

「でも、心配だよ……」

「ふふ、ありがとうございます。ですが、これくらいで済んだのは幸運ですから」


 そう言うと、ラーンは微笑を浮かべて、ウィングたちを見た。


「ふたりとも、助けに来てくれたんですね」

「おうっ」

「…………うむ」


 対照的な反応を見せるふたり。

 照れ屋なセンコウはそっぽを向いた。

 けれど、その後で呟く。


「……面目ないでござる」

「え?」

「ラーン殿に傷を負わせたのは、拙者の行動でござろう」

「い、いいえ! そんなことないです!」


 さっきの単独行動を、彼なりに反省しているみたいだ。

 またラーンに向き直って、小さく頭を下げるセンコウ。

 ラーンはあたふたして、その顔を上げさせようとした。


 そんな彼らを見たウィングも――


「わりぃ、パトナっ!」

「えっ!?」


 いきなり私へ頭を下げてくる。 


「なんか……ケンカして、悪かった!」

「う、うん。もう帰ってきてくれたし、気にしてないよ。私もごめんね」


 なんだか謝罪パーティーになってる。

 こういう堅苦しい雰囲気、あんまり好きじゃないなぁ。

 よーし、いっちょやろっか。


「そんなことより円陣組もうよ!」

「は?」

「再集結したことだし! 円陣!」


 最初はポカンとしていたウィングだけど、すぐに立ち直る。

 そして、一番に私と肩を組んでくれた。


「よしっ、お前ら! 集合!」

「あ、はい!」


 彼の招集に、ラーンも楽しげに応じる。

 意外なことに、センコウも黙って参加してくれた。

 えへへ、ちょっと嬉しいな。


 パーティで輪になった私たち。

 すると、少しの逡巡を見せたウィングが、おもむろに言った。


「パトナ、お前が合図しろよ」

「え? だって……」

「お前が言い出しっぺだからな。譲ってやる!」


 彼はニカッと笑って、私の肩を叩く。

 気前のいいリーダーである。

 任命されたからには、張り切ってやらないとね!


「よーし、みんな! 準備はいい?」

「おうよ!」

「はい!」

「うむ」


 みんなも準備万端みたいだ。

 顔を見合わせて、声に出さずに頷きあう。

 気持ちが揃っていることを実感しながら、私は大きく息を吸った。


 せーのっ!


「サンロード、気合い入れてくぞーッ!」

「うおおーーっ!!」「おー!」「……承知」


 声が揃ったのは、これが初めてだ。

 これなら私たち、今度こそ無敵のパーティになれる。

 きっと……いや、絶対に!


 ✡✡✡


 モヤが晴れたダンジョンでは、もう迷うこともない。

 何本もの目印のついた木を通り過ぎて、私たちは最奥へと進んで行く。

 やがて、前方が固い砂の壁に覆われた、行き止まりの空間へ来た。


「これがダンジョンの奥……?」


 壁の前には、大きな枯れ木が聳えていた。

 その根元にはうろが続いている。

 くぐり抜けることができそうな大きさだ。


「この先にダンジョンボスが居るのかな?」

「絶対そうだな! 行くぞーっ!」


 真っ先に暗い穴へ飛び込む、無鉄砲なウィング。

 それに続いて、センコウも堂々と入っていった。

 ケガをしたラーンを腕に抱えたまま。


「あの、センコウさん……重くないでしょうか?」

「否」

「ほ、本当ですか。あの、ありがとうございます……」


 いちいちカッコいいね、センコウ。

 なに、『否』って。

 ラーンも照れてるし、なんかいいじゃん?


