表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/66

#10 レベルアップ

 街は夕暮れに沈んで、通りにも人が少なくなった頃。

 ギルドに帰ってきた私たちは、受付のお姉さんにある果物を差し出した。


 お姉さんはニッコリ笑うと、すぐにそれを受け取ってくれる。


「新鮮なペルパですね。お疲れ様でした、サンロードの皆さん」

「これでライセンスが貰えるんですか?」

「もちろんです。明日にはお渡しできますので、今日は安心してお休みください」


 課題を無事に渡した私たちは、見事に試験をクリアした。

 ライセンスはきちんともらえる。

 そのことに満足して、案内された通りに別のカウンターへ行く。


 そこには、バレットを被ったメガネの男性が立っていた。

 そして小太り……小太りということは、商人さんだ。


「冒険者諸君、新鮮なペルパをどうもありがとう。これが報酬だよ」


 彼は数枚の銅貨をテーブルに置く。

 占めて……いくらかである。


「ラーン、これっていくら?」

「え? パトナさん、お金の計算は……」

「村ではお金なんて使ったことないし、できないよ」


 マレッド村では、なにをするにもお金なんて必要なかった。

 少なくとも、私が触れる機会なんてなかったのだ。


 ラーンに教えてもらおうとしたら、反対の隣からウィングが口を出す。


「銅はボゼルン、銀はライヴァーズ、金はドルジー、白銀はピアンタル!」

「えっ?」

「渡されたのは2ボゼルンだ!」


 それだけ説明した彼は、もらったお金を手の中にさらっていった。

 言われたのはお金の単位のことだと思う。

 えーと、ボゼルンにライヴァー、ドルチェ、ぴえん……

 なんだっけ?

 まあいいや。


「2ボゼルンで、なにか買えるかな?」

「バカだな、パトナ! これっぽっちじゃなんも買えねーに決まってるだろ?」

「む……だって分からないんだから、しょうがないじゃん」


 ウィングにバカにされると、ちょっとムッとするのはなんでだろう。

 くそぉ……拠点に帰ったら、師匠に教えてもらうんだ。


 ✡✡✡


 ギルドでパーティと別れた私は、熱の冷めないステップで、師匠のところへ帰る。

 ライセンスを無事に手に入れたこと、早く話したくて仕方ない。

 もしかしたら褒めてくれるかな?


「ただいま、ニョッタ師匠!」


 装飾のない拠点の扉を開くと、師匠は前と同じところに座っていた。

 私を見ると、彼女はちょっと眼を見開く。


「……師匠、どうしたの?」

「――あら、ごめんなさい。おかえり、パトナ」


 ちょっとだけ間があったけど、ちゃんと「おかえり」を言ってもらえた。

 それだけで、なんだか特別な気分になる。

 懐かしくて温かい、ささやかな喜びを感じる。


 お母さんがいてくれた頃は、いつもこんなやり取りをしていた。

 それが思い出されて、つい感慨に浸ってしまうのだ。


「ねぇ、師匠! 私ね、ライセンス取ったよ!」

「そう。ひとまず、始まりの関門はクリアですわね」

「うんっ」


 私は頷きながら、こっそり頭を差し出す。

 前みたいに頭を撫でてもらえるかな?

