3 漫画家と、採用面談
「ちょっとお掃除に行ってくるから、何か用事があったら呼んで下さいねー」
「うんー」
「いってらー」
閲覧机で勉強中の小学生2人に声を掛け、店の入口のブラインドを閉め、レジを開けてドロアを持ち、2階に急ぐ。
「ごめん、悪いけど急いで?」
どういう仕事をしてもらうか見せる為に来てもらうのに、階段下で立ち止まっている。
仕方ないから、上がってくるまでに清掃用具を出して待つ。
レジドロアは、清掃用具入れの内側の隠し金庫にしまっておく。
1階を空にする事もあって、やむなしの方法なんだけど、人手が増えればなぁ、とは思う。
「じゃ、コレ持ってね」
やっと上がって来た彼女にゴミ袋を3枚持ってもらい、私は清掃用具一式を持つ。
チェックアウト済みの部屋に入り、室内をチェックする。
忘れ物は無さそうだ。ベッドの上以外は綺麗めに見える。残念ながら女物の下着とかは今回は落ちてない。
部屋の窓を開けて換気しつつ、ベッドからシーツを取り払う。
布団自体は、特に問題無さそうだ。少し濡れてるけど、すぐに乾きそうだ。
ウチは『御休憩』のみだから、掛け布団は置いてない。タオルケットはベッド脇に置いてるけど、今回は使われてない。
ベッドに乾燥機をセットし、掃き掃除と拭き掃除を始める。
見てる人が居て忘れてたけど、ゴミ箱の中身も回収しとかないと。
ベッド脇のゴミ箱の中身は、大量のティッシュと使用済みの避妊具があったから、ゴミ袋を広げてもらい、中身を入れる。
室内の清掃が終わり、次はユニットバスの清掃だ。
室内のゴミ箱をバスタブでシャワーと洗剤で水洗いし、ユニットバス内のゴミ箱もチェックする。
こっちは未使用だった。
バスタブを洗剤で洗い、壁面と合わせて乾拭きする。
洗面台の鏡も磨き上げ、ユニットバスの清掃も完了。
室内に戻り、換気していた窓を閉め、精算機から料金を抜く。
最後にベッドから乾燥機をどかし、清掃用具一式を持ち、部屋から出る。
清掃用具をしまい、一応部屋に戻り、最終チェックだ。
「よし、完了・・!」
清掃用具入れの内側からレジドロアを取り出し、1階に向かう。
回収したシーツやタオルの入った袋と、汚物入りの袋、その両方は清掃用具入れの下段に収納済みだ。
「これが、1部屋毎にやる事ね。何か質問や疑問、聞きたい事は?」
ずっと静かに見ていた彼女に質問する。
使用済みのラブホテルの1室の清掃だ。だいぶ思う所があったハズなんだけど。
「・・変なニオイでした」
「ん、室内の空気かな。そのうち分かるよ。他は?」
「・・・ホントに掃除だけなんですね・・」
「ホントにって何。他は?」
「・・ヒドいコトされちゃうんだって思ってました・・」
「・・・ぁぁ、それで・・」
イヤにビクついてるなとは思ったけどさ。
「万引き通報されたくなかったらーって?」
「・・・はい」
「そんなAVみたいなコト、しないから」
「・・・」
「あと、君が嫌がりそうな仕事だと、店内で見掛けたとは思うけど、奥側に18禁コーナーあるでしょ」
「・・」
無言で頷く顔は無表情に見える。
恥ずかしいのか嫌悪なのかは分からないな・・。
「1階で店番してもらう場合、それ関係の買い取り査定もあるからね?」
「・・査定・・」
「そう。破れてるページが無いかとか、再生出来るディスクかとか、本は見て目視確認だし、映像もチャプター毎に数分ずつは目視確認してもらうけど、出来そう?」
「・・・頑張ります」
「そう」
ま、18禁商品の査定とか、させる訳無いけどね。
んー・・今のとこは順調かな・・。
・・・。
ま、いっか・・。
レジカウンター周辺の防犯カメラを増設して、売り上げ確認は厳密にして、何かあったら即通報だ。
これまでに貯まってる万引きの証拠映像に加えて履歴書も確保出来た。
あとは高校の学生証のコピーかな。
あと、未成年の女の子だからなぁ・・。
店内の防犯対策を数段階上げないと・・・。
彼女が中学卒業して、4月1日になる前に、出来るだけ終わらせとかないとな・・。
教えたくはないんだけど、隠し通路のコト教えとくか・・。
店番任せて離れた数時間で犯罪に巻き込まれてたりとかしたら、色々と困るからね・・。
流石に半月弱で改装は出来ないから、ひとまずは店内の模様替えで何とかするか・・。
彼女がホントに働くかどうかは置いといて、そろそろ人手不足が深刻だしね・・。
そういう意味でも、岐路に来たってコトかな・・?
「・・んじゃ、採用」
「ぇ」
「働くのは4月1日以降ね、色々と書類書いてもらうし、持って来てもらうモノもあるから。あとシフトの相談もね」
「・・はい」
何か、言いたい事ありそうだね。
「何かあるなら早い内にね」
「はい、あの・・」
「ん」
手で、「どうぞ、言って?」と促す。
「・・ホントに良いんですか・・?」
「万引きの常習犯雇うのが?」
「・・はい」
「ま、窃盗犯として通報出来るだけの証拠は揃ってるんだし、履歴書で自宅とかも割れたし、マジメに働かなきゃどうなるのかは分かるよね?」
「・・」
無言で静かに、小さく頷いた。
「まぁ、かなりリスクだとは思うけどね、君がマジメに働いてくれてる内は、大丈夫だよ・・逆に言えば、キッチリとマジメに働いてくれるかもしれない人員を確保出来た、と思っとくよ」
「・・・はい」
「で、書いて持って来てもらうモノだけどね・・」