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身柄の行く末。


「若い頃の私は、浅はかで見る目がなく、そして愚かでした」


 公爵家との縁を切って平民になり、孤児だった強かなイザベラに裏切られたクラーテス先生。

 

 お母様ならやりかねない、とは思ったけれど、平民だったのに、公爵令息と伯爵家の次男坊を手玉に取った手腕だけは、ある意味評価出来る気がした。

 

 悪い方の手練手管だけれど。

 ウェルミィの行動力は母親譲りなのかも、と思って複雑な気持ちだった。


 外から見れば、自分も同じようなことをしていたのだから。


「彼女を認めなかったリロウドの家の方が正しかったと、直後に思い知るとは考えてもみなかったですけどね。結果的には、良かったと思っています」

「貴方は昔から、公爵家を継ぐのを厭うていたからな」


 おそらくは、クラーテス先生と、エイデスはひと回りに届かない程度には離れているだろう。

 エイデスとレオも、多分同じくらい離れている。


 レオがエイデスに気安いように、クラーテス先生とエイデスの間にも、立場の違いはあれど同じ空気が漂っていた。


 落ち着いた兄とヤンチャな弟。


 ーーーまぁ、公爵家を出て平民になるなんて無茶を見ると、もしかしたらこの三人は本質的には似たもの同士なのかも。レオも、結局お義姉様に止められなければ動こうとしてたみたいだし。


 と、それぞれに見栄えは全く違うが、美形な三人について考えていると。


「他人事のような顔をして、礼儀知らずなことを考えていそうだが、ウェルミィ。この中で一番無茶苦茶なのはお前だぞ。さすがクラーテスの娘といったところだ。なぁ、義父上?」


 突然エイデスに水を向けられて、ウェルミィは顔をしかめた。

 チラリと見上げると、クラーテス先生も同じように苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「あんな大ごとにしたのは、私じゃなくて貴方でしょ! エイデス!」

「君に義父上と呼ばれるのは、出来れば遠慮したいね……」

「ダンスの後に、口火を切ったのはお前だろう、ウェルミィ。そして、彼女は私の妻となるんだぞ、クラーテス。立場上全くおかしなことではない」

「それでも、だよ、エイデス。遠慮したいものは遠慮したい。一度平民になった公爵家の長男が、魔導爵にそう呼ばれるなんて恐れ多くてね?」


 義父と呼ばれるのが嫌なのは事実だろうけれど、後半は軽口の類いだと思う。

 そんなクラーテス先生とエイデスにそれぞれに顔を向けて、ウェルミィは眉尻を下げた。


「あの、それのことなんですけど……」

「何だウェルミィ。お前が今更敬語など、猫を被っておねだりでもするのか?」

「く、クラーテス先生と貴方が話してたから混じっただけよ! そうじゃなくて……身分が……」


 とウェルミィが口にする意味を、当然その場の人間は全員悟っていた。

 エルネスト伯爵家が取り潰しになることがほぼ確定している以上、イオーラお義姉様とウェルミィの身分は平民になってしまう。


 そうなると……一万歩ほど譲った上で、お義姉様が良いと仰るのなら……彼女がレオの婚約者となることも。

 ウェルミィが約束通りにオルミラージュ侯爵家に嫁ぐことも、非常に難しい問題になってしまう。


 口籠ったウェルミィに対するエイデスの返答は、ごくあっさりしたものだった。


「平民になる前に、婚姻を結んでしまえばいいだろう。エルネストの爵位と領地は、一時的にイオーラ嬢の預かりとなるように根回しを進めている」

「え?」

「領地管理や引き継ぎ資料の整理について、最も熟知しているのが彼女だ。国に爵位を返還するにしても、王室の管理になるのか別の領主に褒美として賜るのかで時間も必要だろう」


 その為に、イオーラお義姉様が一時的にエルネスト女伯になるそうだ。

 本人は承諾しているようで、ニッコリと頷いた。


「領地を引き継げば、後は爵位だけ持ってレオと婚約すればいい。それで解決する」

「え、でも、私の方は……」


 ウェルミィが血筋を理由に継承権を失うのなら、縁戚上の扱いはどうなるのだろう。

 離縁を申し渡された訳でもないから、そのままお義姉様の妹として婚約するということだろうか。


 そう伝えると、エイデスは呆れ返ったような顔で深く息を吐いた。


「私が君を認知するよ。リロウドの家と和解した時に、浮いていた領地なしの伯爵位を押し付けられたからね。証拠があるから、縁戚上も、養子ではなく実子として認められるはずだ」

「……クラーテス、先生の?」


 まさかそんな事を言ってもらえるとは思わなくて、ウェルミィは戸惑う。

 確かに私はクラーテス先生の子どもかもしれないけれど、同時に母イザベラの子でもある。


 彼を裏切った女の、産み落とした子どもだ。


「……君は、自信満々なのか、自己肯定感が低いのか、よく分からないね?」


 クラーテス先生は苦笑して、ウェルミィに近づいて膝を落とし、ぽん、肩に触れられた。


「君が実の子ではないかと魔力波形解析をしたのも、君を弟子として受け入れて育てたのも、私だよ。たとえ血の繋がりがなかったところで、可愛くて優秀な弟子を見捨てるような師に、見えていたかな?」


 そう問われて。

 ウェルミィは何故か、また涙がじんわりと滲んで来た。


 どう言葉を返していいか分からず、視線を彷徨わせた後に。

 おずおずと、微笑みを返す。


「あ、ありがとうございます……お父様」


 小さくつぶやくと、なぜかピシリと、クラーテス先生が固まり、それから破顔した。


「いや、悪くないなこれは」

「?」

 

 彼がそう漏らすと、周りの皆も口々に言い出す。


「昔見せてくれた照れた笑顔と変わらないわね、ねぇオレイア……わたくしの妹は、なんて可愛らしいのかしら……」

「ええ、ええ、本当に。またウェルミィお嬢様のこんな笑顔が見れるだなんて。ねぇゴルドレイさん」

「ほんに。感無量にございます」

「普段は他人を見下したような笑顔しか見せなかったくせに、こうして見るとイオーラによく似てるな」

「血の繋がりはないのに不思議ですね、殿下。いつもああいう顔をしていれば良いのですけれど」


 そして最後に、エイデスがどこか皮肉げな笑みを浮かべ、それでいて温かな眼差しをこちらに向けてくる。


「我が妻は、皆に愛されているな。あまり殊勝でも面白くないから、私の前では不遜に振る舞え」


 ーーー皆して好き勝手言って!


 居た堪れなくて顔を真っ赤にして、ウェルミィは俯いたが。

 それでも、そう、悪い気分じゃなかった。

 

次話エンディングです!


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妹かわいい(*´ᯅ`)⁄(•v⁄•,⁄)⁄ 親のヤバさを知り異母(だと思っていた)姉を守るために自己の立場を貶めて嫌われても構わないからと奔走した健気な妹本当にたまりません
[気になる点] そういえばあの断罪劇の後、社交界ではどーいう話が広がっているのかな。 下手したら新聞記者(がいるとして)を通して庶民の間にまで広がっていそうなものだけど 英雄譚ならぬ女傑譚、みんな大…
[一言] 結局クラーテス先生は女性を見る目があったような気がする。なんとなれば、ウェルミィみたいな素敵な娘が生まれて来たんだから。
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