兄がいなくなった
グダグダと思い出して書いた話です。
思い出補正がかかっているかもですが、おおむね実話のはず。
昨夜、急に兄がいなくなった。
いなくなった、というか亡くなった。
年子で一つ上だから47才。
いや、早生まれだから48才か。
若くもないけど年寄りでもない。
持病があったかは聞いていない。
血圧が高めだが、薬は飲んでいたらしい。
ご飯の時間になっても起きてこなかったから、呼びに行ったらもう冷たくなっていたらしい。
もはや、蘇生うんぬんのレベルではなくて、検死したらしい。結果は夜間の脳内出血らしい。
その前の晩には妹と、おやじの喜寿のお祝いをどこでするか、メールで相談していた。
その翌日に急に死ぬとは、本人もビックリしてるのでは?と、みんなが言っていた。
当然、自分もビックリだ。
大人になり、兄が結婚して家を出てからはやや疎遠になったものの、それでもマンガや小説の貸し借りくらいはしていた。二、三ヶ月に一回会うくらいか。
だからなのか、あんまりというか全然悲しくないのだ。
突然すぎて感情が追いついていないのかもしれない。
特別、仲の良い兄弟ではなかった。
が、別に仲が悪いわけでもない。
子供の頃にはケンカもした。
からかわれて、追いかけ回したのも一度や二度ではない。が、子供の頃の一才差は覆すことは難しく、勝てたためしはない。
それでも、面倒を見てくれた。
親に言われて、嫌そうにしながらも兄の友達との遊びに連れて行ってくれたこともある。
ファミコンの順番でケンカもしたし、テレビのチャンネル争いもした。
負けて電気アンマをされたことも。
(注・電気アンマ。相手を仰向けにして左右の足を脇に抱え、自分の片足で相手の股間を小刻みにマッサージする。力加減によって苦痛にも、くすぐりにも使える必殺技。)
隣町のばあちゃん家に行った時は、もらったお小遣いでガンプラを買って一緒に作った。
で、作ったガンプラで遊んで速攻で壊して怒られた。
何回作ったかな、1/144ガンダム。
ドラクエやFFをやりこんだり、信長の野望や三国志を夜中にテレビの音を消してまで遊んで、見つかって怒られ、ファミコンを親に隠された。
それでも、押し入れの奥、タンスの中、果ては天井裏にまで隠されても見つけて遊んでいたら、最後には根負けして元に戻った。
中学、高校になると、髪を脱色して毎朝スプレーでセットして登校していた。
そのためか、おじさんになった兄の頭髪はたいへん寂しそうにしていた。
具体的には芸人の小杉さんくらい。
卓球部でエースっぽかった。
地区大会では優勝したこともある。
おじさんになったら、ぽっこりお腹になっていたけど。
お腹は小杉さんよりは少ない。
自分は薄情者かもしれない。
またはサイコパスか。
思い出を書き出しても、やはり悲しみは湧いてこないのだ。
死に顔を見ても、よく寝てるな、とか。蝋人形っぽいな、としか思わなかった。
ただ空虚があるばかり。
兄の家族を見る方がきつかった。
とくに奥さんが事務的に動きながらも、時折り涙をぬぐったりしていた。娘二人も神妙にしていた。妹の方は泣いたらしい。
かける言葉が見つからないとはこのことか。
いったん家に兄の棺が帰り、顔を見て線香をあげた。
妹が連れてきた甥っ子がふざけて、自分にちょっかいをかけてくる。
それが少し救いになった。
例によって懲りずに何回もカンチョウしたり、くすぐってきたから、追いかけて捕まえ、動けなくしてからくすぐり倒してやったら、姉妹が笑ってくれた。
なんとなく自分の立ち位置が分かった気がする。
いじられて、笑われて、場を少しだけ明るくできたら、それでいいのかもしれない。
でもね?甥っ子ちゃん。
たまには大人しくしようね?
あいつ、自分には何やってもいいと思ってやがる。
少しは威厳を見せてやった方がいいのか?
まあ、そんなものは持ち合わせていないが。
ハリー・ポッターの映画の最初の作品のラストで、ハリーが家族の写真をもらう時に、「ああ、本当に欲しいのは家族だけなんだろうな」と思って不覚にも泣きそうになったから、涙が無いわけではないはず。
むしろ、子供の頃は泣き虫だった。
転んでは泣き、オバケを怖がっては泣いた。
感情が追いついたら泣けるのだろうか。
余談だが、自分はよく転ぶ子供だった。
いとこが集まって遊びに行く時も、わーっとみんなで走り出した後ろの方でひとり、ズコっとこけていた。
特に地面には何も無いのに。
兄に「よく何もないところで転べるな!」と逆に感心された。
兄は子供の頃から運動神経がいい人だった。
昼間、力いっぱい動き回って、夜はすぐ寝た。
布団に入って数秒で寝たことも。
のび太の昼寝スピードに匹敵するかもしれない。
逆に自分はあまり動かないからか、寝つきが悪く、母を困らせていた。
兄は常に自分の先を行くヒーローだったのかもしれない。
オセロや将棋でも、野球ゲームのファミスタや格ゲーでも兄に勝てたためしがない。
小さい頃にタンスの引き出しを階段状にして登ったのも兄だし、家の裏の窓から塀の上に出て歩いたのも兄だった。
学校帰りに近道を教えてくれたのも、面白いマンガを教えてくれたのも、親のタンスからお金をくすねる方法を教えてくれたのも兄だった。
もちろんバレて、しこたま怒られたのも兄だ。
兄は基本的に明るい性格の人だった。
場を明るくしてくれる。
死んだことも、「わりーわりー、いや俺もこんな急にポックリいくとは思わなくてさ?ははは!悪いけど後のことは頼むわ!具体的には俺の部屋にあるエロアイテムの処理な!欲しいのはやるから、よろしく!」くらいは言いそうである。
めっちゃ想像できてしまった。
もちろん、それはありがたくいただくが。
問題は家族にいかにバレないようにするかだが。
奥さんにはもうバレている気がする。
兄から最後に借りた本は「異世界はスマートフォンとともに」と「デスマーチから始まる〜」の全巻だ。
でかい紙袋に入れて持ってきた。
これを読みながら、思い出にひたろうかと思う。
目尻にほんの少し涙が溜まっているが、悲しくないから目が疲れただけだろう。
あくびでもしたか。または花粉症か。
明日は仕事で、明後日とその次の日に休みをもらった。通夜と葬式のために。
とりあえずは悲しいフリをしながら、ほんとに悲しくなったら泣こうと思う。