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第8話



村に住む事が決まった私達はさっそくサナリアさんの案内で村の住人に猪肉と熊肉のお裾分けをしながら挨拶に回った。皆とても親切ですごく優しく「困ったときはいつでも言いなよ!」と笑顔で言ってくれた。


それと私達が住む家はすぐに見つかった。村から少し離れた場所だったけど、自然の景色が見渡せて最高だったし、近くに川も流れているから洗濯物や洗い物に困ることもなく文句なしの物件だった。だけど、長い間誰も住んでいなかったせいで家の基礎や設備はボロボロで修復するのに少し時間が掛かるとの事らしい。


修復するにあたって「何かお望みがあれば聞くよ?」とサナ父…ベルド男爵に聞かれた私は「お風呂と3人分の部屋をお願いできますか?」と言うとベルド男爵は難しい顔をした。3人分の部屋はなんとかなるが、お風呂はかなり費用が掛かるからどうすることも出来ないとの事。「仕方ないですね…」と簡単に諦めると思ったら大間違いだ。私はアーシャとミーシャの3人で快適に過ごしたいのだ。なので、私が直々に設計と建築をすることに決めた。


周りからは反対を押し切り、私は簡単に図面を引いて家の設計をした後、さっそく建築に取り掛かった。前世では倉庫や収納庫の建築や修理を何度も手伝わされた私にとってこれくらい楽勝だった。


テキパキと働きあっという間に基礎の修復と2階の建築を進める私に皆開いた口が塞がらない様子だった。最初は反対していた村の人達も手際が良すぎる私の仕事に感心して手伝うようになっていった。


ベルド男爵や大工に自信のある人達に簡単に出来るお風呂の設計図を渡して説明した。簡単に言えば仕組みさえ分かれば誰でも作れる薪風呂だ。林業を嗜んでたおっちゃん達が休憩所に露天風呂を作って入ってるのは知ってたし、作り方も教えてもらったからわかる。


設計図を見たベルド男爵は「画期的な発明だ!」と大興奮して何処かへ走り去っていき結局戻ってこなかった。


一仕事を終えて休憩している時も村の人達との交流を大切にした。農業や畜産の話になった時は時間を忘れるほど話が盛り上がり、農業の問題点や欠点を指摘し、それに対する解決策や対策を教えてあげると村の皆はとても喜んでいた。


辺りは暗くなり始めたので、今日の仕事を打ち切り屋敷へ戻った私は建築で汚れた体と汗を流した後、調理場へ行き全員分の料理を作っていた。さすがにお世話になりっぱなしは悪いと思い料理だけでも手伝おうとお願いした所、渋々といった感じで承諾してくれた。


最初は皆不安そうにしていたが、一口私の料理を食べた瞬間、態度は一変して今では私の料理の虜になってしまった。しかも料理番の人達から「弟子にしてください!」と懇願され、今では料理長として料理を教える立場になってしまった。なぜこうなった…?


夜も更け皆が寝静まった後、私はアーシャとミーシャの為に洋服を編んでいた。少しでも洋服があった方が2人も喜ぶと思っての事だ。それにスキルが上がればもっと良いものが作れると思っている。建築スキルも料理スキルも裁縫スキルも生活するうえで欠かせないスキルだ。積極的に上げていきたい。


そうして時間はあっという間に過ぎていき早くも1週間が経過し、無事に家の修理と増築を終わらせた。協力してくれた皆にお礼を言い、私達の新しい生活を祝って皆で宴会してのだった。




「ん…んん…」


窓から差し込む朝日に目を覚ました私はまだ気だるさが残る身体を起こし大きな欠伸をした。辺りをキョロキョロと見渡すと隣にはミーシャがまだスヤスヤと眠っているが、お母さんの姿は何処にもいなかった。


(…あれ?お母さん?)


まだハッキリしない意識のままベッドから降りた私は部屋を出ると、ほのかに美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。匂いを頼りにしながら階段を降りてリビングにやってくると台所に立って朝ご飯を作るお母さんの姿を発見した。


私に気付いたのかお母さんは振り返って「おはようアーシャ、よく眠れた?」と笑顔で挨拶してくれた。お母さんの笑顔を見ただけでとても安心する。あぁ…そうだ。この人は私のお母さん。私がずっと欲しかったお母さんだ。


私はお母さんに近付きギュゥと強くお母さんを抱きしめるとお母さんから伝わってくる優しい温もりを肌で感じると私の心は満たされていく。


(お母さんの匂いと温もり…すごく落ち着く)



私はふにゃぁ~…と全身に力が入らなくなるくらいの安心感を感じているとお母さんはクスクスと笑いながらギュッと私を抱きしめてくれた。


「そんなに尻尾を振っちゃってアーシャは甘えん坊さんねぇ♪」


「うぅ…、ダメですか…?」


「ダメじゃないよ。私としてはいっぱい甘えてくれるすごく嬉しいかな」


お母さんは優しく微笑みながら私の頭を撫でてくれた。この人が私のお母さんでホントに良かったと心から思った。


(この時だけが私にとって幸せの時間なのです♪)


