5 漫画家と、心胆寒からしめられる内見
お客さんが居なかったから1階の古本屋を一時的にクローズし、『諸用で一時的に閉店しています。16時頃に再開店予定です』と張り紙し、3階に上がった。
1階が古本屋で、2階がラブホテルで、3階が自宅なのだ。
空いてる部屋を見せてみる。
一応、『空室』ではあるのだ。
「・・」
部屋の中に入り、中を見る彼女にはどう見えるか。
まぁ、ツッコミどころは満載の部屋だろう。
「ぁのー・・」
「ん」
「どなたかのお部屋じゃ・・?」
ま、そう思うよね。
見せた部屋には、確かに主は居ない。
ただ、彼女が疑問に思うのも無理は無い。
だって、見せた部屋の中は、ある意味、生活感満載なんだから。
部屋の中は、女性の部屋に見える色合いのカーテンや、ベッド上の寝具一式。
可愛らしいヌイグルミも5個置いてある。
ローテーブルの横のクッションだって、可愛らしいと思う。
ローテーブルの上には、化粧品だって色々置いてある。
ベッド横の衣装ケースにも、四季に合わせた衣類や、下着類だけの入ったケースもある。
それに、すごく存在感を主張している一帯がある。
窓辺の近くに、天井に渡されたポールがあり、そこには洗濯物が干されているのだ。
可愛らしいデザインのスカートや、下着類も干されている。
どう見ても、誰かが生活していると思うだろう。
「この部屋はね・・資料部屋なんだよね・・」
「・・資料・・?」
「そ。資料」
「?」
「・・そいえば、私が何の仕事してるかって、説明したっけ?」
「・・。ぃぇ。本屋さんとエッチなホテルじゃ・・?」
「ま、その2つもなんだけどね・・そっちは副業かな・・」
「副業・・」
「そ。本業は漫画家なの」
「・・なるほど・・漫画家さん・・」
「ん。レジに居る時に描いてたりしたんだけど、あんま見えなかったかな・・」
「ぃぇ。あの高そうなのですよね・・何か書いてる、とは思ってました・・」
高そうなのって、液タブのことかな。
「流石、こちらを窺ってただけあるねー・・☆」
「・・・すみませんでした・・二度としません・・絶対に」
「ん。お願いね」
万引きする時にレジカウンターの方には気を付けてたらしいね。
「で、漫画家で、何の資料かっていうとね・・『一人暮らしの女性』の部屋を模した資料なの」
「・・・本物を使って?」
「そ。画像とかより、本物があった方が分かりやすいからねー」
「・・なるほど」
「て訳で、この部屋は『空き』部屋って訳なの」
「・・使っても良いんですか・・?」
「ん、良いよ♪見ての通り、ガワだけ再現されただけの部屋でね・・だいぶ想像力働かせなきゃだったし・・」
「・・・お家賃とか・・」
「ん。家賃はね・・本物の『女性の部屋』にしてくれたらタダで良いよ」
「・・・本物?」
「そ。この部屋の中、好きに模様替えして良いからさ・・女性ならではの生活感を付けてくれたら良いよ・・買い物では手に入らないからね」
「・・」
「今現在、この部屋の中にあるモノは捨てないでね。入れ替えて収納に仕舞ったりはOKだけど」
「・・・この部屋の・・」
「ん」
「その、一人暮らしの人って・・どのくらいですか・・」
「・・どのくらい寄せたかってこと?」
「・・はい」
「んー・・ネット通販とかで買える範囲で、出来るだけ、かな・・一人暮らしの女性の部屋にありそうな感じ、にね」
「・・」
「ま、それっぽく見える様にしてあるだけだから、衣類とかも未使用だよ。着たいのあったら着てもOKだし」
「・・・」
「1人で部屋の中、見てみる?」
「・・はい」
「じゃ、そこでマンガ読んでるから、ゆっくり見てみて」
「はい」
資料部屋に彼女を1人残し、私はリビングで座って読書だ。
というか、読書してるフリだ。
落ち着かない。
落ち着ける訳が無い。
説明終える直前くらいに思い出したけど、ベッドサイドテーブルの引き出しの中を見られたら、悲鳴が上がるかもしれない。
無言で逃げ出して通報されるかもしれない。
一番下の段の引き出しの奥に、大人のオモチャが何種類か入っているのだ。
一人暮らしの女性なら少しは持ってるよね、と思って揃えたモノだ。
その段の引き出しは、手前側にはパッケージに入ったままのストッキングとかタイツとかが入れてある。
それを少しどけると男性用避妊具の箱が入ってて、その奥にあるのだ。
出来れば、気付かずに今日は帰ってくれないかな・・。
もし、家から出た先の候補にするにしろ、数日は考える時間が必要だろうし。
数日と言わず、今日、彼女が帰ったら即移動させるわ。
■
・・・・・遅い。
彼女を1人にして、もう1時間は経ってる。
まさか、部屋の中で自殺してたりしないよね・・。
不安しか無いんだけど・・。
・・・。
コンコンッ
とりあえずドアをノックだ。
返事が無かったら開けてみよう。
「はい」
返事はした。
良かった。生きてた。
「どうぞ・・開いてます・・」
まぁ、カギ掛かってないのは知ってる。
ソファに座り、コミックを手に、ドキドキしながら静かに耳をすませてたからね・・!
「開けるねー」
「はい」
入口のドアを開けたけど、決して室内には入らない。
ドアから少し離れ、彼女が通れそうなスペースを開け、室内を覗き込む。
ベッド脇に居た。
というか、ベッドに・・・・何故か、衣類ケースから出した下着類を並べてる・・・。
「・・・何やってるの・・?」
「見ての通りです」
「ベッドの上に下着並べてる様に見えるけど・・」
「はい。可愛いなーって思って」
「・・・ずっと並べてたの?」
「ぃぇ。部屋の中は全部見たので、最後に並べて見てました」
・・・全部・・。
「そっか・・コレは要らない、とかあったかな・・」
「・・・。・・大人の女の人の部屋だなーって思いました」
「・・。そっかー・・」
「入らないんですか?」
「ん。マナーとしてね・・」
ていうか、保身としてね。部屋に入らず近付かずなら、襲われそうになったとか、でっち上げられないかもだし。
顔をこちらに向けたけど、嫌悪感とかは見えなかった。と思いたい。
部屋の中 全部見たのなら、ベッドサイドテーブルの引き出しも全段見たハズなんだけど・・。
こちらを見てニッコリ微笑んだ顔が怖く見えた。