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#0 リコレクション

 ちょっと昔の話。


 私のお母さんは、身体の丈夫な人じゃなかった。

 いつも、ほとんど寝たきりだったんだけど……その日だけは、身体を起こしていた。


 お母さんは静かに眺めていた。

 机の上に広がった、大きな羊皮紙を。


「おかーさん?」


 私が声を掛けると、パッと振り向いて。


「パトナ」


 囁くような声で、名前を呼んでくれる。

 今では懐かしい日常だ。


「なにみてるの?」

「魔法陣よ」

「まほーじん? なにそれ?」


 お母さんの膝に覆いかぶさって、幼い私は尋ねる。

 微笑んだお母さんは、少しだけ声を大きくして言った。


「私の夢よ」

「ゆめ?」


 言葉の意味は分からなかった。

 でも、優しい眼をしたお母さんを見れば、意味なんて知る必要はなくて。

 私はただ、笑顔で返事をする。


 背が足りない私は、せっせとイスを登って、机の上を覗き込んでみた。

 羊皮紙に描かれていたのは、謎めいた模様。


「お父さんが描いたの」

「ふーん」

「今は未完成だけど、いつか必ず完成させるって」


 二重の、大きな円。

 その中に描かれた、色んな図形の重なり。

 ジッと見つめていると、緻密さに吸い込まれそうだった。

 瞬きをする。


「いつカンセーするの?」

「ふふ、いつかしらね……」

「?」

「ううん、心配ないわよ。だってお父さん、言ってたもの」


 お母さんの夢がなんだったのか、未だにハッキリと分からない。

 でも、あの時に聞いた一言は、ずっと印象的で……


「――夢は必ず叶う」


 今でも私は、それを覚えている。

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