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【ノベル6巻発売中!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第五部/裏 わたくしからの贖罪を。

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竜騎士隊隊長と、愛騎。


 一方、ライオネル王都。


 南部辺境騎士団竜騎士隊隊長アーバイン・シュナイガーは、ライオネル宰相シゾルダ・ラングレー閣下の下命を受けて、相棒の元へと歩いていた。


 城を出て竜舎に向かおうとすると、あいにくの雨である。

 いかに空を飛ぶのが陸を行くよりは早いとはいえ、視界は悪くなるし、外套に雨が染みれば冷えて体力を奪う。


「運が悪いな……」


 そんなことを言っている場合でもないし、自分の運など命を拾ったあの時に使い切っている。

 アーバインはそう思っていたので、軽く愚痴を漏らすだけに留めた。


 ―――ウェルミィが。


 彼女が命の危機に瀕している、と聞いて、アーバインは何とも言えない気持ちになった。


 ウェルミィに失恋したことなど、既に十年以上も前の遠い過去だ。


 何なら、その後に起こったことへの苦い思い出と、あれから色々……本当に色々……特にゴルドレイ伯父貴とレイデンの地獄のしごき……があったので、正直あの頃の気持ちは思い出せないくらいに朧げである。


 勿論、貴族学校で過ごした四年間の記憶も、【断罪の夜会】での彼女の顔も、謝罪の時の嫌そうな顔も覚えてはいるが、それだけ。


 が、アーバインは彼女に恩がある、と思っていた。


 貴族牢でのオルミラージュ侯爵との面会で、彼の薫陶を受けたこと。

 その後、自らの意思で南部辺境伯領へ赴いたこと。


 それらがなければアーバインは、人間として『終わっている』ままだっただろう。


 今は妻であるクレシオラと出会うことも、なかった。

 愚かだった自分は、彼女がいなければ間違いなく、この場にはいなかったのだ。


 竜舎の中に入ると、相棒が顔を上げてこちらを見る。

 南部辺境伯領で出会った白い飛竜、ハクアだ。


「ハクア。聞いて欲しい」


 相棒が首を傾げるのに、アーバインは真剣な目で伝えた。


「俺とお前を出会わせてくれた恩人の、命が危ない。一度南部辺境伯領に、そこから大公国に全力で飛ばないといけないんだが……付き合ってくれ」


 いかに飛竜の体力であろうと、過酷な日程である。

 騎士であるアーバイン自身も、下手をすると全ての命令を終えた後に、疲労で動けなくなってもおかしくない。


 ―――アーバイン、飛ブ?


「そうだ。助けたい人は、大切に思っている人がいっぱい居る人だ」


 ―――アーバインモ、大事?


「……そうだな」


 アーバインは、苦笑した。

 謝罪以降は、大公国でも新年の夜会でも遠目に何度か見たが、言葉も交わしていない。


 が、話題に事欠かない女性であり、噂は幾らでも聞こえてきた。


 特に大公国の一件以降、辣腕の外務卿夫人にして〝悪の華〟であるウェルミィ・オルミラージュは、諸外国にも名を轟かせている。

 だが、そんな国家の要人であるという点を抜きにしても。


「大切な人だよ。クレシオラと、ハクアの次くらい……辺境伯領の皆と同じくらいに、大切な人だ」


 ―――分カッタ! ハクア、頑張ル!


 バサッと翼を広げる相棒の体を、笑みと共にポンポン、と叩く。


「ありがとう、ハクア」


 そのまま支度を整えたアーバインは、道中の食事と水分を使用人から受け取って雨の飛行場に出ると、ハクアに跨って竜頭を模した兜の風除けをガシャン、と下ろす。


 休憩はなし。

 速度は最高速。

 天候は雨。


 状況は最悪、だが。


 ―――本当の最悪に比べたら、大したことじゃねーよな。


 自分の愚かさに打ちのめされる絶望に比べれば。

 そんな自分を押さえつけて打ち直す道程に比べたら。


 希望を届ける為に、ハクアと共に飛ぶ道のりが悪い程度のことは、困難の内にも入らない。


 ちょっと頑張れば(・・・・・・・・)、何とかなるのだから。


 それを何とか出来る力が、今の自分にはある。

 一人きりではなく、ハクアもいる。


「行くぞ、相棒!」


 ―――任セロ!


 曇天に向かって、一声高く吼えたハクアと共に、アーバインは飛び立った。


 目指すは、南部辺境伯領。

 与えられた使命は、ウェルミィの命を救える者への伝令。


 ―――これでちょっとは、借りを返せるだろう? ウェルミィ。


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