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蒼天のむこうがわ  作者: 天野未晴
蒼天のむこうがわ
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旅立ち

 雲一つないいつも通りの空が広がる皇居の中庭に作られた私達2人が余裕をもって立てるけれど、特別大きくはない舞台は、白木が綺麗で良い香りのする装飾のほとんどないシンプルな物だった。

 本番当日にこの白木の舞台らしき物を見て、新たな木を切りださせて申し訳ないと思ったり、こじんまりした大きさしか作れないわよね、と納得したりもあってマジマジと舞台を眺めてしまった。

 うん、こじんまりとしか表現のしようがないかもしれない。

 だって私達が横に並んで立ったらもう一人乗るのがギリギリな程度のスペースしかないんだもの。これはどの方向を向くのが正解なのだろう?

 説明があるのかと思っていたら案内の女官が無言のまま我々の手をとって誘導してくれて一緒に壇に上がったのに、彼女達は静々と壇を降りてしまい、その間に見送りに集まっていた大勢の人々を誘導していた数人の誘導員に合流してしまっていた。

 声を発するのがもったいないのかと思うくらい最後まで無言な人達だなあと感心してしまった。

 鷹様が落ち着いていたからこの人達の行動はこれで大丈夫なのだろうな、とは思ったけど。

 その時我々の壇の下に斎の宮様のお付きの方が近づいていらして、小さい声で

「そろそろお時間です、言葉を交わされる方がいらっしゃいましたら、今のうちに」

 と囁いた。

 さすがに都の住人全員ではないでしょうけれど、かなりの人数が押し合いへし合いしている皇居の庭なのに、あまり話し声は大きくなく、意外と静かである。

 壇の上からはその人々が遠くまで見えるが、彼等のいる一番前に陣取っているのは皇族と東西の1位の家の者と東の3位の家の者だ。

 我々の位置からすると家族はすぐ目の前で、少し声を張れば簡単に声は届いてしまうと思える。

 鷹様は宮様のお付きの方に軽く頷き、私も丁寧に頭を下げた。

 まず宮様のご前の方を向き、壇の上からにはなるが腰を屈め頭を下げ、これまでお世話になりました、これから行って参ります、と型通りの挨拶を行う。

 泣くことを耐えているお顔の宮様と私は目をしっかり合わせてお別れの一瞬を惜しみつつも視線に思いを乗せる。お元気で、元気でね、と思いを伝えたつもりで、次はお隣の帝を見る。横に立つ鷹様がどのタイミングで帝に視線を移したかは見ていないけれど、たぶん私とタイミングは合っていると思う。

 帝には鷹様が言葉をおかけした。付き合いの長さも会談の回数も鷹様の方が段違いに多いからかなりの時間を鷹様にお願いした。その分、親王様には私が多く声を掛けた。マニュアルがあるからそれを頼ってねと言っておく。ワンワンと声を上げて泣く親王様を帝が抱き留めてくれているのが印象的だった。お二人は、気を付けて行ってくるように、と仰られた。「ありがとうございます、行って参ります」と2人で頭を下げる。

 それから皇族の皆様よりも少し後方には西宮司家の皆様と使用人の皆様、鷹司家と使用人の皆が。更に後ろには東之条家の皆様と使用人の皆様。それぞれ一言ずつ我々と言葉を交わしあった。

 今日、皇居に集合する前に数日間に渡って別れは散々にしてきたのだけど、それでもやっぱり別れ難くて、だから時間が許してしまうとズルズルとその瞬間を引き延ばしたくなってしまうので、いっそ一言で終わらせるのが良いのだと自分を納得させてここに来た、はず。

 なんだけどなあ‥‥‥。

 皇宮の医療部の皆様は皇族の方々の後ろにいらっしゃったので、お世話になったと挨拶が出来て良かったと思えた。

 その近くには飛来様もいらっしゃって、本当に私がこの世界に来て以来に知り合った方々が勢ぞろいされていた。

 鷹様のお母様の姿だけはなかった。鷹様ご自身が彼女に会いたくないと希望されたらしい。

 物心ついてからは彼女と接触した記憶がないから今さら会いたくないし、もしもこんな場に招いて逃亡されることを気にされたらしい。

 鷹様はご家族はもちろんだけれど、職場関連の方々にはとても笑顔で接していらっしゃった。あまりこれまでに見せたことのない優しい柔らかい笑みで、最後までずっとその笑顔をキープされていて、これまでのイメージを一新されたような方もいらっしゃった。

 特に見つめあっていらっしゃったのは、やはり敬様だった。ご家族よりも長い時間と経験を共有されていらっしゃたのだから、やはりとは思う。

 私は沙羅様とは言葉よりも時間を長く見つめあってしまった。もうなんと言っていいかわからなかったのだ。でも視線はそらせなくて、見つめあうしか出来なかった。

 でも時間の制限はあって、観客を誘導していた女官さん達から「そろそろお時間です」という声が再びかかった。

 この壇に上る事は自分で選んだ決断なのに、いざというと少し躊躇ってしまうが、だからと言って鷹様を置いて降りる気にはなれない。

 だから鷹様と向かい合って抱き合った時も、絶対に離れないという意思を持って自分なりに渾身の力を込めて抱きついた。

 鷹様はこのお別れの時は、ただひたすらに最後まで柔らかい表情のままで笑みを崩さずに私の横で付き合って下さった。なにしろ私のほうが挨拶をした方の人数は多かったので正に付き合って下さったのだ。

 そして愈々の時には沙羅様の泣き声に送られながら

「敬様との結婚式に参列できなくてごめんね」

 と顔だけそちらへ向けて言ったら、彼女はもう立っている事も叶わずに泣き崩れてしまって東様に支えられている姿が目に焼き付いてしまった。

 そろそろ正午だという事は合図があったので理解できたが、泣かずに淡々とした表情で乗り切ろうと思ってこの場に臨んだのだけれど、涙ナミダの周囲の状況に勝てるわけがなくて気付いた時には泣いている状況だった。

 正午になったと同時だと思う。

 カッと周囲が明るくなった。

 正午の太陽よりも明るい光が私達2人のいる壇上のどこからともなく更に明るさを増していき、あまりの眩しさに目を開けていられなくなったので、咄嗟に目を瞑って鷹様の肩に顔を押し付けてしまったら、鷹様も私の肩に額を当ててきた。なのに周囲からは音が消えている感じがある。

 少しの浮遊感を味わった後、閉じた瞼の隙間から光が消えた感覚がした。少なくとも破壊的な太陽の何倍もの明るさではなくなったように感じて不安になって目を開けてしまうと、そこは薄い緑の世界だった。







 







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