 なんて、子どもっぽい期待をしたのだ。


 待ったけど、残念ながら撫でてもらえない。

 師匠はぜんぜん気付いていないようだ。

 その目線は魔法陣ばかりに行っている。


「しばらくはランク上げに専念しなさい。災厄の封印されたダンジョンは、かなり高レベルですもの」

「……うん。高レベルってどのくらい?」

「8」

「…………うーん」


 まあ、ちょっと目標が遠すぎるよね。

 そこにたどり着いた時じゃないと、褒めてはくれないのだろうか。

 もちろん、褒められたくて頑張ってるワケでもないけど。


 師匠のまっすぐな瞳は、魔法陣だけに向かっている。

 きっと今日は、ずっとそうしていたのだろう。

 今の私では、その姿に一方的な憧れを抱くことしかできない。


「……師匠。私、頑張るね」

「ええ」

「魔法陣、ふたりで完成させようね」

「もちろんですわ。期待してますわよ、パトナ」


 少しも笑わないで、真剣にそう言う師匠だった。

 その言葉が、どれだけ私の励みになるかも知らないのだ。


 うん、『期待』されてるんだ。

 えへへ……明日も頑張ろう。


 ✡✡✡


 翌朝、私はウィングを前にして、成果を披露していた。


「まず、ボゼルンが一番安いお金です」

「おう」

「ボゼルンを十枚集めると、ライヴァーズ一枚分になります」

「おうよ」

「ライヴァーズを十枚集めると、ドルジー一枚分です」

「そうだな」

「ドルジーを十枚集めると、ピアンタル一枚分になります!」

「一日で覚えた……だと……!?」


 師匠に教わったことを活かして、無事にビックリさせられたようだ。

 ふふん、どうよ。

 私ってば勉強家だなぁ、うん。


 そうこうしているうちに、受付のお姉さんが声をかけてくれる。

 彼女は二枚のカードを差し出して、私たちに微笑んだ。


「おめでとうございます! パトナ・グレムさん、ウィング・サンロードさん。あなた方は無事、冒険者として認められました!」


 受け取ったカードには、私たちの名前や性別、現在のランクなどが書かれていた。

 下のほうには小さい字で、なにか注意書きらしいのがある。

 読まないけど。


 よく見ると、カードにはうっすらと正円が描かれていた。

 ただの模様にも見えるけど、さらに眼を凝らすと、いくつかの図形の重なりも見える。

 ははーん、これってもしや……


「お姉さん、これって魔法陣になってるんですか?」

「はい、そうですよ。お気付きになられたんですね」

「えっへん」


 これでも父は天才魔法陣ニスト、師匠はニョッタ・ナグニレンなのだ。

 これくらい、気付いて当然だよね!


「このカードに刻まれた陣は、記載情報の更新を目的としています」

「凄いですね! そんなことできるんですか!?」

「他にも、遺失された場合には持ち主を特定したり、持ち主の居場所を知ることもできます」

「えーっ、まるで魔法みたいですね……!」


 魔法陣ってこんな使い方もできるんだ。

 紙に書くだけじゃないってことだね……

 なんだか、世紀の発見をしちゃった気分だよ。


 改めてカードを眺めながら、色んな感動に浸る。

 するといきなり、ウィングが横から引っ張ってきた。


「いくぞ、パトナ! 次のクエストはレベル3だ!」

「えっ!?」


 彼も嬉しいみたいで、私を連れて掲示板にすっ飛んでいく。

 並ぶクエストをキラキラした眼で見渡して、すぐに一枚を手に取った。


「これ、どうだ!? ダンジョンボスの素材が欲しいんだってよ!」

「ダンジョンボス?」

「ダンジョンで一番強い魔物ってことだよ! コイツを倒せばいいだけだ!」


 内容を見てみると、確かにボスがどうのって書いてあるようだ。

 ランク3の依頼で、報酬はライヴァーズ六枚・ボゼルン三枚……なかなか良さそうに見える。

 ただ、ランク3か……不安だなぁ。


 とりあえず、ラウンジのテーブルで待つラーンたちへ、クエストを持って行った。

 ラーンもセンコウも、あまり良い顔はしない。


「――ランク3ですか。まだ早い気がしますけど……」

「心配すんなよ、ラーン! 俺らなら平気だ!」

「ですが……ランク2と違って、パーティの連携や個々の能力がシビアに求められますし……ダンジョン攻略に慣れてないウィングさんたちには、ちょっと負担が大きいのでは?」

「……おう、まあ心配すんな! いけるって!」


 ウィングの返事は早い。

 ラーンの注意、明らかに聞いてないよね。


 ふたりの会話を、センコウは黙って聞いていた。

 彼は寡黙で、どうしても必要じゃなければ意見を言わない。

 賛成も反対もしない、ということなのかな?


「……ウィングさん、私は反対します。まずはランク2をコツコツとクリアして、地道に――」

「もうランク2はいいって! な、パトナ!」


 ウィングはいきなり、私のほうを振り返る。

 どっちにするか、まだ決めてないんだけど……どうしよう?


