1 漫画家と、普段の日々
「さて、とー・・」
レジ内で、低い方のイスに座り、液タブを移動させた。
今月の締め切りまで、あと1週間。
残りページは5ページ、余裕めかな。
ついでに夏コミ時期合わせの委託同人誌の原稿も進めたい所だ。
カロンカロンカロン・・♪
「いらっしゃいませー」
入って来た子供がレジカウンターに10円置き、店内中央のテーブルにランドセルを置いた。
ノートとか置いて勉強を始めた。
あの子は平日に来て2時間程過ごしてから帰っていく。
多分、学校終わりに来てるんだとは思うけど、夜まで帰れないのかな・・。
「・・これください」
「まいど」
レジカウンターに置かれた本は300円。出された千円札に、700円のお釣りを返した。
「読まなくなった本は買い取りますので、よろしくお願いします」
「・・ん」
今日は返事してくれた。珍しい。
今、『宮沢賢治短編集』を買っていった女の子は、たぶん近所に住んでる子だ。
月に2回か3回か、そんくらいの頻度で買っていってくれる。
品揃え的にも在庫的にも趣味の域を脱しない、ウチみたいな狭小古本屋にとっては良いお客さんだろう。
まぁ、週1くらいの割合で万引きしてくのは止めて欲しいけど。
バレてないつもりなのかもしんないけど、毎回毎回、防犯カメラでバッチリ撮れてるんだよねぇ・・。
証拠映像は貯まってく一方だ。
ま、可愛らしい子だし、もう少しだけ放置しとくか。
トゥルルルル・・♪
ん?何だろ。
「はい、フロントですー」
[すみませーん、ゴム切れてるんですけどー]
「ぁ、すみませんー。すぐにお持ちしますねー。えっと、あと1時間で『御休憩』時間は終わりですが、大丈夫ですか・・?」
[大丈夫ッス。あと2回はイケるんで!]
・・彼女さんのコト考えてるのかな・・。
・・・あの部屋入ってったの、高校生くらいのカップルだったよなー・・?
ちゃんと避妊とかするんだ・・。意外だね・・関心関心・・。
「・・」
裸で出て来ないで欲しいもんだ。
女子ならともかく、男子の裸なんか見たくも無い。目が腐るわ。
さて、と。
2階のホテルのチェックアウト時間の21時まで、あと2時間。
1階の古本屋の閉店時間20時まで、あと30分。
やれる事は やっておかないと。
シャッター横の張り紙が剥がれかけてたから、貼り直す。
『要らない本がありましたらコチラへ→』
張り紙の矢印の先には、ポストがある。
週刊少年誌くらいの厚さのモノなら入るくらいのサイズのポストだ。
ポストに本を入れると、金属製の粗めの格子の上を平行に移動して、その先の机の上に乗る形になる。
初期の頃は、ポストのすぐ裏側に本受けの袋が設置されていたのだが、ゴミを
入れられたりジュースを流し込まれたり、火の着いたままのタバコの吸い殻を入れられたりした。
本がビチャビチャになったり、ボヤ騒ぎになったり、ロクなことにならなかった。
本を濡らすとか、ゴミまみれにするとか、燃やすとか、とても許せる事では無かった。
ただ、それらは『取り返しがつかなくなる』から、まだ諦めもつくのだ。
『取り返しがつく』範囲の出来事は諦められず、自分が許せなくなったモノだ。『防げたハズ』のソレは、『本がグチャグチャになった』事だった。
裸のまま放り込まれた本が受け袋の中で開いて、ページとかが折れ曲がって悲惨な事になったのだ。
受け側さえマシなモノだったなら、防げたハズの出来事だったのだ。
現在の形にした事で、ポストの投入口のすぐ内側で『要らないモノ』は自動的に落ちてくれる。
ポストから本がはみ出した状態で火を着けられたりしたら困るけど、ゴミとか液状のモノとかは分別出来るのだ。
まだ何か対策出来そうなんだけど、図書館の返却口の内側とかはどうなってるのかな・・?
今度、中央図書館に行った時に聞いてみよっかな・・。
1階の古本屋は20時5分に閉店できた。
店内中央の閲覧机で居眠りしてたサラリーマンを起こすのに時間食ったせいだ。
・・・大人が使う場合は使用料300円に値上げしよっかな・・100円じゃ割に合わない気がしてきた。
2階のホテルは2部屋ともチェックアウトするまでに時間かかって21時30分に閉店だ。
そちらも、超過料金を厳しめに設定した方が良いかもしれない。
『御休憩』のみで、2時間で4000円。
学生割引も可能だけど、学生証を出す人達はあまり居ない。
そりゃそうだ。男子ならともかく、女子は出さないわなぁ・・。
たまに出すカップルも居るには居るけどさ・・。
古本屋とホテルの今日の売上は、まぁ、そこそこだ。
ホテルの方の売上が良くて助かる。
5月のゴールデンウィーク期間は祭りのおかげで かき入れ時だから、そこに期待して待つか・・。
祭り期間限定の、ホテルの夜間営業はかなり儲かるのだ。
その期間限定のバイトを雇いたいくらいには。
何にしろ、今日も無事に終わった。
明日は祝日だから、古本屋の開店時間が早い。
早めに寝ないと。