「あ~っ!」


「っ!?」


後ろで急に大声を出すミーシャにビックリした私はお母さんからバッと離れて後ろを振り返った。


「み、ミーシャ!朝から大声を出さないでください!ビックリするじゃないですか!」


「るぅ~…!だってアーシャお姉ちゃんだけズルい…!ミーシャだってママとギュ~ってしたい!」


ミーシャはお母さんに駆け寄ると思いっきり抱きついた。


「るぅ~♪ママはミーシャのママ♪」


「違います!お母さんは私とミーシャのお母さんですよ!」


「むぅ~…!」


「クスクス。はいはい!私はアーシャとミーシャのお母さんだよ♪ちゃんと仲良くしてね?」


お母さんは楽しそうに笑って私とミーシャを優しく抱きしめると「2人とも大好きだよ!」と笑顔で言ってくれた。その言葉がとても嬉しくて私とミーシャも「お母さん(ママ)が大好き!」と笑顔で言った。私達にとってお母さんは太陽のようなとてと温かく優しい自慢のお母さんです!




朝のスキンシップを終えた私達は朝ご飯の準備を始めた。アーシャとミーシャはまだ寝間着のままだったので、一度着替えるために寝室へと戻っていった。


今日の朝ご飯は一口サイズに切ったサンドイッチと野菜たっぷりのコンソメスープだ。お肉と揚げ物ばかりだとアーシャとミーシャの健康面が不安になるので野菜も積極的に食べさせないと…。お母さんも献立だけじゃなく健康面でも毎日こんな事を考えていたのかな?と思うと親というのは中々苦労が絶えないものだとつくづく思い知らされてしまう。


「母親になるのも楽じゃないわね…。もっと頑張らないと!」


アーシャとミーシャに恥じない自慢の母親になれるように毎日の努力はするつもりだ。その為にこの1週間もの間、寝る間も惜しんでこれからの生活に役立つスキルのレベルを上げに上げまくったのだから!


「お母さん、着替え終わりました!」


「ママ、どう?ミーシャ似合う?」 


バタバタと階段を駆け降りて私のもとにやって来たアーシャとミーシャは着替えた服を私に見せに来た。


アーシャが着ている服はベルト付きワンピースととてもシンプルだ。大人しいアーシャにとても似合う服だね!でも、率直な感想を言うとアーシャにはもうちょっと冒険して欲しいかなぁ~…。


ミーシャが着ている服はキャミソールにフリルのミニスカートと動きやすさ重視だ。まぁ、外は暖かいし、元気いっぱいのミーシャらしい服だけど、ちょっとラフすぎない!?


これには私もしょうがないと理解できる。奴隷として長く辛い生活をしてきた2人にとってオシャレは無縁に等しいものだ。でも、これからはいっぱい遊んで、いっぱいオシャレして、沢山楽しいことをして貰いたいと思っている。その為だったら私はなんでもしてあげる!だって母親だもん!


「……お母さん?」


「……ママ?」


意気込んでる私をアーシャとミーシャは首を傾げながら見つめる。それにハッとした私はちょっと恥ずかしくなって軽く咳き込んだ。


私もオシャレとは無縁の生活を送ってたけど、時代遅れにならないように友達から人気の雑誌を何十冊と借りては読み漁り、猛勉強してた時期があった。まぁ、結局は読んだだけで終わったけど…。でも、だからこそオシャレやコーデには自信がある!


(アーシャとミーシャを可愛らしくコーデしてあげるわ!……と、その前に)


流行る気持ちを抑えて私は「まずは先にご飯食べよっか!」と言うとアーシャとミーシャは「うん!」と頷いた。私達は席に着き「いただきます!」と合唱してご飯を食べようとした瞬間、コンコン…と扉を叩く音が聞こえた。


顔を見合わせこんな朝早くから誰だろう?と思いながら扉を開けるとそこには満面の笑顔のサナリアさんことサナちゃんと侍女のアルカさんがいた。


「おはようルナちゃん!遊びに……!」


「ごめんなさい。人違いです」


私はパタン…と扉を閉めたと「ちょっとルナちゃん!ひどくない!?」と扉を開けようとするサナちゃん。私はそれを必死に阻止した。


「友達で親友の私に対してなんで扉を閉めるの!?」


「遊びに来るのはいっこうに構わないわよ!でもね、こんな朝早くから来られたら迷惑よ!まだ朝ご飯も食べてないっていうのに…!」


ギギギギギ…!と力ずくで扉を開けようとするサナちゃんに私も全力でドアノブを両手で握りながら開けるのを阻止した。てか、サナちゃん力強っ!?


