家制度5
最初にサイトに書き始めた時に投稿の仕方が全く分からずに闇雲に書き始めてしまいました。初めに読んで下さった方、大変読みにくくて申し訳なかったです。この度なんとか整理してみましたのでもし良ければ改めて読んでみてください。どうぞよろしくお願いいたします。
家制度5
彼は笑顔で右手を差し出し、握手を促した。
お辞儀じゃなく握手なんだ、とビックリしながら私も右手で握手に応じる。
「鷹司雅俊と申します。あー、なんと言ったらいいのか、今日は大変だったね。色々と疲れただろう」
期せずして労われて、ちょっと肩の力が緩む。
東様と同年代に見える鷹司さんは、東様よりひと回り体格の大きな品のある方だった。整った顔にふわりと笑みを浮かべると、とても優しい印象になる。
──父の雰囲気に似てる。
つい私も笑顔になる。
おっと、いけないいけない。自己紹介とご挨拶をしないと。
「改めまして、藤原咲紀と申します。何も分からないので色々と教えて下さい。よろしくお願いします」
ピョコンと頭を下げる。形式張ったお辞儀と差をつけて、少し親しみが籠っているように見えるといいな。
「それなんだが、家制度についてはどの程度聞いているかな」
鷹司さんの問いに周囲の四、五人が身を乗り出す。
「んーと、この都にいる人はどこかの家に属さないといけない、という事だけです」
それしか聞いていないんだけどな、と思いながら言うと、鷹司さんはため息をついて東様へ視線をやる。
すぐに私に視線を戻すと空いている椅子を私に勧めて、隣に自分も腰を下ろした。
周囲に椅子を持って人が集まる。
ざっと十人近くに注目されてけっこうドキドキする。
その視線はさっきまでの責めるようなものではなく、たぶん好奇心。キラキラの目で自分を追ってくるくらいの好意を含まれていて少々怖い。
「では簡単に家制度を説明しよう。今までのご家族構成を教えてもらえるかな」
いきなりの質問だな、と思いつつも感情にフタをして答える。
「はい。父と母と兄が一人です」
「ほうほう。同じ構成になるのだな。では率直に言ってもらいたいのだが、この都で父と母と兄が出来るのは許容出来ると思うかね。今までと同じに、とは無理としても、形だけでも同じような生活状態を営む努力をしてみてもらう事は可能だろうか」
今までと同じ……。
それは、無理だと思う。
父も母も兄も同じ人な訳がなく、今まで積み上げてきた家族をリセットして別な人たちと家族ゴッコをしろ、と言う事なのだろう。
つい今朝まで一緒に過ごしていた家族ともう会えない実感すら湧かないのに、そんな簡単に血のつながりもない人たちを家族と呼べ、と言う。
残酷な話しだなあ、と思う。
と同時に、この世界のシステムに人一人を組み込む為にはベストなのかもしれない、とも思う。
それを東様は私の心境を慮って言えなかったのだろうし、鷹司さんは今後ここで生きねばならない私の為に話してくれたのだろう。
どちらも優しさ故なのだろうが鷹司さんのほうが損な役割だ。
ありがたい、と思うべきなのだろうな、と私も思う。
考え込んでしまった私の為に鷹司さんが更に選択肢をくれた。
「絶対に我が家でなければならない訳ではない。君も見ていたとおり、他に二軒が挙手していた。その他にも君の人となり見てみたい、とこうして何人も集まっている。この都の決まりとして挙手が早い方が有利となるので最初の三軒には足を運んでもらう事になるかな。あとは相談になるが我が家に一番の優先権がある。早速だが明日にでも我が家と家族を見て欲しい」
それはそれは真剣に周囲から私を隠そうとするかのように、鷹司さんは私の頭の近くで口説いてくる。
こんなに熱心に口説かれたのは初めてで、どこへ視線を持って行けばいいのかとまどうが、熱意はひしひしと感じられた。
なので素直に口に出来た。
「はい、よろしくお願いします」
たぶん顔が赤くなっていると思うけど、鷹司さんの目を見て答える。
彼はゆっくりと大きく頷くと、自分の後ろにへばりつくように立っていた東様を振り返る。
「ではこういう事でいいな。後の調整は頼む。私は早く華菜子に知らせて明日の受け入れ準備もせねばならない。決定事項は電信で構わないから決まり次第入れておいてくれ」
鷹司さんのテキパキとした物言いに東様はハイハイと頷く。
