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蒼天のむこうがわ  作者: 天野未晴
蒼天のむこうがわ
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結婚式

 参列者に皇族がずらりと並び、帝が乾杯の音頭を取って下さり、東西の有力者が顔を揃え、ここへ呼ばれなければ貴族とは言えないのでは?というくらいの豪華な顔ぶれがずらりと並んでいた。もちろん私は見かけた記憶もない方もいらしたが。

 滅多に振舞われないお酒が振舞われ、なかなかお目にかかれない鷹司家の新鮮な野菜が並び、都中の

平民の家々にも特別に何かしらの品が配られたというのだから、通りかかった道々では見知らぬ人々から拝まれてしまった。

 結婚の披露宴は皇居で行われたが、お披露目という名のパレードは都中を1日かけて回ることになった。  

 パレードに1日、披露宴に1日、酔い覚ましに1日、と3日もかけて結婚式が行われたのは前代未聞だったらしい。私も生まれてこのかた聞いた事がない。

 披露宴では沙羅様とお兄様が大泣きしてしまって、私は涙が引っ込んだ。

 他の人に泣かれてしまうと当人は冷静になると聞いていたけど、その通りになってしまって、2人が泣き止んで少ししてから私も泣けてしまった。

 お母様と2人で抱き合って泣いて、沙羅様とも泣いて、一緒に加わりたがったお兄様には皆で引いてしまったら、悔しそうにされたので一転して皆で大笑いになってしまって、その様子を自動写真機リグルがクルクルと撮影していて、色々な人とツーショットを撮って。

 沙羅様の緋色のお衣装が綺麗で陽光に映えて、私はオフホワイトに金銀の刺繍を施した打掛のような衣装で重たくて、式典の全てが終了して脱ぎ落した時にはホッとしてしまった。

 鷹様の秘色(ひそく又はひしょくとも言う)が美しくて、とても高貴な色合いなのだそうで浅い緑色を指すのだが、ずっと見ていたいお衣装だった。


 我々の新居は鷹司邸に間借りすることになって、旅立ちの日までの約1年間を過ごすことになった。

 そして我々の結婚式の衣装は鷹司邸の衣装部屋で厳重に保管されるのだとか。あまりに美しい仕上がりだったので今後の式典等に希望者に貸し出す事になるらしい。有効利用すべきよね、細かくて繊細な仕上がりの刺繍なのだもの。

 既に問い合わせが入っているとも聞いた。予約受付は宗秩寮だとか。ごめんなさい、担当者さん。仕事を増やしてしまいました。

 そして、結婚式後に一番変わったのは私自身と私達夫婦の関係ではないかと思ってしまった。

 はっきり言ってしまえば、色々とゴチャゴチャと考えていた鷹様との関係とか世界を飛び越えてしまったこととか、時代が違い過ぎる事とか、言い訳にもならない自分でも理解のできない理由をくっつけてきたけれど、つまりは初夜を過ごしてしまったところ、ふと素直に口走ってしまったのだった。

「鷹様、‥‥‥大好き」と。

 ‥‥自分が一番びっくりした。

 本当に驚いた。

 だって式の後の夜に同じベッドに入って、気づまりになったりするのかな、と思っていたのに、不束者ですが末永くよろしくお願いします、なんて文言も考えていたのに。

「やっと私の物になった‥‥‥」

 などと鷹様が二人きりになった新婚の部屋で抱きしめてきて、ボソッと耳元で囁くんだもの。

 初めてそんな熱烈な告白をこんな夜に口に出されたら、こちらからもギュッと抱きしめ返してしまってもおかしくないでしょう?

 お定まりの口上なんかよりも思わず体が動いてしまったのは仕方ないと思う。

「もう離さないで」

 なんて雰囲気に押されて私も口走っていたのは、自分でも驚きつつも本心だったんだなあ、と納得したのは翌朝でした。

 こんな何者とも分からない私、とか色々と悩む点はあったりするけれども、もう口に出してしまったのだし、特に後悔することではなかったから、自然と口にしてしまった事はそういうことなのだろう。

 翌朝は顔を合わせるのが気恥ずかしかったけれども、その次の日からは一緒にいるのが当たり前になったというか、姿が見えないと落ち着かなくなるというか、なんだかそうなってしまったのが不思議なのだけど、しっくりくる感覚みたいなところがあったのが日常になってきて自分が一番驚いたし、幸せな気分を満喫したのも事実で‥‥‥。