「え、えっと……どうしようかな」

「報酬も多いし、冒険者ランクも早く上がるぜ! 行くしかねーだろ!」

「ランクも早く……そっか、そーだよね」


 心配そうなラーンの表情をチラ見しつつも、ちょっと心が揺れてしまう。

 ランクを上げるのが早ければ早いほど、すぐに師匠の役に立てるのだ。

 目標である魔法陣の完成に、効率よく辿り着ける……かもしれない。


《しばらくはランク上げに専念しなさい――》

《期待してますわよ、パトナ》


 師匠はそう言ってた。

 それなら、私は応えなきゃいけないよね。


「行こう、ウィング」

「ま、待ってください、パトナさん……!」

「おう、行こうぜ! 賛成多数で決まりだな!」


 ランク2も不安だったけど、一致団結すればなんとかなったのだ。

 私たちはもう、すぐ解散しちゃうような、ヤワなパーティじゃない。

 きっと大丈夫だよ。


「パトナさん、ランク3は危険です……! クエストランクひとつ上がるだけでも、危険度は段違いなんですよ!」

「だけど、私たちなら……みんなが団結すれば、できないことなんてない。そんな気がするんだ」

「そ、それでも……ダンジョンを甘く見るべきじゃなくて……」

「甘くは見てないよ。私はこのパーティを信じてる」


 どうしてもクエストを受けたくない様子のラーン。

 だけど、私はそれに従う気になれない。

 言った通り、今は自信がついてるから。


「ラーン殿。途中で引き返すことも可能でござる」

「セ、センコウさんまで……」

「止めても無駄でござろう。ならば、身を以て味わうも良し」

「…………そう、でしょうか」


 センコウの言い方は物々しい。

 そんなに危険視することだろうか?

 仮に難しいダンジョンだったとしても、また相談すれば良いだけじゃないかな。

 連携が上手くいけば、このパーティは劇的に強くなるんだから。


「んじゃ、さっそく受けてくる! お前らは準備してこいよ!」

「うん。よろしくね、ウィング」

「街の門前に集合な!」


 元気よく走って行くウィングを見送りながら、私は気合いを入れる。

 今度も絶対にクリアしてみせるんだ。


 ✡✡✡


 かくして、辿り着いたダンジョンの前。

 ダンジョン名、“低級霊の誘引”(ローデッド)

 チラッとイラストを見た限りでは、枯れ木だらけの世界らしい。

 モヤが掛かったみたいに、全体がぼやけていたから、見通しが悪いのかも。


「そんじゃ行くか!」

「あ、ウィング。その前に円陣を……」

「お、そうだな!」


 前にやった通り、みんなで輪になって集まる。

 ビミョーな表情のラーンも、これには素直に参加してくれた。

 でも、センコウだけこっちに来ない。


「おい、センコウ」

「ご免被る」

「ったく……まあいいや。気合い入れてくぞっ、おうっ!!」


 早々に諦めたウィングは、いきなり号令を掛ける。

 私とラーンは、またタイミングを逸するのであった。

 もっと分かるように号令かけてよ。


 ――なにはともあれ、さっそくダンジョンへ。


「……」


 ラーンはまだ不安げな顔をしていた。

 それを見てると、なんだか私まで不安になってくる。

 気を紛らわそうとしてウィングを見たら、彼はとても機嫌が良さそうだった。


 なんだろう、逆に不安になるかも。

 ウィングがニコニコしてると、なにか良くないことが起きる気が……

 いや、気のせいだよ、うん!


「今日の仕事は、骨拾いでござるな……」


 うわあ。

 センコウ、黙っててくれないかな。

この作品が気に入った方は、評価・感想・ブックマーク・いいねなど、応援よろしくお願いします。

そういった反響が、なによりも励みになります。

Kono sakuhinnga kiniitta kataha hyouka,bookmark,good nado ouenn yoroshiku onegaishimasu.

souitta hankyouga naniyorimo hagemi ni narimasu.

That GOOD VIBRATION!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