「そうなの!?奇遇だね!実は私たちも朝ご飯を食べてな…!」


「帰れ~!ご飯食べてから遊びに来なさいよ!この確信犯めっ!」


「良いじゃん!ルナちゃんとアーシャちゃんとミーシャちゃんに早く会いたかったのもあるけど、やっぱり一番はルナちゃんが作るご飯が食べたいなぁ…って思って!」


「その発言ですでにアウトよ!」


「だってルナちゃん全然私と遊んでくれないじゃん!いい加減私と遊んでくれても良いんじゃないの!?」


「あのねぇ…!家事したり、畑仕事したり、食材の調達や今日の献立を考えたりとこっちは毎日多忙なのよ!遊んでる余裕も暇も今の私には無いわぁ~!」


構ってと駄々をこねるサナちゃんにちょっとイラっとした私はより一層力を込めて扉を閉め出した。


ベルド男爵の屋敷にお世話になった日からサナちゃんは私に構ってアピールをするようになった。最初は話し相手になったり、ちょっとだけ遊んだりしたけど、サナちゃんの構ってアピールは過激を増していった。家の建築工事の現場に見学に来たり、調理場にやって来てはつまみ食いしたり、深夜遅くに部屋へ訪れては「私の分は!?」と迫ってくる始末…。正直、もう少しだけ自重してくれれば可愛い気があるのに…。


「ルナちゃ~ん!入れてよぉ~!うわあぁぁぁん…!」


「ああ、もうっ!わかった!わかったわよ!」


深いため息を吐いた私は扉を開けてあげるとサナちゃんは「おじゃましま~す♪」とケロッとした様子で家の中へ入ってくると私に抱きついた。


「ありがとうルナちゃん♪私は優しいルナちゃんが大好きだよ!」


「はいはい…、分かったからいい加減離れてちょうだい」


「えぇ~…、もうちょっとだけ!」


「はぁぁ~…」


過剰すぎるサナちゃんのスキンシップにため息しか出ないけど、このスキンシップにも段々と慣れきた自分もどうかと思う。


「おはようございます、ルーナフェシナ様」


「おはよう、アルカさん」


私に挨拶するアルカさんに「毎日大変だね…」と同情するとアルカさんは「もう慣れました…」となんとも言えない表情をしていた。なんだかアルカさんの気持ちがすっごく分かる気がする。


結局サナちゃんとアルカさんも加わり皆で朝ご飯を食べているとサナちゃんがサンドイッチを頬張りながら「あ!そうだ…」と何かを思い出した。


「ルナちゃんがお父様に渡したお風呂の設計図なんだけど、商人と協力して販売する目処がたったらしいよ」


「へぇ~、それは良いことじゃない」


「うん。まぁ、そうなんだけど…、開発者であるルナちゃんも一緒に話し合いに参加して欲しいって…」


「やだ。忙しいからそっちで勝手にやって良いですよって伝えといて」


「え?本当に良いの?お風呂が売れたらお金の分配とか…」


「今のところお金に困ってないし、お風呂も多くの人に使って貰えたらそれでいいよ」


そう言ってサンドイッチを一口食べた。サナちゃんは軽く息を吐いて「欲がないなぁ…」と言うが、正直な話あまりお金と関わりたくはない。前世ではお金の問題で周りからの信用を無くし、人間関係が壊れてしまい、誰も頼れず毎日が孤独でお金に振り回される人生だった。そんな人生はもうこりごりなので、出来るだけ使わずに自給自足の生活をするつもりだ。アーシャとミーシャには苦労を掛けるかもしれないけど、そのぶん私が精一杯がんばらなきゃ!


「ルーナフェシナ様、私からも1つご報告がございます」


「ん?何ですか?」


「旦那様がフィルファンクス侯爵家…、つまりルーナフェシナ様のご家族にご連絡されたそうです。「ルーナフェシナ嬢は我が領地に滞在しております」と…」


どうやらベルド男爵は私…正確に言えばルーナフェシナちゃんのご家族に連絡したらしい。ま、妥当な判断だと思う。私でも子どもを預かっていたら真っ先に保護者に連絡する。


「それで?返事はなんて来たのですか?」


私はアルカさんにそう尋ねるとアルカさんは食事の手を止めて俯き暗い顔をしていた。それだけでなんとなく察した私は「なるほどね」と言ってコンソメスープを一口だけ飲んだ後、「私は捨てられたのね?」と言った。


「……はい」


「そう…、それは良かった」


私の言葉に皆が驚き私の方に顔を向けた。サナちゃんが「ルナちゃん、本当に良かったの?」と心配そうに聞くも私は笑顔で頷いた。


「子どもを簡単に捨てるような親なんてこっちから願い下げよ!」


「で、でも…」


「それに…、私は記憶喪失だもの。家族の事なんて私は知らないし、別にどうでもいいわ。それよりこれからの事で私は忙しいのよ!」


仕事と家事と村の皆との交流と手伝い。私はかなり多忙な生活を送っているが、一刻も早くこの村に慣れる為には多少の無理は承知だ。これも全てアーシャとミーシャが健やかに元気に育って欲しいと思う私なりの配慮だ。


「さぁ!今日も1日頑張るわよ!おーっ!」


「「おー!」」


「ルナちゃん、たまには息抜きも必要だよ…?」


心配するサナちゃんに私は「当分は無理」と答えた。この先の予定と計画を頭の中で組み立てながらモグモグとサンドイッチを食べるのだった。


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