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第5話



お風呂に入り朝食を食べた私達はこのまま森の中に居続けるのも限界があると感じたので、荷造りを済ませて移動することにした。昨日は私1人で移動していたが、今はアーシャとミーシャの幼い2人がいる。なので、行動の1つ1つを慎重に行わないといけない。


「ガウッガウッ!」


黒い毛並みを持つ犬の魔物が私目掛けて襲い掛かってくる。二頭の犬が正面から、一頭ずつが側面から襲い掛かる。とても素早く動き他の犬との連携が取れてる。重い剣を振り回しては他の犬たちの対応に遅れる。犬の行動をある程度把握した私は正面から来る二頭の犬を先に相手する事にした。


犬が私に飛び掛かった所に私は体を横にずらして犬の攻撃をかわすと同時に剣を振い、犬の頭を斬り飛ばす。そして、もう一頭の犬が背後から襲い掛かろうとした瞬間、私は後ろ蹴りで犬の攻撃を阻止して振り向き様に剣を振るった。残り二頭……。


「ガウガウ!」


「バウ!」


犬が吠えると側面から同時に襲い掛かった。私は剣を手放し襲い掛かる犬に向けて指鉄砲を突き付けた。指先からバチバチと火花が散りビー玉ほサイズの玉が出来上がる。


「バン!」


一言そう言うとドキュゥン!と騒音が響かせながら赤い光線が犬の体を貫いた。体を貫かれた犬はドサッドサッと倒れた。そして…。



ウルフを4体倒しました!自分より格下の相手を倒した為、獲得できる経験値が減少します。経験値20獲得。


固有スキル【経験値倍加】が発動しました!獲得した経験値を2倍にします!経験値40獲得。



毎度お馴染みのアナウンスが頭の中で流れる。犬の魔物はウルフという名前らしい。つまり狼か…、正直危なかったわね…。


狼はとても賢く群れで行動して仲間の狼と連携して獲物を狩る。森に住む動物たち、あの熊でさえも狼に恐れをなして逃げ出すほど狼という動物は森の捕食者として君臨しているのだ。格下とはいえ、数の暴力には勝てない。それに狼が出現したという事はここは彼らの縄張りである可能性が高い。出来るだけ早くここから離れないと…。


(私1人なら何とかなる。だけど、今は…)


ふぅ…と一息ついて身の回りの安全を確認した後、私は振り向き「アーシャ、ミーシャ、もう大丈夫だよ」と言うと木の影と茂みからひょっこりと顔を出したアーシャとミーシャは笑顔で私の元へとやって来た。かわええなぁ~…♪


「お母さん!」


「ママぁ~!」


笑顔で駆け寄る2人を私は両手を広げて受け止めた。私の体に顔を埋めてスリスリと擦った後、2人は「ぷはぁ…!」と顔を上げてニッコリと笑った。ホントかわええなぁ~!ウチのマジ天使♪


「お母さん、かっこ良かったです!」


「ママ、つよぉ~い!」


「えへへ、ありがと~♪2人とも怖くなかった…?」


元気に「うん!」と返事をする2人に私は「えらいえらい♪」と言って笑顔でアーシャとミーシャの頭を優しく撫でてあげると2人は幸せそうな顔で尻尾をフリフリと振った。あまりの可愛さにニヤけてしまう。


(かわええなぁ~♪…と、こんな事をしてる場合じゃなかった。早くここから離れないと…)


私は「ここからはるべく離れよう」と言うとアーシャとミーシャは「は~い!」と元気よく返事をした。仕留めた狼をポーチの中に入れて移動を始めた。


なぜ小さなポーチに狼を入れる事が出来るのかというとこれは「マジックバック」と呼ばれる魔道具らしい。バックのサイズごとに容量が決まっており、私のポーチは丸太4本分は軽々と入る容量を持ってる。なので、荷物は全てポーチの中だから手ぶらで移動できている。ホント便利だよね~♪


