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【10/7 コミカライズ3巻発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第一部/表 私の破滅を対価に。

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暴かれた出自。


「出鱈目だわ!」

「いいや。リロウド公爵家は、代々治癒魔法の名家であり、クラーテスは幼い頃から医療に強い関心を示していた。男の身にも関わらず積極的に慰問や診療の手伝いに赴いていた。……出奔の前に、かなりの頻度でお前が暮らしていた養護院にも赴いていたことが、記録に残されている」


 エイデスの糾弾に。

 逃げないように押さえつけられたお父様は、呆然とお母様に顔を向ける。


「おまえ……」

「公爵家の男と、伯爵家の男。エルネストと出会ったのは、街中か? 見た目だけは美しいお前は、二股をかけた。そして、公爵家を捨てて添い遂げようとしたクラーテスよりも、貴族の妾の立場を選んだ」


 エイデスは、うっすらと笑みを浮かべて、お母様を指差す。


「地位を得るためだけに、前夫である急逝した先代伯爵の妻……イオーラの母と婚姻を結んだ、エルネストの妾の立場をな」

 

 それは、ウェルミィが知る事実だった。

 余計な回り道を挟んだが、話が戻って来たことに内心ホッとする。


 イオーラは、お父様の娘ではない。

 記録上はそう記されているけれど、実際はお父様の兄上だった先代伯爵の子だった。


 それをウェルミィが知ったのは、前妻の日記を見つけたからだった。


 赤い、題のないその本を、かつて前妻の部屋であり、お母様が使うことを拒否して埃を被っていたイオーラの母の部屋で、見つけた。

 たまにゴルドレイが足を止めて、ジッと眺めていたその部屋に、ウェルミィは興味を持った。


 何故、父母はお義姉様にあそこまで辛く当たるのか。

 お母様だけではなく、実の父親であるお父様までもが。


 その疑問を解消してくれたのが、イオーラの母の日記に記されていた内容だった。


 突然、夫を亡くした悲しみ。

 身籠った子どもが産まれた後の不安。


 そして、兄に比べるとかなり能力に劣り、遊び呆けていた義弟の提案。


 ーーー自分の妻になり、自分を伯爵と認めるのなら、後継者を生まれた兄の子どもにする、と。


 イオーラの母は、苦悩の末にその要求を呑んだ。

 しかし産後の肥立ちが悪く、伏せってしまい、やがて夫よりも少し遅れて亡くなった。


 心労も、きっとあっただろう。


「婚姻前に身籠ったイザベラと、その腹から生まれたウェルミィ。その時期は、エルネストが伯爵を継いだ時期。……だがそうなると、イオーラの生まれた時期がおかしい」


 お義姉様とウェルミィは、ほんの一ヶ月程度しか生まれた日が変わらない。


「当時から優秀と謳われていた先代と、悪評だらけだったそこの愚鈍。先代夫人がそちらに(なび)いて、不貞を働くとは思えん。イオーラは、先代の子だろう」


 だから虐げた。

 

 それでも、イオーラの母が生きていた当時は、まだ正当な後継者を見守る目が多かった。

 親戚と縁が切れたのは、お母様を後妻に迎えた時だったから。


 だからしがらみが消えた後に、ウェルミィだけを可愛がった。

 そんな自分も。

 

「エルネスト。伯爵家の血を継ぐ者はいても、貴様の血を継ぐ者は誰もいない。ウェルミィは、クラーテスの子だ」


 ーーーああ。


 ウェルミィは、目を背け続けていた事実に、どこか諦めに似た感情を覚える。


 治癒院に、解呪して欲しいと呪いの品を持ち込んだだけの自分に、なぜあんなにもクラーテス先生が良くしてくれたのか。

 出回っている魔導具のほとんどを解呪出来るくらいまで、鍛え上げてくれたのか。


 きっと彼は、調べたんだろう。

 その上で、黙ってくれていた。


 ウェルミィが幸せに暮らしているのなら、それで構わないと、きっと。


 クラーテス先生の人柄は、分かっていたから。

 そう考えているのじゃないかと、思っていた。


 ーーーごめんなさい。


 その娘が、まさかお義姉様を助けて破滅するために、策謀を張り巡らせていたなんて、思ってなかっただろう。


「話はこれでほとんど終わりだが……最後に一つ、残っていることがある」


 そう言って、エイデスはウェルミィに目を向けた。

 

 ーーー私も断罪されるのね。


 ウェルミィは、嬉しくも複雑な気持ちだった。


 クラーテス先生の実子だと判明しても、ウェルミィは伯爵家の娘。

 呪いの品の件で、もしかしたら自分が、正当な後継者であるお義姉様を助けようとしていたことは、バレてしまっているのかもしれないとは思っているけれど。


 だからといって、表面上のウェルミィの行動は、決してそうではない。

 

 お義姉様を、ともすれば死ぬような環境で黙認し、虐待に加担していたとされるような振る舞いを心掛けて来た。

 それ自体は、子どもだったからとか、温情だとかでどうにでもなるだろうけれど。


 お義姉様のレポートを自分のものと偽ったこと。

 その為にお義姉様を脅迫したこと。


 交友関係を制限したこと。


 そして何より、貴族学校の教師陣を欺いたことはーーー確定した事実。


 脱税で確保していた伯爵家の財産を、ドレスや宝石に使い込んだのも、ウェルミィの罪だ。


 赦される謂れはない。


 しかしエイデスは、こちらの手が届く距離に近づいて来たかと思うと、不意に、後ろに目を向けた。


 イオーラお義姉様と、その側に立つカーラ子爵令嬢と、レオ。

 どうしたのかと、疑問を挟む間も無く、エイデスは告げた。



「イオーラ・エルネスト。この場で、私はお前との婚約を破棄する」



 その言葉に。

 ウェルミィの頭は、真っ白になった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・ま、まさか! [一言] まさかの展開。 ウェルミィの華麗な策略がどうなるのか!ハラハラしながら読んでます。
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