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蒼天のむこうがわ  作者: 天野未晴
蒼天のむこうがわ
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巫の都6

巫の都6

 東様がお屋敷の説明をしてくれながら私の前に立って奥へ進んでいく。言葉が分からない所が度々出てくるので細かい所で不明な点もあるけれど、正面玄関を入ってすぐの辺りは応接室や客室等の外部からお越しのお客様向けの施設。

 奥へ行くと、東様の執務室や個人の応接室など仕事に関するエリアになり、この辺りから二階部分が増えている。

 東之條家のご家族や使用人の居住エリアの他に台所やお風呂、洗濯等の作業エリアや、お屋敷の裏手には畑や果樹園もあるそうで、後日案内して下さるそうだ。

 とにかく広い。一度の説明では覚えられるものではない。

 とにかく使用人でもいいから一人くらい寝泊まりされても構わないくらい部屋がふんだんにありそうな事は確かであり、最初に覚悟したような野宿をしなくてすみそうな事が明らかになっただけでも満足しなくちゃ。

 木製に見える廊下や階段は磨き抜かれていて、とても綺麗な飴色。んー、この仕事が出来るだろうか?

 自慢じゃないけど専業主婦の母のおかげで、家の掃除も料理もほとんどやらずに過ごしてきた。調理実習や教室の掃除くらいは人並みにこなすけど、こんなに目に眩い輝きを放つ床磨きなんて知識も技術もない。

 あー、親のすねかじりの普通科高校生に出来る事って、あまりに少ない。

 異世界人特典があったりしないかな。ぜひとも欲しい。

 前を行く東様に聞いてみたい衝動に駆られたけれど、魔法があるのか、という質問は踏みとどまった。

 空が飛べるじゃない、とコフを考えたけれど、動力が分かるまでは下手な事は口に出すのは控える。異世界初日から変な人認定されたくない。

 ここにいる人以外には顔見せをしなくてもいいのだろうか、などと考えながらキョロキョロと辺りを見ながら進むのでつい遅れがちなる私を、さりげなく後ろを気にしてくれる東様と、お父さんの説明に補足を入れてくれながら足を進めるよう時々背を押してくれる沙羅樹様と。

 少し離れた後ろを純玲さんは気配を消してついてきてくれるし。

 ああ、きちんとした灯りの下で見る純玲さんのカッコいいこと。

 ハートマークを飛ばしたい感覚と、何とも言えない緊迫感とが気持ち悪くて、おちゃらけている場合ではないのは分かっている。

 もう一度、純玲さんを振り返ってしまう。

 少し目尻の上がった切れ長の一重。すっと通った鼻筋。白い肌に映える赤い小さめの唇。シャープなあごから首、肩のラインまでを見るだけで、引き締まった体が想像される。

 考えているだけで百合の世界か?と問いたくなるようなエロさが溢れている。本人はとてもストイックな感じなのに、私の中だけではお姉さま呼びをしてしまいたい。

 分かっている。これは現実逃避で、先導している東様が向かっている先にけっこうイヤな雰囲気が待ち構えていることくらいは。何より沙羅樹様の雰囲気が段々に剣呑になって行くことも。

 建物は執務エリアに戻って来ていた。先程、大会議室と説明されていた部屋だとうっすらと分かる。

 外観が和風の建物は、内装となると廊下や階段は和風でも部屋の中は洋風なのは何故だろう。ソファがあり、足の長いテーブルに椅子があり、座布団はない。畳ではなくフローリングで、正座の文化ではなさそう。

 部屋を仕切るのは引き戸、障子、ふすまではなく、ドアノブのついたドア。

 和洋折衷というか、いいとこどり、というか。

 平安時代を持ってきているわけではないの?服だけならイメージは平安時代の服をすっきりさせたようなデザインなのに。

 大会議室のドアが開けられた。

 東様がノックしてご自分で開けてくれた。どうぞ、と中へ入るように促される。

 会釈をして中を見ると、既に人がギッシリと着席していた。

 一斉にこちらを見てくるからギョッとして足が竦む。

 つい、縋るように東様を見てしまうと、東様は困ったように苦笑する。

「みんな東の一族だから、顔は怖いけど大丈夫だよ」

 と安心しかねる言葉をもらったので、おそるおそる部屋の中へ足を進める。

「気を……」

 沙羅樹様の気づかわしげな声を聞いて、パッと振り向いてしまった。

 目と目が合って、なぜか安心する。

「気をしっかり持ちなさい。意に沿わない事はきちんと意思表示すること。もし押し切られるようなら後で私に言いなさい。聞くくらいはしてあげるから」

 明らかに私より年下だろうに堂々とした発言。やっぱりお嬢様は違うなあ、と感心しつつ、援護射撃のようで正直嬉しい。

「はい、ありがとうございます」

 ちょっと涙目になりそうな室内にビビッていたので、無理に口角を上げてみる。

 この都でトップに君臨する東様のご息女が偉そうなのは当然だろう。

 どこの馬の骨とも分からない人間に優しい言葉を掛けてくれるのだから、沙羅樹様は基本が優しい人なのだろうと思う。

 これをツンデレと解釈したい。

 内心は何度も頷いていたけれども、表面には出せる雰囲気ではない。

 それでもエールを送ってくれた沙羅樹様に感謝を伝えたい、と思ってしまう。

 すると沙羅樹様のほうが近づいてくれた。

 そして沙羅樹様が左手でそっと私の右腕に触れ、会議室の中へ突き刺さるような鋭い視線を向けた。

 誰にかは分からないけれど、誰かを睨みつけているらしい。

 でも、すぐにプイと顔を背けて、廊下を遠ざかってしまった。

 私も東様にせかされて会議室へ入れられた。


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