 ……あ、そんなこと考えてる時じゃないか。


 私は最後に穴へ入っていく。

 暗くて周りが見えないから、手探りで進んだ。

 曲がりくねった内部を慎重に行くと、闇はすぐに明けた。


 ――出口に広がっていたのは、薄暗い一本道。

 周りは草木も生えておらず、石でできた柱に――おそらく、墓石に囲まれている。

 飛び石に導かれた先には、一匹の大きな猫がいた。


「あの猫……」

「猫又にござるか?」


 私たちより遥かに大きい、途轍もない巨体。

 猫はふてぶてしく鎮座して、私たちを睨む。

 その視線には理性のようなものも感じられた。

 なんにせよ、どう考えても歓迎されていない。


「センコウさん、降ろしていただいて結構です」

「む、ラーン殿。承知した」


 ラーンはセンコウの腕から降りると、注意深く猫を観察する。

 そして、パーティの全員を見回した。


「あれがダンジョンボスです。間違いなく強敵ですから、まずは様子見を――」


 彼女が作戦を立てようと、声を潜めたとき。

 ダンジョンボスの猫は、いきなりこちらへ迫ってきた。


「――ッ!?」


 襲い掛かる大きな爪。

 全員、咄嗟の判断でそれを避ける。

 反応の遅れたラーンは、センコウに抱えられて逃げおおせた。


「作戦を考えるヒマはないでござるな」

「は、はい! ごめんなさい、センコウさん……」


 センコウの言う通り、相手は待ってくれないみたいだ。

 次の攻撃がやってくる。

 狙いは――ウィング。


「ウィング、避けてっ!」

「うおぉっ!?」


 巨大な尻尾が、彼を吹き飛ばすべく振るわれた。

 飛びのいたばかりのウィングは、態勢が整っていない。


「くそっ……ぐ、ぐあぁっ!?」


 剣を構えて、衝撃をなんとか受けようする。

 けれど、ほとんど無駄だった。

 彼の身体は、構えた剣ごと吹き飛ばされてしまう。


「ウィングっ!!」


 勢いよく墓の群れに埋もれ、その姿は見えなくなる。

 途轍もない衝撃だった――今ので致命傷を負ってもおかしくない。

 また狙われる前に、早く助けないと!


 ダメで元々!

 こういう時こそ、魔法の出番だよね!?


「“唄え、短き命っ! 勇気の欠片、誓いを守れ!”――脈打つ情熱(フレイム・ヴェイン)!!」


 撃ちだした火球が、ボスへと向かっていく。

 しかし、その軌道はいつも通り逸れた。

 一瞬だけ眼を見開いたボスも、それを見てポカンとする。


 火球は地面へと衝突して、衝撃をまき散らした。

 それが私たちを襲う。


「うわぁ……っ!?」

「ぐっ、パトナ殿……!!」

「ごご、ごめんっっ」


 命中しなかったとはいえ、魔法を撃ち出したのは私だ。

 ボスはそれを脅威に感じたのか、恐ろしい瞳をこちらへ向けてくる。

 センコウに怒られつつも、私は襲われることを予期した。


 ウィングのことは、ラーンが回復しにいってくれるはず。

 その間、私がボスを惹き付けておくのだ。

 大丈夫、大丈夫……!


「さあ、来い! でか猫――」


 構えると同時に、目の前にボスが現れた。

 まるで瞬間移動のような、ついていけない速さで。

 こちらの挑発に関心も示さないで、その爪が首を刎ねにくる。


 こんな速度で攻撃されたら、回避なんてできない。

 だけど、ラーンから貰ったナイフは手元にあった。

 とにかく、それを持ち上げる――ギリギリ、凶悪な爪とぶつかった。 


「うぐうっ……!?」


 重すぎる一撃に、私の身体はもちろん耐えきれない。

 すぐにギブアップして、人形みたいに吹っ飛んで、地面へ打ち付けられるように転んだ。

 だけど、それが功を奏したのだろう。

 致命的な傷はもらわないで済む。


 爪は続いて、私を押しつぶそうとしている。

 こっちは痛みがひどくて、態勢も整わないのに。

 ヤバい、本当に潰される……!


 こうなったら、イチかバチか!

 私は片手を構える。

 あの肉球に潰されるよりも早く!


「“う……唄え、短き命……勇気の、欠片、誓いを……!?”」


 詠唱は間に合わない……ように思えた。

 しかし、爪はなぜか動きを止めて、怯えるように引っ込む。


「……な、なんで?……ッ」


 助かった私は、痛む身体を庇いながら、ボスの状態を確認する。

 すると、その理性的な眼は、私を強く睨んでいた。

 まるで本物の猫のような、臆病な輝きを湛えて。


 いや、もしかすると……


「えいっ!」


 私はもう一度、腕を構えてみた。

 それに応じて、ボスは身を竦め、激しく動揺する。

 どうやら……さっきの私の魔法を、かなり警戒してるらしい。


 これなら好都合だ。

 もしかすると、本当に頭の良い魔物なのかも。

 詠唱や構えに反応して、こんな態度を示すんだもんね。


「え、へへ……こっちも結構、キツい攻撃……もらっちゃったけど」


 両腕の照準を、ボスのほうへ合わせたまま動く。

 脅しとして機能させれば、相手はこちらを攻めてこれない。

 まさかの抑止力……魔法が苦手なのかな。

 とにかく、これ以上の時間稼ぎはない。


 けれど、私も安易には撃てなかった。

 コントロールが全然ダメだって知られたら、相手に侮られてしまう。

 それならこうして、いつでもトドメを刺せるような顔をしてるのが一番。

 実際に撃つのは――本当に当たる距離まで詰めてから。


「う……ッ、くっ」


 たった一発で満身創痍。

 そんな身体で、ボスとの距離を詰めていく。

 相手はまだ警戒を示して、近付いてくる私を睨んでいた。


 よし、あともう少し。

 このまま、このまま……


「……、え……!?」


 その時、足元になにかが巻き付いた。

 表面はふわっとしていて、だけど筋肉質な感触。

 巨大な猫の尻尾。


「やめ…………ッ!!」


 それは私を、あっという間に宙づりにする。

 そうして、足首を縛るにとどまらず、あっという間に身体まで締め上げてきた。

 逆さまで圧迫される私は、まったく身動きが取れない。


「ぐっ、うああァ…………!?」


 痛い。

 ヤバい。

 このままじゃ……殺される!

骨拾い目前でござる。

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