第2話
「ふぅ…、ご馳走さまでした!」
安全そうな場所を見つけた私はさっそく仕留めたウサギを解体して調理した。調理といっても一口サイズに切ってお手製の串に刺して塩、胡椒で焼いただけの串焼きだ。
農家生まれの私にとっては幼い頃から親に解体のやり方を教わっていたので、今さら動物の臓器を見ても動じることはなくスムーズに解体した。なんてったって鮮度が一番だからね!
体を動かしたせいなのか、自分で仕留めたウサギだったからなのかは分からないけど、すごく美味しくて丸々一匹ペロリと平らげた。そして【スキル簡易習得】が発動してスキル【解体Lv1】をゲットした。今更こんなスキルを貰っても嬉しくない…。
「火起こしが一番大変なんだけど、魔法のおかげで難なく火を起こす事ができた。ホント魔法って便利ね」
私は焚き火を見つめながら魔法の有り難みを実感した。魔法の扱い方は何となく理解出来たから何の問題もなく使う事ができた。
火を起こす際、当然のように私は呪文なんて知らない。試しに「ファイア!」「火よ!」「アチョー!」なんて言ってみたけど、何も起きなかった。ただ凄く恥ずかしくて顔が真っ赤になっただけだけどね。
どうしようか…と悩んでいるとふとマンガを思い出した。念じる力?イメージさえしっかりしていれば呪文なんて要らずに魔法を発動できると描いてあった気がした。私は手を前に出してマンガの通りに集中して火のイメージを頭に思い描くとポンッととても小さな火が出た。
「魔法の扱い方は大体わかった。今はまだ火を起こすだけで精一杯だけど、もっと練習して魔法の力を強めれば出来る事が増える。一番手っ取り早いのは魔物を倒す事ね。…頑張らなくちゃ!」
ユラユラと揺れる小さな火を見つめながら私は意気込んだ。せっかく魔法が使えるようになったのだ。もっと色々な魔法を使ってみたいし、私自身強くなりたい。その為にはまず最初にやらなきゃいけない事がある。それはーー。
「さて、お腹も膨らんで体力も回復したし、さっそく始めますか!」
私はこれまで取った大量の木の実やキノコを地面に並べた。先程のウサギとの戦いで習得したものの中に「耐性」というスキルがあった。色んな耐性を持っていればそれに対するダメージを緩和してくれる筈、ルーナフェシナちゃんの体はとても貧弱でほんの少しのダメージで死ぬ可能性がある。それに痛いのが大っ嫌いな私にとっても耐性スキルは必要不可欠だ。
今から始める行いは自殺行為と思われても仕方のない事だが、私はそれでもやる!だって、これから先もっと痛い思いをするかもしれない。そう思えば今から対策を取っておくのは懸命な判断だ。だって痛いの嫌いだもん!
「よ、よし…!さっそく一口…」
地面に置かれたキノコを1つ手に取る。最初は何の変哲もない椎茸みたいなキノコをプルプルと震える手でゆっくりと口に運んで一口齧った。するとーー。
「…ん?あれ?意外とおいしーーふぐぅっ!?」
ピンポンパンポーン♪
ーお見苦しい姿を晒しておりますので、少しの間だけお待ちくださいー
「ふっぐ…ふむぅ!うげぇ…!」
地面に倒れ伏しビクッビクッと体を痙攣させながら悶絶している私に頭の中でアナウンスが流れた。
固有能力【スキル簡易習得】により、スキル【毒耐性Lv1】【麻痺耐性Lv1】を習得しました!
「や、やっひゃぁ…、ふ、ふひゃつのたいへえすひるふぉてにひへぇひぁ!(やったぁ…、二つの耐性スキルを手に入れた!)」
まだ痺れと吐き気と腹痛を感じながら2つの耐性スキルをゲット出来たことに喜んだ。これで何もゲット出来なかったら泣くどころの騒ぎじゃ収まらない。発狂してもおかしくないレベルの辛さだよ。
「こ、この調子で…、ドンドン…行こう…!そ、その前に…、ちょ、ちょっと休憩…」
少し休んで痺れと吐き気が収まった後、私は覚悟を決めてガシッとさらにキノコを一つ手に取って口に運ぼうとしたが、手がブルブルと震えて言うことを聞かなかった。
怖い……。食べたくない……。本能がそう叫んでいるような気がした。だけど、これも私の為!これからを楽して生きる為に必要な苦行よ!と自分に言い聞かせ震える体を抑え込み涙目でパクッと小さく一口齧った。
(これを乗り越えた先に私の求めるモノがあるんだぁ~!)
