表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ノベル7巻4/7発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第六部/表 淀んだ過去の亡霊に。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

189/192

恋人からの贈り物【後編】


『ちゃんと体が治って、君が良ければ。俺と、結婚してほしい』


 そう言われて、ミザリが目を見張った。

 まんまるの目のままで、巾着袋とウーヲンを見比べている。


「君の返事が、俺にとって色良いものなら。その時に、俺はこの実を、指輪にしてもらおうと思う」


 ミザリの左手の小指には、ピンキーリングが嵌まっている。

 『幸福は左手の小指から流れ出す』と言われており、ウーヲンがそれを逃さない為に作って欲しいと願い、お義姉様が【整魔の腕輪】と同様の効能を持たせたもの。


 意匠は紫月花ハイドラ

 水瓶の意を持つその花の花言葉は『美しく儚いもの』と『水面の如く揺れている』、である。


 ―――『美しく儚い貴女の幸せが、逃げてしまわないように』。


 さらに、夜に花開く紫月花ハイドラを男性から女性に贈る時の、恋にまつわる花言葉は……『微睡むように柔らかな恋を』。


「ミザリのことを知った後、ずっと考えてた。俺が自分の力で、君に出来ることを。そうしたら、イングレイ爺さんがヒントをくれたんだ」

 

 それが、【賢者の石】を作り出すきっかけになった、と。


「君の体を治せるかもしれない、と言われた。だから、土いじりしか出来ないこの手でも、出来ることを頑張った。ミザリの左手の薬指に、俺から贈るのに相応しいものを、って」


 ウーヲンは、大公国〝水〟の公爵家の血統であり、それが判明した後から、生活に困らないだけの金銭を贈られている、と聞いていた。

 なのに、基本的にはそれに手をつけず王妃の庭師として働いているから、お金は十分にある筈だ。


 でもきっと贅沢なものではなく、ウーヲンはミザリに『真心』を送りかったのだろう。

 ウェルミィには、そう感じられた。


「ミザリの傷が、全部、本当に癒えたら……その時に、返事を聞かせてくれないか?」


 話すのが苦手な彼らしく、言いづらそうに。

 けれどきちんと伝えたいことを言い切ったウーヲンに、ミザリはまた、涙を溢した。


「そんなの、無理だよぉ……」

「……ダメか?」

「違うよぉ!! ミザリ、そんなの待たないよぉーーーー!!!」


 ミザリは、膝をついたウーヲンに飛びつくように抱きついた。


「うぉ……!?」

「すぐしよぉ〜〜〜〜〜!! ミザリ、ウーヲンと結婚するよぉ〜〜〜〜!!!」

「いや……もうちょっと、考えても」


 受け止めたウーヲンは姿勢を崩しかけたが、そもそも庭師は体力仕事である。

 体がしっかりしているので、倒れ込むようなことはなかった。


「考えなくていいよぉ〜〜〜!! ミザリ、ウーヲンのこと好きだもん!!!! 嬉しいよぉ〜〜〜〜!!!」

「……そ、そっか。ありがとう」

「ミザリこそ、ミザリを好きになってくれてありがと〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


 わんわん泣かれて、困ったようにこちらを見るウーヲンに、ウェルミィはお義姉様と目を見交わした。


「邪魔みたいだし、おいとましようかしら」

「ええ」

「いや、ちょっと」


 狼狽えるウーヲンに、ヘーゼルがちょっと気恥ずかしそうに目を逸らして、シドゥがおかしそうに吹き出す。


「……もっと人目のないところでやってくれない?」

「くっ……幸せにな、お二人さん」


 そうして、ウーヲンの訴えは聞かずに、ウェルミィ達は二人を残して部屋を出る。

 オルミラージュ本邸の私室に帰り、シドゥとも別れると、二人きりになったヘーゼルがポツリと呟いた。


「結婚、かぁ……」


 その声音に、ちょっと羨ましそうな気配を感じて、ウェルミィは反応する。


「あら、ようやくその気になった?」

「ち、違ッ……そういう意味じゃないわよ!!」

「あらそう?」


 ーーー素直じゃないわねぇ。


 まだ焦らす気らしいヘーゼルに、ウェルミィは片眉を上げる。

 

 ーーーシドゥも大変ね。


 はたから見たらどう考えても添い遂げるようにしか見えないのに、いつまで意地を張るのだろう。

 シドゥにちょっと同情しながら、ウェルミィは面白いのでさらにヘーゼルをからかう。


私がエイデスを(・・・・・・・)誘惑した(・・・・)時なんて、まだ19だったんだけど」

「誘……!?」


 顔を真っ赤にするヘーゼルに、ウェルミィはふふん、と胸元に手を添える。


 あの時は必死だった。

 お義姉様を助ける為に何を差し出せるのか、と問われて、ウェルミィはこう答えたのだ。


『この体くらいしかないわよ。でも、少しは楽しめると思わない? ……お義姉様には劣るけど、それなりに綺麗でしょう?』


 と。

 その後、実際に二人きりになったら恥ずかしがってしまったのだけれど、そんなことヘーゼルは知らない。


 ウェルミィは自信満々な態度を作って、そんな事実はなかったかの如く煽っていく。


「グズグズしてると、逃げられても知らないわよ? シドゥはいい男じゃない。背が低いのが気になってるのかしら」

「そんなこと、気にしてるわけないでしょ!!」


 ーーーまぁ、知ってるけど。


 ヘーゼルが恋心に自信が持てない頃から相談に乗っていたので、当然のことである。

 でもこの子は、ちょっと強めに色々周りから刺激が入ると頑張れるけど、落ち着いてくると尻込みしてしまうタイプだ。


 多分、ヘーゼルの中での結婚生活そのもののイメージはもう悪くない、と思う。

 グリンデル伯爵家の家族生活のイメージは散々なものだっただろうけれど、ウェルミィやお義姉様を見ているのだから、幸せなもの、という意識もある筈だ。


 シドゥに問題があって上手くやれない、と思っている訳でもないだろう。

  ただ、自分がそうなれるかどうか、については、きっとまだ迷いがある。


 ーーー色々無くした経験、って、やっぱり人を臆病にしちゃうものね。


 ヘーゼルとシドゥが結婚したって、多分オルミラージュでの生活も二人の関係性も、何も変わらないのだけれど。

 そこまで意識が及んでいないまま、今までズルズル来ているのだから。


 今回のことは、いい機会である。


「別に結婚したってクビにしたりしないから、本当にちょっと前向きに考えてあげなさいよ」


 それに対して、ヘーゼルは返事をしなかった。

 代わりに、ちょっと不貞腐れたように横を向いたので、ウェルミィは肩を竦めた。

 

【おまけ】


 ーーー後日。


「そういえば、ウーヲンって何であんな狼狽えてたのかしら? ミザリって泣く時ウーヲンに会いに行ってるって話だったのに」

「気になりますか?」

「シドゥは知ってるの?」


 すると、彼は面白そうにこう教えてくれた。


「『悲しくて泣いてる時はただ側にいたらいいけど、嬉し泣きされたらどうしたらいいか分からなかった』んだそうですよ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