それともう1つ、新しく覚えた【重力魔法】に関してだ。これは手に触れた物や体重の重さを自由な変える事ができる魔法だ。欠点は手に触れている間だけ魔法の効力があるという事と撃てないという事だけ。まぁ、レベルが低いからこれくらいしか出来ないんだと思う…。思いたい…。


重力魔法を発動した状態で手で岩に触れて持ち上げてみるとヒョイと片手で軽々と持ち上げれた。生き物にも効果があるのかどうか試すためにアーシャとミーシャを手で触れ持ち上げると同じ効果があったので、多くの場面で使い道があると感じた。


(この魔法のおかげで剣の重さを軽くして余裕で振り回す事ができたし、体重も軽くしたからあまり疲れも感じない。今まで覚えた魔法の中でダントツの1位だよ!)


…とちょっと前の出来事を回想していると森を抜けてしまった。見渡すと見晴らしのいい草原地帯で吹き抜く風がとても心地よかった。


「…森を抜けちゃったわね」


「お母さん、この道を辿れば村か町に行けるかもです」


アーシャが指差す方に視線を向けると真っ直ぐと続く道があった。だけど、看板や立て札が無いのでどっちの方向に行けば良いのか分からない。まるで地元の田舎に帰ってきた気分だ。


「さて、どっちの方向に行くかだね~…」


顎に手を当ててどっちの方向に行くか悩む。行く方向によって長時間歩くか、もしくは野宿するハメになる。アーシャとミーシャの事を第一に考えるとあまり負担や苦労をさせたくない。


(どうしたものかなぁ~…)


私が「う~~ん…」と悩んでいるとアーシャとミーシャの耳がピクッと動いた瞬間、2人は同じ方向に顔を向けた。


「…ん?どうしたの?」


「ママ、あっち方からギンギン!て音が聞こえるよ?」


「これは…戦闘音です!」


「…え?マジで!?」


2人の言葉に私は驚き耳を澄ましてみるが、風の音や木々が揺れる音しか聞こえない。


「う~ん…、私には聞こえないわね…」


「獣人は聴覚と嗅覚が人一倍敏感なんです。なので、離れた所でもある程度の音や匂いを感じ取れます。ね、ミーシャ?」


「うん!」


私は「へぇ~、すごい!」と2人に感心して頭を撫でてあげた。


(さて、それなら反対側の道に行った方が……ん?)


そう思っているとミーシャが私の袖をクイクイと引っ張っていた。

私は屈んで「どうしたのミーシャ?」と聞くとミーシャは「助けに行かないの…?」と首を傾げながら言った。その言葉にドキッとした私は言葉に詰まった。


アーシャとミーシャの安全を考えるのなら反対側の道を行くのが懸命だ。だけど……。


「私からもお願いです。お母さん、助けに行きましょう!」


アーシャも同じ思いみたいで私は「う、う~ん…」と唸りながら渋った。本当なら私だって助けたいのは山々だ。だけど、幼いアーシャとミーシャの事を考えると危険は出来るだけ避けたかった。


(…でも、このまま知らんぷりするのもなぁ…)


チラッとアーシャとミーシャに視線を向けると「ママぁ…」「お母さん…」と上目遣いで私を見つめる娘たち。潤んだつぶらな瞳に私は「うぐっ…」とたじろぎ、観念したように大きなため息を吐いた。


「…わかった。助けに行きましょう!」


「「ホント!?」」


「ただし!絶っっ対に怪我しないと約束してね!」


「「うん!」」


嬉しそうな顔で頷く2人に私はガクッと肩を落とし「敵わないなぁ…」と呟き、アーシャとミーシャをおんぶしながら重力魔法を掛けて私達の体重を極力軽くした。


「それじゃ行くよ!振り落とされないようにしっかり掴まっているのよ!」


「「うん!」」


アーシャとミーシャはギュゥ!と私にしがみつき、2人に負担が掛からないように細心の注意を払いながら駆け出した。高く飛び跳ねるように風を切りながら進む自分のスピードに私は驚いた。


(わぁお!体重を極力軽くするとここまで早くなるのね!)


