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蒼天のむこうがわ  作者: 天野未晴
蒼天のむこうがわ
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婚約式

 昨夜はあれから付き添いの女官達に取り繕う事をせず、とにかく早く自宅へ帰ろうと早めの時間に儀式殿を出た。すっきりした顔の沙羅様も久しぶりに見た。沙羅様もこの件ではけっこう気が気ではなかったのだろう。

 そして今日、まず東之条家へ行かねばとアポイントメントをとるために男性陣は朝から動くそうだ。出来るだけ早く婚約発表をする為には自分達が動くしかないのだから、まあ仕方ないだろうなと頑張ってもらうしかない。

 ただ申し訳ないのはわざわざ作ってもらった儀式殿。この為だけに作ってもらって、すぐ解体するらしい。

 材料はきちんとリサイクル先が決まっているそうなのだが、手間のかかり方が半端ないのが申し訳ない。大工さんは技術保持にも必要な手間なのだと説明いただいたが、儀式殿に詰めていた係の人だとか女官役の人だとか人的にも経費が掛かっているはず。まあ私が心配しても仕方ないことなのだけれど。

 で現在の時刻は大体お昼過ぎ。先ほど皇居へお越しいただきたい、との呼び出しがあった。

 呼び出されたのは父と母と私。そして皇居からの使者の話しによると、東之条家と西宮司家、西橘家の方々も一緒らしい。

 今回の儀式破棄と2組の婚約及び婚約破棄の件だろうとメンバーを聞けば容易く推測できる。しょっちゅう皇居に伺っている我々3家に比べて滅多に行くことのない西橘家は戦々恐々としていることだろう。

 皇宮へと呼び出された時刻は夕食の時間。つまり皇宮で夕食を摂った後にお話しをしようというおつもりなのだろう。

 まあ何度伺っても皇宮は緊張するけれどね。それに各主人付きの侍女達は今日は朝から忙しい。己の主人達の衣装の色かぶりがないように衣装選びをしなければいけない。しかも今回は他家との調整もあり、私の衣装は既に決まっているのでそれを踏まえての調整が今朝早くから繰り広げられている。

 我が家が気を使うのは皇家と東之条家と西宮司家で済むが、西橘家の侍従侍女は経験が少ないから胃が痛くなりそうなほど気を揉んでいるのではないかしら。人の心配をしている場合ではないけど。

 ちなみに私の衣装が決まっているのは沙羅様と以前にそれぞれの色で作ったお揃いのデザインの衣装を晴れ舞台で着ようね、と良い機会だから明日に着ようね、と勝手に決めてしまったから。何せ主役で1位なのだから多少の無理は可能なのだ。

 私の色が決まった頃なんてけっこう以前になるけれど、その頃に一緒に作ろうとかなり早い頃に作った衣装があったのだけれど、今まで着る機会がなかったのだ。

 そこで今日は我々の衣装を中心に周りの衣装を決める事になったのだが、侍女達のテンションが異常に高い。何故かしら。

 まあいいけど、とにかく我が家の使用人達は妙に浮足立っている。別に私だって何も感じていないわけじゃない。自分の事だし、待ちに待っていた鷹様との正式な婚約が出来るわけだし、無関心でいられる訳がないけど、周りがハイテンションだとどうも当事者は冷静になってしまうような変な感じになっている。

 もう既に正装の為の入浴のミストから肌の手入れまで終了していて、今は癖のない髪を更にまっすぐにする為のツバキ油のようなものを馴染ませる時間であり、大人しく座らせられている。頭は動かさないように言われていて、とにかく良い子にしている。

 上位貴族の婚約・婚姻は皇室が関わってくるのは承知しているけど、どんな手続きがあるのだろう。厄介な行事とかだと面倒そうだなあ、と若干腰が引けている。

 今日はお兄様一家はお留守番だ。わざわざ皇廷のお休みの日に呼び出されているのにはお父様もお母様も首を傾げている。今までの呼び出しは皇宮の営業日だったらしい。

 美園が髪の出来具合を確かめに私に近づいて来た。私の髪を少しツンツンと引っ張って、もう一人の使用人と確認しあっている。

「お嬢様、いいようですからお召し替え致しましょう。こちらへお越しいただいて姿見の前にお立ち下さい」

 頷いて姿見の前に立つと、私の顔や肌の状態を確認するわけではなく衣装を体にあてて各小物との色合いを侍女達で確認しあっている。

 なんと今日の衣装は男性は狩衣ではなく正式な直衣で、女性は簡易版とは言え十二単に準じる物らしい。滅多に着ない衣装の為、侍女さん達も着付けの出来ない人が多くて覚え直しながら着付けてくれたようだ。

