4 漫画家と、相談
「入学おめでとー」
「・・ありがとうございます」
4月1日の午後、眠気を誘う日差しにボンヤリしつつマッタリしていた。
そこに、真新しい着慣れない感じのブレザーを着た彼女がやって来た。
保護者に書いてもらう書類とか、就業規則の承諾書とか、その他諸々、すでに3月中には提出してもらっている。
あとは、正式に入学した後にシフトの相談をする事になっていた。
初期の学内オリエンテーションが終わったくらいかな、と思ってたけど、入学式を終えてすぐに立ち寄ってくれたらしい。
「じゃ、出れる日や時間帯の希望を入力して下さいね」
「・・はい」
1人しか入れない感じだったレジカウンター内は、3人は入れるくらいに広がっている。
レジカウンター内に彼女を入れ、ノートパソコンを彼女の前に置く。
4月のシフト表の入力ファイルが開いている状態だ。
隣に座り、可愛らしい感じのスケジュール帳を開く様子をチラ見しつつ、内心かなりホッとしていた。
ぶっちゃけ、4月になっても彼女は来ない方向も視野には入れていたのだ。
彼女が履歴書を持って来た日から半月弱経っている。
半月もあれば、他に良いバイト先を見つけててもおかしく無いものだし、自分の経験則からもあった。
自分がフリーターをしていた頃、バイト先に面接に来た内の3分の2くらいは、連絡が取れなくなったり早期辞退したり、すぐに来なくなったり、長続きしなかったからだ。
それに、所詮は、女の仕事ごっこ だ。
女ってのの大半は、真面目に仕事に来てる訳じゃない。
口先だけの男女平等と口には出すが、実際の勤務態度には期待してはならない。
男と同じ仕事内容を要求しても、すぐに逃げ出す。
自分が取り入り易い上司に媚びを売り、こちらを悪者に仕立て上げる。
それが上手くいかないと、泣いて「女に冷たい」と論点ズラしを図る。
更に上手くいかないと、ブッチして居なくなる。
後には、女に厳しく人を育てられないと悪評を擦り付けられた自分だけだ。
大方、次のバイト先では「前のとこはブラックバイトでしたー☆」とか言って自己正当化してるだろう。
必要最低限度の基準さえクリアしてくれて、こっちは一切の期待をせずに、ソレに気付かれない様に注意して、早く辞めて次は男が採用されます様にと祈り願い我慢して耐えて過ごすのが、何よりの最適解だ。
そうと分かっては居るのに、自分は いまだに期待『したい』のだろうなぁ、と思う。
広がったレジカウンター内だけではない。
店内は、だいぶ、模様替えされている。
すでに施工業者との話し合いも終わっているのだ。
ゴールデンウィーク前には店内の模様替えを終えている予定で、現在は仮の状態になっている。
古本屋が閉店した後、『本日と明日は、諸事情により、臨時休業致します』と張り紙し、2日半かけて、店内の模様替えを済ませた。
本を全て出した本棚を動かし、移動させたら本を詰め直し、その繰り返しで店内の棚配置を替えた。
レジカウンターの位置も、防犯面を配慮した位置に替えてある。
電源周りの配線直しが大変だった。
その間のSNS更新も停まってしまったし。
はぁ・・・腰が痛い・・筋肉痛は収まってるけど、少し筋肉が付いたかもしれない。
まぁ、かなりの運動量だったろうしね・・。
「終わりました」
!
「はい、ありがとうございます。じゃ、チェックしますねー」
身分証明でコピーを取った生徒証を返し、パソコンの画面を見る。
・・・。
・・・多いね。
定休日以外、全部、シフト希望が入ってる。
「・・部活は?」
「まだ決まってません」
「じゃ、部活が決まったら減る感じかな」
「ぃぇ・・アルバイトを優先したいと思ってます・・」
「学生時代の部活って、結構大事だと思うけど・・?」
「・・・お金、貯めたいんです・・」
・・・。
「家庭の事情的な?」
「・・」
踏み込み過ぎたかな。
「家を出たいんです・・」
「相談に乗れる事なら乗るけど」
「・・」
「履歴書持って来た日にも言ったけど、働いてくれる人手は確保しときたいからね・・それでかな」
「・・・弟が気持ち悪いんです・・」
・・どういう事なんだろ・・?
「ていうと?」
「・・・下着とか・・無くなるんです・・」
ぁぁ、そういう・・なるほどー・・。
弟くん、お姉ちゃんで性の目覚め迎えちゃった訳ねー・・?
「部屋に勝手に入られるとか?」
洗濯物漁られるとかかな?
「・・・部屋は同じなんです・・」
「ぁー・・・」
なるほどー・・まぁ、可愛いもんね。
こんな可愛いお姉ちゃんと同じ部屋か・・弟くん、辛抱たまらん感じだろうね。
「弟さんって、何年生くらい?」
「・・今年、中学に入学しました」
中1かー・・中1でお姉ちゃんの下着に手出すかー・・早熟なのかマセ過ぎてるのか・・。
「弟さんと離れたい、と」
「はい」
即答だね。
まぁ、思春期の女の子だしね。思春期の男子の性欲は気色悪い感じかな・・。
「それで稼ぎたいんだ・・」
「はい」
んー・・。
「・・ウチに空いてる部屋あるにはあるけど・・」
ま、問題外だよね・・思春期の弟の性の目覚めに辟易してる子が、中年のオッサンの家に転がり込んで来る訳無いよね・・。
「ぁの・・今の・・」
「ん?ぁぁ、気にしないで」
なるべく早く貯金出来る様に、出来るだけシフト希望は尊重しよっかね・・。
「ぁの・・!」
「ん?」
「お部屋、空いてるんですよね・・?」
「ん。まぁ、言ってみただけだから、気にしないで」
「ぃぇ、ぇと、ぁの、」
・・・。
「そんなに弟さん嫌なの?」
「はい・・!」
・・・弟くん、何しでかしたの・・。
身を乗り出し、喰い気味で期待の目を向けて来る姿に、弟くんが どんな子なのか、だいぶ気になった。
「・・見てみる?」
「お願いします!」
・・・弟くんさぁ・・マジで、何やったの・・・。