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【ノベル7巻4/7発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第六部/表 淀んだ過去の亡霊に。

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亡霊と騎士。

 

『……〝土〟の血統固有魔術と、〝水〟の血統固有魔術が、同時に使用された形跡がある……』


「は?」

 

 エイデスの口にした言葉に、ウェルミィは眉根を寄せた。


 血統固有魔術というのは、『特定の血統を継いでいる者だけが使用可能』な魔術のことである。 


 今エイデスが口にした二種類の魔術は、〝影渡り〟の魔術と〝変貌〟の魔術。


 〝影渡り〟の魔術は、影から影に移動可能な魔術で、人の影に潜む〝影潜み〟の魔術の上位互換。

 〝変貌〟の魔術は、最近実用化された幻影魔術や隠蔽魔術に分離される〝変化〟の魔術と違い、完全に肉体を変化させることが可能な魔術である。

 

 ライオネル王国では、例外的にズミアーノが〝影渡り〟を使えたり、〝水〟の血統を継いでいるエイデスやウーヲンが〝変貌〟の魔術を使えたりもするけれど……出自を誰も把握していなかったり、あるいは隠蔽して逃れていたり、と、契約魔術の縛りを介していない為に行えたもの。


 そもそも血統固有魔術は、国際条約で、大公国国外での許可のない使用が禁じられているものだ。

 制約は生半可なものではなく、魂を縛る契約魔術への署名が必須であり、破れば死が齎される。


 それを。


「二つ同時に使われた形跡があるの? それもライオネル王国内で!?」


 血統固有魔術の同時行使が出来るのは、血統固有魔術を持つ血統同士が合わさった子(・・・・・・)

 あるいは、超常存在が(・・・・・)例外的なこと(・・・・・・)を重ねた場合に限られる筈だ。


 似たような状況自体には覚えがある。 

 【魔王】エイデスの加護を得ていた『ウェルミィ・リロウド』が、エサノヴァの肉体を使用して動いていた時に、同じことをやっていたからだ。


「また、そういうのが関わってるの!?」

「分からん。が、状況はそう読み取れる」


 と、エイデスは口にした後に、ふと廊下の先に目を向けて、そこで動きを止めた。

 視線の先を追うと、シドゥが飛び降りて行ったというテラスが見えて……。



 ーーーそこに、半透明のルトリアノが、立っていた。


 

「「……!!」」


 彼が、スッと角を折れるように姿を消すのと同時に、エイデスが滑るように一気にそちらまで移動する。


 多分、身体強化魔術を使用したのだろうと思ったけれど、ウェルミィには発動した様子すら見えなかった。

 エイデスは曲がり角の方に目を向けて、今度はテラスから裏庭の方を見下ろし、最後に遠景を望む。


 その間に、ウェルミィは彼に近づいた。


「今の、ルトリアノね?」

「ああ」


 他の人達には見えていなかったみたいで、いきなり動いたエイデスに驚いていた。

 この場にはヘーゼルもミザリもいないので、出現条件が違う。


「何で現れたのかしら……」

「誘っている」

「誘ってる? 何が見えたの?」


 エイデスは魔人化しているので、今は人よりも遥かに視界が広いらしい。

 彼は遠くを見つめたまま、ウェルミィの質問に答えた。



「……おそらく、ヘーゼルの居場所を示そうとしている。残留の痕跡を辿るように、ルトリアノも移動しているように見える」


 

 ーーーヘーゼルの?


「なら、確実に危険(・・・・・)なんじゃないの!」


 ウェルミィは、手にした扇を握り締めた。


 ルトリアノは多分、ヘーゼルの身を案じているのだ。

 わざわざエイデスを誘うというのは、そういうことだろう。


「落ち着け。どちらにせよ、お前が走っていけるような距離ではなさそうだ。馬車を用意させる」

「ってことは、私も一緒に行っていいのよね?」

「ヌーアを追わせた以上、お前は私の側にいるのが最も安全だろう」


※※※


「シドゥ! ちょっと止まれ!!」


 王城内の兵士達の目を逃れながら魔力の痕跡を追っていたシドゥは、旧友の気配を後ろに感じながら、王城外に向かう外壁の前で立ち止まった。


 流石にこれを乗り越えると、魔導陣による警報が発動してしまう。


「丁度いい、アダムス。王室権限でそこの通用門から俺を通せ」


 多分、部外者が勝手に動き回っているのを聞いて好奇心から動いたか、シドゥだと聞いて追ってきたかのどっちかだろう、と判断して振り向くと。


 そこには予想通り、アダムスが立っていた。

 前に顔を合わせたのが奥方様が昏睡なさった時だったので、話をしたのは割と最近である。


「会っていきなりだな、オイ」

「時間がない。ヘーゼルが拐われた」


 痕跡は、時間が経つと消えるのだ。

 すると呑気な様子だったアダムスが、一瞬で表情を引き締めた。


「王城から?」

「誘拐犯を逃がしたとなれば、王家の権威には傷がつくな」

「そりゃ由々しき事態だ。よし行こう」

「いや、通してくれたらいいだけだが」


 王妹の伴侶がほいほい外に出るな、という意味で言ったのだが、アダムスは別の意味に取ったようだった。


「ああ、そうだな。ヒャオン、流石に今回は城に残っててくれ」


 すると、アダムスの()から、ぬっとヒャオン殿下が現れる。


「!?」

「何で?」


 相変わらずぼんやりした様子の彼女が首を傾げると、アダムスは当たり前のようにこう口にした。


「遊びじゃ済まなさそうだからだ」

「帰ってくるなら待ってる」

「そりゃ帰ってくるよ。出来たら晩飯までにな」


 ヒャオン殿下は、ゆるゆると頷いた。


「なら、アダムスの部屋でお昼寝する」


 そう言って去っていく彼女を見送るでもなく、アダムスがポン、とこちらの背中を叩いた。


「急ごう」

「おい、本当にいいのか?」


 実際急いではいるので、歩き出した彼についていきながらシドゥが問いかけると。


「友人の恋人が拐われたんだぞ。しかも自分の家から。動かなきゃ嘘だろ」


 ツルギスと同じ顔で、同じような選択をするが、しかし全く中身が違う友人は軽く肩を竦める。


「誰を敵に回したのか、教えてやろうぜ。最強のチビちゃんよ」

「また懐かしい呼び名だな……」


 大昔に、からかいとやっかみ混じりにつけられたあだ名を聞いて、シドゥは意識を切り替える。


「ぶち殺さないように気をつけるよ」

「そうしてくれ。犯人の目的が分からないとまたややこしくなるからな」


 そうして、シドゥはアダムスと共に城外に出ると、さらにヘーゼルの追跡を続けた。

 


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