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【ノベル6巻発売中!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第六部/表 淀んだ過去の亡霊に。

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王妃付き侍女の心傷。

 

 ーーーオルミラージュ侯爵邸で起こった【幽霊事件】の翌日。


 ウェルミィが、昨日の夜に『話があるので明日訪ねる』と伝令を寄越したお義姉様を、心配半分嬉しさ半分で待っていた。


 お義姉様は妊娠しているのである。

 ウェルミィと違ってつわりが重いタイプではないらしいので、ある程度は大丈夫だとは思うけれど。


 そんな風に思いながら、ヘーゼルと彼女の警護をするように命じた私設騎士団副長のシドゥを伴って、お義姉様を出迎えたのだが……。



「「ミザリが倒れた……!?」」


 

 応接間で、正面のソファに腰掛けたお義姉様に伝えられた用件に対して、問い返す声がヘーゼルと揃った。


「ええ。……あの子の『心的呪痕(トラジカ)』が、ぶり返してしまったようなの。フラッシュバックが酷くて……今、ウーヲンの側で安静にして貰っているわ。ニニーナ夫人にも助力をお願いして、明日には王宮に来ていただけるみたい」


 ーーー『心的呪痕(トラジカ)』。


 それは、呪障の一種だった。

 簡単に言うと、魂魄、精神、肉体を繋ぐ魔力脈の呪術や瘴気による損傷と、それに伴う精神の変質、という症例全般を指す言葉である。


 戦場での人体魔力脈汚染や、瘴気滞留地域での大規模呪的災害以外で認定されるのは、極めて稀なケースだと聞いていたけれど、ミザリはそれに該当していた。


 あの子の精神と肉体は、呪いの魔導具によって一度破壊されかけていたのだ。


 呪具による長期的な負荷に伴う魔力脈断裂、が直接的な要因なので、テレサロの治癒と試験段階の治療系魔薬による治癒促進で健常な状態に近づいていた……筈なのだけれど。


「アロイ。ミザリは、完治したんじゃなかったの!?」


 ヘーゼルがウェルミィより先に問いかけ、身を乗り出そうとしたところをシドゥに留められる。


「心配なのは分かるが、一応、奥方様と王妃殿下の御前だぞ」

「構わないわよ、シドゥ」

「ええ」


 ヘーゼルは使用人である前にウェルミィ達の友人だし、この子にとってミザリは、いがみ合ったりすることはあれどお互いに特別な想いを抱く、義姉妹なのだ。


 シドゥも十分にそれを知ってはいるけれど、立場上注意しなければいけなかったのだろう。

 ウェルミィがシドゥに伝えてお義姉様が頷くと、『はっ!』と生真面目な返事の後、ヘーゼルの前に差し出した腕を引っ込めた。


 それを見て、お義姉様が小さく首を傾げながら、改めて口を開く。


「ヘーゼル。ミザリの症状が完治することはないわ。魔力脈の断裂は、現代医学では完全に治療することが困難な問題なの。けれど、寛解かんかいはしていたのよ」

「……何が違うの?」

「寛解、というのは、治療で症状が日常生活に支障がないくらいまで、安定した状態のことよ。完治じゃないのは、再発の可能性が残っていて、治療の継続や定期的な経過観察が必要な状態だからなの」

「安定していたのに、いきなりぶり返した、ってこと?」

「検査したけれど、魔力脈断裂の状態が悪化したわけではないわ。でも、ミザリの精神体は突発的な衝撃に弱いままだから、一度症状が起こると、『心的呪痕(トラジカ)』特有の悪い精神状態になってしまう可能性が高いの。今回は最悪に近い状態を引き当ててしまったのよ」


 お義姉様は努めて冷静に説明してくれているけれど、ミザリの身を深く案じているのが、瞳の揺れ具合からよく分かった。


 ーーーお義姉様も、お腹に子どもがいるのに……!


 先日のウェルミィの件もそうだけれど、お義姉様自身にも、あまり精神的に負担がかかるような出来事は起こってはいけない時期である。


 〝精霊の愛し子〟を継ぐ子だし、お義姉様は王妃なので、そうそう流産なんて事態にはならないとは思うけれど……だからこそ、次から次へと問題が起こる時期なのかもしれなかった。


 お義姉様のお母様、ローラ・エルネスト夫人も、妊娠中の夫の死去やその後のサバリンの件などもあって体を壊した可能性が高い。


 ーーーどうにかしないといけないわ!


 今のところ大事には至っていないが、こんなことが続いてお義姉様が倒れてしまったら、それこそ一大事である。

 なのでとりあえず、お義姉様自身にも苦言を呈することにした。


「そんな用件なら、わざわざ出向いて来るんじゃなくて、最初から私たちを呼び出したら良かったじゃない!」

「ウェルミィだって、無理出来る状態じゃないでしょう?」

「私はめちゃくちゃ元気なの!! それより自分の体と心を労わりなさいよ! 私を出歩かせるのが嫌だったら、それこそ手紙で済ませたら良かったでしょ!」


 ウェルミィが叱りつけると、イオーラお義姉様が顎を引いて上目遣いになる。


「……手紙で伝えたら、絶対王宮に来るじゃない?」

「当たり前よ!!」


 即答すると、ヘーゼルが呆れ顔で口を挟んでくる。


「だからアロイはわざわざ釘刺しに来たんでしょ……でも、あたしの気持ち的にはミィに同感よ。この通り、うちの女主人はすこぶる元気なんだから」

「……そう、みたいだけど……」

「だけど、じゃないのよ!」


 まったく、とこめかみを指先で撫でてから、ウェルミィは改めて問いかける。


「で、ミザリは何でいきなりそんな状態になったの? 何もなくてそうなったわけじゃないわよね?」

「なることもあるけれど、今回は明確に理由があったわ。わたくしもミザリから聞いただけだから、事実かどうか分からなくて……ただ、 この件についてはそれを直接話しておきたかったのよ」

「何があったの?」


 ウェルミィは、何だかちょっと嫌な予感がしつつ、お義姉様に問い返す。


 ーーーまさか、とは思うけれど。


 こういう時の予感は当たるもの、と言い始めたのは、一体誰だったのだろうか。

 知らないけれど、ウェルミィの予想は的中してしまった。


 お義姉様は真剣な表情で、こちらとヘーゼルの顔を交互に見て、歯切れの悪い口調でこう告げた。



「ミザリは王城内で……トールダム・グリンデルと遭遇したのよ」


 

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