 まあ、複雑そうだったものね、十二枚も布を羽織るなんてどれだけ肩が凝るのやら、と他人事のように考えてしまう。簡易版とは聞いているけれど十二から多少はマイナスしてくれたのやら。色々と疑問点はあるけれど、今日の私はマネキンのように大人しくしているのが最適と判断して皆さんの言うがままに腕を上げたり足を上げたりする。美園や伽耶、他2名が頑張ってくれたお陰で無事着付け終了。時計は見ていないけれど日の光がかなり斜めになってきたので、かなりの時間がかかったのが想像できる。

「失礼致します、ご準備はお済みでしょうか。もしよろしければそろそろ出立致しませんかと御両親様からの御伝言でございます。いかがでしょうか」

 お母様の侍女殿がこちらの準備の進捗を確認しに来た。

「お待たせいたしました。咲久良様のお仕度は整いましてございます。ご出立出来ます」

 今日の私の仕度の責任者の伽耶が答える。

「承りました。では私はこれから皆様にお知らせ致しますのでお嬢様は一足先にお車へどうぞ。時間がかかると思われますので」

 と言って侍女頭は足早に我々に一礼して部屋から退出した。

 たしかに私の移動には時間がかかると思われる。

「では皆様、気合を入れて参りましょう」

 伽耶の声で周囲の女性達が一斉に動く。

 ここは2階の部屋ではなく1階の着付け室で、凄まじい重量の着物の移動には最適な部屋なのだが、特に急ぎの際にはもってこいの場所だと言える。が、その部屋にいた侍女達が総出で私の衣装の裾を持つ。

 気分はとってもお姫様。召使に傅かれる生活なんて想像もしていなかったな、と久しぶりの感想を覚える。

 静々と5人がかりで進むと、お父様とお兄様がエントランスホールで待っていて下さった。お父様は直衣で、お兄様は普段着で。

「しかし略礼装で参内せよなんて、帝も突然何をお考えなのか。突然過ぎて大変だったろう。我々はないわけではない事態だから急遽にも対応出来るが女性には騒動だよな。咲久良も初めてのことだから大変だったろう。仕度の皆もご苦労だったよね」

 我々は苦笑するしかなかった。その言い方はいかにお兄様が側近の一人だったとしても不敬に当たるのでは?と複数人の脳裏に浮かんでしまったと思えるから。

 とりあえず両親には今日の帝からの呼び出しについては何も言われなかった。父も兄も帝と色々と協議する事が多いそうで、公表できない情報もこのお2人には周知されている様子なのが度々な事くらいは私達も察している。

 帝への直答が普通な権力を持っているから、東の3位は特殊扱いをされているのだろう。

 今日が何故集められているのかはメンバーと服装だけでも想像の範囲内ではある。正式に説明はされていないけど。お兄様が留守番させられているのは本人が最も納得出来ていないらしく、我々が出立するまで毒舌と言うか怨嗟のような言葉が発せられているのは現場に同道したかった恨みなのだろう。

 何せ当初からずっと関わっていらした事柄なのだから納得いかないのも分からなくはないけれど、普通は兄弟は出席しない事柄らしいので仕方ない。

 で、女性の衣装は横幅をとるのでコフは2台に分乗して皇居に向かった。

 皇居では大変丁寧に侍従様に先導され、正に下にも置かない扱いを受ける。

 もう既に東之条家と西宮司家は到着していて、お母様 は久しぶりの登城なのか色々な方とあちらこちらへ挨拶しながら奥へと進む。特に各家の夫人と盛り上がっている内容は、今日は一体なんの呼び出しでしょうね、と言う当たり障りのないもので、とっくに予想しているもののしらばっくれて腹の探り合いをしているという感が否めない。

 それより我々子供達の関心は初めて見る西宮司家の奥方だった。純粋にこの人が鷹様の母上であり姑になる人なのね、という単なる関心は私だけの物かもしれないけれど、その気の強そうな顔は引き攣って見える。

 私も一応両親と一緒に挨拶をした後で沙羅様と身を寄せ合って小さな声でお互いの衣装の色重ねが正解だったね、お似合いですと褒めあった。鷹様の直衣姿をじっくり見たかったのだけれどまだ敬様が到着していないから沙羅様の目の前ではイチャイチャできない。