 それからは1年後の旅立ちの日に向けて穏やかに日々を過ごすことになった。


 表面上は穏やかな日々だが、私の周りは大変に忙しない毎日となった。

 まず引き受けた親王殿下へのお勉強の継続方法である。

 私自身の学習面での勉強は高校1年生で終了してしまっているが、この都では小学生終了時の学習が出来ていれば十分ではないかと皆さんと話し合っていて結論を出した。

 まあ、これまでも年度末の授業なんて駆け足でやっつけ授業な事は毎年当たり前だったのだから、無理に短時間で詰め込むのではなく、6年分を8年以上かけて勉強するくらいでちょうど良いのではないかといった話しになった。

 そもそも講師陣が、親王殿下がまだ幼いから自分達でもなんとかなりそうだが、この先自分達を導いてくれる人がいなくなると続けられる自信がないと訴えてきた。

 確かに突然難しい学問をたった1年で覚えきる事は不可能かもしれないし、不安要素しかない。

 ましてや実際に教える役は私ではなくこの都での博士クラスの方々だが、彼等がもう泣きが入っている。小学校低学年の内容でも危なくなってきている方々がいらっしゃるのに、あと1年でどこまで進むのか正直に言って不安しかない。

 私もどこまで皆さんに教えきれるか不安になってきた。教える側も覚える側も素人なのだから、不安しかないのも当たり前か。

 本当は講師陣にゆっくりと一通り教えてから生徒さんに教えられると良いのだけれど、絶対的に時間が足りなくて、流暢な時間の使い方はしていられそうもない。

 そうこうしていると時間の進むのはけっこう早い。簡単に季節が移り替わって行く。

 結局、大体中学校入学くらいまでの学力を人々が有していればいいところかな、というのが妥協点としての結論となり、講師陣の覚えられる限界だろうということになった。

 問題はこれを参考書のようにマニュアルとして書き起こしておいたほうが良いだろう、ということ。

 これは時間がかかる事だし、誰も図や絵を書いてくれない事が悲しいが、私自身がやらねばならないようなので気が重いし、かなり難しい。

 何より思っていた通りに書けていなくて、何度地団駄を踏んだ事か分からないほどだ。さほど真剣に記憶しようと考えていなかった絵柄を数年後に再現しようと思っても画力が伴わない私には思っていたようには再現が出来ない。紙が無駄に出来ないのにイ!と悲しくなった。

 作る教科は算数と理科がメインで、小学生くらいをターゲットに先生方に教えていく。実際に親王様が学ぶのは数年先になるはずだから。

 こんな考えがあるのか、素晴らしい知識だ、と識者の皆さんが賞賛してくれるのだが、私が考えたわけでも発見したわけでもない知識を賞賛されても、なんとも面映ゆい想いになってしまう。

 あ、私の記憶力は素晴らしいと思う人がけっこう存在しているのは想像がついているわ。

 けど、たった今見たばかりの物はともかく、何年も前に見た物はかなり曖昧になってしまうし、私の絵の技術が伴わないせいで言葉以外で人に伝えるのはかなり厳しいの。この能力が一番強く発揮されるのは

試験勉強とか受験勉強とかであって、人に絵で教えるのは範囲外であり教科書をイチから作るなんてことは論外なのですよ。

 まして小学生の時の記憶を使用するなんて無理だとしか思えないのに。

 でもなんとか頑張りました。絵の上手な都の人に協力していただいて。

 これで、数年先でも教科書は講師陣の方々に使用していただける出来にはなったと自負しています。

 

 さて、穏やかな新婚生活と教科書作りに明け暮れた1年間はまったりと言うかやりがいに満ちていたというか、けっこうあっさりと過ぎていき、沙羅様の結婚式は我々だ翔んだ後に挙げる事になったので、沙羅様の晴れ姿が見られなかったのは残念だったけれど、敬様の御実家にご不幸があった為なのでは仕方がなく、そこは諦めたのだけれど、けれど本当に残念だった。

 その間、鷹様は御実家の立て直しに家族総動員であたり、鷹司家の一家とも仲を深め、ついに翔ぶ当日には鷹司家の使用人達まで私はもちろんのこと、鷹様との別れを惜しんでボロボロに泣き崩れて全員で涙なみだの別れの1週間を過ごし、全員の目が腫れあがってしまい、すっかり私の伴侶として鷹司家

から送り出される事になった。


 






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