ーー3時間後ーー
「…………」
私は長い苦行の末に心身ともに疲弊していた。服も乱れた状態で木にもたれ掛かり私は真っ白に燃え尽きていた。あれほど大量にあった木の実やキノコはもう数える程度しか残っておらず、耐性スキルも色々ゲットすることが出来た。端から見たら「何やってんだ?」と呆れた声が飛んできそうだ。それだけにとても辛く苦しい修行だった。
「もぅ…、やめよ。さすがにこれ以上は廃人になっちゃう…。い、一応ステータスを確認しておこうかな…」
私は力無げに手を伸ばしてステータスウィンドウを開いた。
【ステータス】
名前 ルーナフェシナ・フィルファンクス
性別 女 年齢 15歳
Lv4
HP 60/320
MP 510/1420
【スキル】
【剣術Lv3】【格闘術Lv2】【体術Lv2】【火魔法Lv2】【水魔法Lv2】【風魔法Lv1】【土魔法Lv1】【雷魔法Lv1】【光魔法Lv1】【闇魔法Lv1】【回復魔法Lv3】【浄化魔法Lv1】
【痛覚耐性Lv4】【刺突耐性Lv1】【衝撃耐性Lv1】【毒耐性Lv4】【麻痺耐性Lv3】【混乱耐性Lv2】【魅惑耐性Lv2】【幻惑耐性Lv2】【快楽耐性Lv4】
【固有能力】
【創造魔法】【スキル簡易習得】【経験値倍加】
「ふ、ふふふ…。やった、やったぞ。こんだけ耐性スキルがあればちょっとやそっとの事では死なないはず…!」
私は乾いた笑みを浮かべ虚ろな目でやっと欲しかったスキルを手に入れた事に喜びを噛み締めた。
「辛かった…、すごく、辛かったよぉ…。う、うぅ…」
さきほどまでの苦行を振り返るとポロポロと涙が出てきた。
キノコを食べては毒や麻痺に掛かって身動きが取れず、さらには複数の状態異常を持つものまであり、死ぬ気で回復魔法を発動させるもただ痛みが少し和らぐだけで何の意味もなかった。
痛みと苦しみに耐えながら地べたをのたうち回り、混乱している時はなに降り構わず殴る蹴るに剣を振り回す魔法を放って大暴れする。その結果、【体術】と【格闘術】を覚えた。レベルも上がった。
特にヤバかったのは木の実だ。魅惑と幻惑で身も心も惑わされて狂ったようにその辺の草を美味しそうに食べ始めるわ、媚薬作用がある木の実を齧った時は半端なかった。全身に電流が流れて感度が何倍にも上がり、波のように押し寄せてくる快楽に私の本能が「これはヤバい!」と叫び感じた。感じちゃった…。激しい葛藤の末、レベルが上がって新しい魔法【浄化魔法】を覚えた。もっと早く欲しかった。
(【快楽耐性】は女の私にとってはすごく有り難いわね。正直あれはマジで無理…!あんな感覚に襲われたら……うわあぁぁ!)
憐れもない乱れた自分の姿を思いだして悶絶した。だけど私はあえて媚薬効果のある木の実をなるべく食べて耐性を上げたのだから。
「はぁ…はぁ…はぁ…、な、何はともあれ目的の耐性スキルは手に入れる事ができたんだから良しとしよう!ふぅぅ…、ちょっと休憩してから今夜の食料を確保しにいかないとね…」
空を見上げれば大分日が傾き、後少しもすれば日が落ちて辺りは真っ暗になると大体の予想はできた。暗くなる前に食料と寝床を確保しないとこんな状態で魔物にでも襲われればひとたまりもない。
「ふぅ…、休憩終わりっと!あまり時間も無いし、行きますか」
息を少し吐いてゆっくりと立ち上がるもまだ少しだけ気だるさが残ってるから体がふらつく。だけど、森の中では少しの甘さや妥協で命を落としかねない。ふらつく体に鞭を打ち私は食料と安全な場所を確保する為に暗くなりつつある森の中へと足を踏み入れた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息を切らしながら私達は暗い森の中を歩いていた。後ろではすすり泣く妹のミーシャを手を繋ぎ引っ張るように強引に歩かせる。
「アーシャお姉ちゃん…、ぐすっ、ひっく…」
「ミーシャ、大丈夫よ。私が付いてるから。辛いだろうけど、今は少しでも歩いて」
私は振り返ってミーシャの側へ寄り添うと流した涙を拭った。ミーシャも今の状況を理解して「…うん」と力無げに頷き、私達は再び暗い森の中を歩きだした。
私の名前はアーシャ。ミーシャの姉で姉妹揃って獣人であり、物心つく時から私達は奴隷だった。人並みの扱いなんてされず、あくまで商品として扱われるだけの存在。薄暗く寒い牢獄の中での生活。必要最低限の食事。色んな物が混ざり鼻が曲がりそうな腐った臭い。
毎日空腹に襲われ、毎晩寒さでガチガチに震えて一睡もできず、少しでも泣けば「うるさい!」「黙れ!」と奴隷商の男に怒鳴られ恐怖する日々。