「遅いですね、西橘様。あまり皇居にいらっしゃらなくても駐車場の指定もありましたから迷われることはないと思われますのに」

「そうよね、まさか牛車で来ているなんてことはないわよね」

 沙羅様も心配そうにしている。

 それも良く分かる。私も聞いた事があるのだが、あまり皇宮に正装で来た事のない人が登城する場合に気合が空回りしてしまうらしく、衣装に気を使い過ぎるあまりに周囲に相談をしないまま牛車を使ってしまう事があるのだとか。女性の十二単もどきは横幅がかなりいっぱいいっぱいになり、場合によってはコフでは収まりきらずに2台に人を分乗させる事もあるそうで、本来なら入るコフに衣装を詰め込む事を躊躇ってしまうそう。貴重な正装の布地を痛めてしまう事を恐れる事は分かるけれど、約束の時刻に遅れるのは皇室への不敬に当たるし、相談をしてくれれば衣装の取り扱いのコツを教えられるのに、西橘家の管轄は西宮司家になるし、人前にほぼ出てこない西宮司家の奥方へ質問を出すのは下位の家としては難しいかもしれない。

 こういう時は電話1本で問題が解決出来ないもどかしさを感じる。ちなみにネットみたいなものはあるが知らない上位の家には連絡は取れないらしく、5位の家柄は色々難しいらしい。3位までの上位にも6位以下の下位にも入らない家柄というのは調整が難しいと聞いた気がする。この機会にこういうまだるっこしい慣習もなくせたらいいなと思う。

 結局我々が相談を持ち掛けた皇居詰めの侍従の一人がコフで探しに行き、牛車を見つけた彼がコフで西橘家の皆様を連れて来てくれた。やはり十二単がコフに収まりきらなかったために牛車を引っ張りだしたそうだ。西宮司家の当主は我が家へ問い合わせてくれればと怒っていたが、序列に過敏になっているお宅では恐れ多かったのだろう。分からなくもないが、集まりに遅れるのと遠慮とのどちらをとるかは難しい選択だ。私的には集まりを優先するけれど。そもそもこういった相談の窓口はその筆頭家の奥方とかそのお付きの仕事と認識しているのだけれど、違ったかな。

 ともあれ全員が少々遅れて揃った。少しして帝がお出ましになられた。全員がきちんと立って並んでお出迎えをする。

「急な呼び出しに応じてくれてありがとう。突然ではあるが揃った顔触れを見ておおよその予測はしてきていると思う。まず第一に揚華と相揚華の双方からの申し出があり、此度の揚華の儀式の中止の申し入れ

が行われ、それら全てを朕は了承した。詳細としては揚華の西宮司鷹比古は鷹司咲久良との婚約を望み、相揚華の東之条沙羅樹は西橘敬也との婚約を望むとのことだ。公には明日付けで正式に発表する。これだけの上位貴族が動くとどこかしらの家で不平不満を述べてくるのは想像に難くない。そこで突然で申し訳ないとは思わないでもないが、これより西宮司家と鷹司家、東之条家と西橘家の婚約式を執り行う。お披露目式は明日の正午に皇宮前の広場で行う。それに伴って西宮司鷹比古と鷹司咲久良の結婚式を1年後の吉日に行う。東之条沙羅樹と西橘敬也の結婚式は両家と相談の上宗秩寮へ申し出ること。皇家とも協議の上で吉日を設定しよう。ここまでで疑問点はあるか。質問は受け付けるが否やは認めぬ。揚華と相揚華の申し出は無条件で了承する決まりだ。全て受け入れよ。では早速婚約式を行う為に祭殿へ向かいたい。此度は西宮司家が当事者であるので斎の宮に出張ってもらっている。介添えには西の3位と4位が担当とする。さて参ろうぞ」

「今ですか?」

 鷹様が流石に声を上げた。2組のカップルの意思確認と四家の親の意思確認が今日の主題だと思っていた各々も目を瞠った。

「今からだが不都合があるか?どこかの家から横槍が入るのが好ましい、自分が完璧な防波堤になろうという剛の者がいるなら申し出よ。朕はそんな面倒には関わりたくないがな。婚約式など所詮は形だけのものだが、やらないのは不都合であり斎の宮の承認の元で行ってしまえば否やを言う者はおるまいよ。あまり時をかければ結婚式の日取りをずらせねばならぬ。旅立ちの日を考慮すると猶予はほぼないぞ。どうしたい?せっかく朕が段取りを整えたのだぞ、まさか無碍にすることはないよな」 


 



 


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