降下したらまた地面を蹴って高く飛び跳ねる。それを繰り返して前へ進むと「お母さん!」「ママ、あれ!」とアーシャとミーシャが2人して同じ所に指を差した。


「ええ、見えているわ!」


すでに甲冑を着た何人かが血を流し怪我をしている。いかにもガラの悪そうな人達は下品な笑みを浮かべながらジリジリと距離を詰めているのが分かる。そして、甲冑の人達の背後には馬車があり、それを守るように甲冑の人達は陣形を固めている。


「明らかに不利ね…。アーシャ、ミーシャ、行くわよ!」


「はい!」


「ママ、悪い人やっつけて!」


「りょーかい!」


私はグッと足に力を込めて空高く飛んだ。上からだと状況がよく分かる。私はすぐさまガラの悪い人達に視線を向けた。ニタニタと笑みを浮かべて弓を構えている人達を発見した私はアーシャとミーシャに「ちょっと腕を離すからしっかり掴まっててね?」と言うと2人は「うん!」と返事をした。指鉄砲を前に突き出し指がバチバチと小さな稲妻を発生させながら弓を構えている人達に狙いを定めて4発の魔法を放った。


ドキュゥン!ドキュゥン!ドキュゥン!ドキュゥン!と激しい音を響かせながら放たれた光線は弓を構えている人達に次々と命中した。


「ぐあぁっ!?」


「ぎゃぁっ!?」


「あがぁっ!?」


「うがあぁっ!」


魔法で撃ち抜かれた人達は感電しバタバタと倒れ痙攣している。よし、スタンガンをイメージして撃ったから生きてるわね!


「お、おい!どうした!?」


「新手だ!い、一体どこから!?」


予期せぬ攻撃にザワザワと騒ぎだすガラ悪の人達を余所に私は甲冑の人達の目の前に着地した。


「え!?き、君は…?」


上から降ってきた私に驚く甲冑の人達に私は「ただの通りすがりです」とだけ答えてアーシャとミーシャを下ろした。


「アーシャ、ミーシャ、危ないからここで待ってて!」


「「うん!」」


私はガラ悪の人達の方に振り向き歩きだすとアーシャとミーシャが「お母さん、頑張って!」「ママ、がんばれ!」という声援が聞こえた。その声に応える為に私は親指を立てながら顔だけ振り返り「まっかせなさい!」とウインクした。


「ボス!相手は魔術師ですぜ!どうしやす!?」


「たかがガキ1人加わった程度でビビってんじゃねぇ!野郎共、やっちまえぇ!」


「「「うおぉぉぉ!」」」


ガラ悪の人達の頭と思われるハゲ男の一喝によって一斉に武器を構えて襲い掛かってくる。私は指鉄砲を前に突き出しスタンガンを何発も撃った。


「ぎゃあぁぁ!」


「あばばばば…!」


「し、痺れれれれ…!」


雷を帯びた光線はガラ悪の人達に命中しビリビリと体を痺れさせ次々と倒れる。それを見たガラ悪たちは勢いを失いかけていた。「こ、このガキ…!仲間に一体何しやがった!?」とガラ悪の1人が私に質問してきたので、私はニッコリと笑って「自分の体で体験すれば?」と言ってスタンガンを撃った。


ドキュゥン!ドキュゥン!と激しい音を響かせて撃つスタンガンに1人、また1人とガラ悪たちは倒れていった。


「このガキがっ!調子に…!」


1人が私の元に辿り着き斧を振りかぶっているが、昨日の熊と比べたら何の恐怖も感じない。それ以前に動きが遅すぎる。振られた斧をスッとかわし体を回転させて男の顔に回し蹴りを食らわした。


私の回し蹴りで男の顔がメリメリと嫌な音を発てた後、宙を舞い地面に一回転、二回転と転がりながら吹っ飛ぶ男の姿を見たガラ悪たちの動きが止まった。吹っ飛ばされた男を呆然と眺めた後、私にゆっくりと顔を向けた男たちに私はニコッと笑った。