どっちの立場が上なのか分からないな、と内心首をひねっていると鷹司さんの手が私の頭に乗せられた。
びっくりして固まっているとその手が軽くナデナデと前後する。
「では明日屋敷で待っている。楽しみにしているよ」
と言ってさっさと席を立ち、部屋を出て行ってしまった。
颯爽、というのかな。
その後ろ姿を呆然と見送っていると、ねえねえ、と隣のおばさんに声を掛けられる。
「もし言い辛い事だったら先に謝ってておくわ。でもさっきから疑問だったのよ。あなた、ご両親は御存命なのよね」
小柄なおばさんを見下ろして、はい、と笑顔を返す。
おばさんの顔にはなんで笑えるの?と非難の色が浮かぶ。
そんなイヤそうな顔をされてもなあ、と私も眉が少し寄ってしまう。
「まさか何も感じていない、なんて思ってないですよね」
と問うと、おばさんは急に胸を張って、違うの?と開き直る。
「違いますよ。心が凍ってるって言うんですかね」
良く分からない、という顔が周囲に広がる。
衝撃、といった出来事があまりない都なのかな、と思いながら説明を試みる。
「あまりに想定外の出来事が続きすぎて、感情を殺していないと精神を保っていられないんです。私まで取り乱しては話しが進まないですし」
可愛げのない事を言っているのは分かっているが、こんな不躾な質問に平然としているには普通の心構えで対処できる気がしない。
するとおばさんの顔がすうっと真顔になった。
「──悪かったわね。色々言っちゃって」
今まで聞いた事のない台詞にこちらがギョッとする。
「そうよね。何十年も前の飛来さんの事を持ち出して、いくら同郷だからって年下のあなたに責を負わせるなんて馬鹿げてるわ。ごめんなさいね。あなただって自分の事で手いっぱいで人の事にかまけている余力ないのにね。だから心が凍っちゃっただっけ?本当にごめんなさい」
おばさんは済まなそうに頭を下げてくれた。
「そんな、頭を上げて下さいっ」
と私にとっては今までの世界で見てきたドラマのお定まりの台詞を述べて、おばさんにとにかく頭を上げる事を促す。
ここまで見聞してきた事を総合して気付いたのは、ここの人達には刺激になるものが少なさそうなこと。だから刺激的な事はいつまでも風化されず、大勢の記憶に鮮やかなままで昨日の事のように語られてしまうのかもしれない。
すぐに新しい刺激が次々に起きるのが当たり前だった我々の世界とは全く感じ方が違いそうなこと。 うーん、いつかは慣れる日が来るのかしら。出来れば慣れる前に帰りたいなあ。
「今はなんとか気を張っていますので大丈夫です。でも夜に一人になったら分からないですねえ」
ニッと笑ってみせるとおばさんはホッとした顔になってから、私の右手を両手で握る。
「あなた、いい子ね。ウチに来て欲しいけど鷹司様に勝てる気がしないわあ。ねえ、あんなに強気な鷹司様は久しぶりよね」
「ホント。ほとんど感情の起伏をお見せにならない沈着冷静を体現したような方だものね。素敵だし、お年を召されて益々素敵になられて。ああ、あなた、これからお父様と呼べるのよ。うらやましいわあ」
女性二人がキャイキャイと盛り上がりだした。
これは私も分かってしまう。だって鷹司さん、渋いよね。
なので私もついつい同意して首をコクコクと縦に振る。
「やっぱり?分かる?感性は一緒?わあ、良かったあ。素敵な殿方はどこでも共通よね。きゃあ、なんか嬉しい、色々お話ししましょうね。おしえてあげるわ」
「はい、よろしくお願いします」
「そうそう、どんな衣装や髪型がお国では流行ってたの?こちらでも参考に出来るものはあるかしら。知っている事を教えてね。なかなかよその都の情報が入ってこないのよ。ウチが発祥なんていつ以来かしら。流行起こしたいわよね」
なるほど、情報に飢えている、と。
私としてもこの都の事は知りたいし、情報交換も有意義かも。沙羅樹様に若い女性の色々も聞いてみたいな。
「そうですね。私も落ち着いた頃にお話しをしたいです。楽しみにしています」
東様が私に、そろそろ移動しようみたいな合図を送ってくるので、周りに挨拶をしながら出入口の方へ動き始める。
そこはおばさん達も心得ていて、楽しみにしているわ、きっとね、と声を掛け合いながら解放してくれた。
いい人達かも──なんて思ってしまう私は、いわゆるチョロいのかも。
まあ楽しいほうがいいに決まってるよね。