「……じょ、冗談じゃねぇ!こんな所で死ねるか!」


「う、うわあああ…!ば、化け物だあぁぁ…!」


「あんな怪物を相手にできるか!」


「お、お前ら…!待ちやがれ!おいっ!」


ハゲ男の声など一切聞かず我先にと逃げ出すガラ悪たち。手下のガラ悪たちが全員逃げ出した後、1人だけ取り残されたハゲ男は呆然と立ち尽くしていた。


私は「まだやるの?」とハゲ男に聞くとハゲ男は体をプルプルと震わせながら凄い形相で私を睨み付けた。


「ガキが…、俺をここまでコケにしやがってぇ…!」


「やるのね。なら、相手になってやんよ」


私が指鉄砲を構えるとハゲ男は手に持ってた斧を大きく振りかぶった瞬間、「覚えてやがれぇ~…!」と捨てゼリフを吐きながらドドドド…!と物凄い速さで逃げていった。


さすがにそんな行動を取るとは思ってもみなかったので、呆気にとられていると後ろから「お母さん!」「ママ~!」と愛しの娘たちの声が聞こえた。後ろへ振り返るとバフッと私に飛び付き2人はとても嬉しそうに笑った。


「2人とも怪我はしてない?」


「「うん!」」


笑顔で頷くアーシャとミーシャに私はホッと安堵した。これでもし怪我でもしてたらあの男どもを皆殺しにしてたわね。うん、間違いなく!


「あ、あのぅ…」


「…ん?」


甲冑を着た1人に声を掛けられてそちらに顔を向けると甲冑の人達が私達の前に並んで立っていた。


「どなたかは存じませんが、危ない所を助けて頂き感謝します!」


甲冑の人達は私達に深々とお辞儀しながら「ありがとうございます」言った。


「い、いえ…、ただの通りすがりですからお気になさらず。それより怪我の手当てをした方が…」


「お心遣い感謝します。ですが、この程度の傷どうってことありません!」


笑顔で「平気です!」と言う甲冑の人に私は「えぇ~…」と若干引いた。なぜなら身体中傷だらけで足元も覚束ないほどフラフラの状態だ。こんな状態で「平気です!」と言われてもまったく説得力がない。こんなんで馬車に乗ってる人の護衛なんてできる訳ないでしょ!?


「強がりも良いですけど、それだと守るべき主人を守れないでしょ?」


「そこは気合いと根性でどうにかなります!」


キランと歯が輝くほど爽やかな笑顔で根性論を述べる甲冑男性に私は呆れた。私は「もう…、しょうがないですね…」とため息混じりに言いながら甲冑の人達一人一人に回復魔法を使って彼等の傷を癒してあげた。


盗賊との戦闘で負傷した人達は体をペタペタと触りながら驚いていた。傷が治った甲冑の人達を見て私は「ま、これで大丈夫でしょ」と安心した。これでまた怪我したとしても知ったこっちゃない。


「じゃ、私達はこれで…」


ここでの役目も終えた私はさっさと村か町へ行く為にアーシャとミーシャを連れて踵を返した瞬間、「あ!お、お待ち…!」と甲冑の人が声を掛けるが、私にも用事というものがあるので構っている暇ない。そのまま無視してその場から立ち去ろうとした瞬間、「待ってください!」と今度は女の子の声が聞こえた。


馬車の扉がガチャと開くとそこから赤髪ロングにオレンジ色の瞳を持つ可憐な女の子とその隣には軽装の装備をしたメイドさんが立っていた。


「初めまして旅のお方。私はルージュベルド男爵の一人娘、サナリア・ルージュベルドと申します。この度は危ない所を助けて頂きありがとうございます。もし宜しければお礼を……」


貴族特有の丁寧な挨拶をして顔を上げた瞬間、彼女は私の顔を見るや否や驚きを露にして固まっている。


私が首を傾げると次第に口をパクパクと動かしながら震える手で私に指を差すと「……る、ルーナフェシナ様ぁ~!?」と驚きの声を上げた。


(……はて?一体どちら様…?)



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