死にたい。殺して。死にたい。殺して。死にたい。殺して。死にたい。殺して。死にたい。殺して。死にたい。殺して。死にたい。殺して。死にたい。殺して。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。そんなことばかり考えていた。
そんな私とミーシャが何故こんな薄暗い森の中を歩いているのかというと、ほんの少し前の話だ。私達はオークションの商品として売り出される為に帝都へと向かっていた。荷馬車に商品である私達奴隷を詰め込み森の中を移動していた最中、森の奥からレッドグリズリーと呼ばれる凶暴で獰猛な魔物に私達が乗っていた荷馬車が襲われた。
奴隷商の男とその取り巻き達は全速力で荷馬車を走らせレッドグリズリーから必死に逃げていた。だが、少しずつ距離を詰められてしまい、やがて荷馬車はレッドグリズリーの一撃で横転してしまった。私達は荷馬車から投げ出されたが運良く茂みの中へと入って身を隠す事が出来た。
そこからは悲惨だった。奴隷商の男やその取り巻き達、そして私達と同じ奴隷の皆はあっという間にレッドグリズリーによって虐殺された。その光景を茂みの影でずっと見ていた私達は恐怖で体を震わせていた。私は初めて「死にたくない!」と心から思った。すると、その願いが叶ったかのように私とミーシャの首輪がガチャンと外れ、私はミーシャの手を掴み一目散にその場から必死に走って逃げ出した。
この後どうするのかなんて考えてない…。何も考えられい。ただ、この場から離れなきゃ!ミーシャと2人で逃げなきゃ!ここにいたら間違いなく死ぬ!そんなのイヤ!イヤだ!死にたくない…!死にたくない!死にたくないっ!私はまだ…生きたい。生きたい…!誰か……誰でも良いから、助けて…。私達を助けて!ーーお母さんっ!
頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも「お母さん」という言葉を心の中で連呼し続けた。
私達にそんなモノは居ないと分かっている。
そんなモノを呼んだって助けになんて来ない。
だけど…、すがらずにはいられなかった。物心ついた時から私にはどうしても欲しいものがあった。それは「お母さん」という存在だ。石で出来た壁に小さな鉄格子の窓、そこからいつも人通りを眺めていた。その中には私と同い年くらいの女の子が笑顔で「お母さん!」と呼んで手を繋ぐ姿。その光景を見てからずっと「お母さん」という存在に強い憧れを抱いた。
「……ちゃん!……シャお姉ちゃん!アーシャお姉ちゃん!」
「!」
ミーシャの声にハッとした私は振り向くとミーシャは明後日の方向をジッと見つめていた。
「…?ミーシャ?」
「なんか…、美味しそうな匂いがするよ」
「…え?」
ミーシャが見つめている方向に視線を向け鼻をクンクンと嗅いでみると確かに美味しそうな匂いがした。
私とミーシャは美味しそうな匂いがする方に歩いた。まるで匂いに導かれるように森の中を歩いて茂みを割って進むとそこには焚き火と丸太の椅子、それに枝や木の葉で作ったお手製の家?のような物が建っていた。人の気配は無かったが、火を炊いている事から誰かが居るのは確かだった。焚き火の方に視線を向けると串肉が刺さっており、パチパチと音を発てながら焼かれていた。恐らくあれが匂いの正体だ。
お肉からじわりじわりと出る脂がキラキラと輝きながら滴れ落ち、こんがりと焼けたお肉はとても美味しそうな匂いを放ってすごく美味しそうに見えた。
自然とキュウゥゥ~…とお腹が鳴った。私とミーシャはお互い顔を見合わせて頷いた。泥棒みたいな事はしたくないけど、私もミーシャも昨日から何も食べていないので、空腹の限界だった。
出来るだけ音を発てず、ゆっくりと焚き火に近づき焚き火の側までやって来ると串肉を1本ずつ手に取った。口に近付けた途端、ふわぁ~といい匂いが鼻を突き抜けた。ゴクリと唾を飲んでお互い顔を合わせてからガブッとお肉に噛み付いた。
「「……!」」
あまりの美味しさに目を大きく見開き尻尾をブンブンと振りながらお肉の味に感動した。今まで食べた中で1番美味しいと感じた串肉を1本、また1本と手に取って食べ続けた。
「すごく美味しいね!お姉ちゃん!」
「うん!ホントに…すごく美味しいね!」
頷き合いながらポロポロと涙を流してお肉を堪能していると「へぇ~、それは良かったねぇ…」と私達の背後から女の人の声が聞こえた。
「「ぶふぅっ…!?」」
突然聞こえた声にビックリした私とミーシャは吹き出し、ゴホッゴホッと咳き込んだ。
「あぁ、ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど…大丈夫?」
恐る恐る振り返ってみるとそこには白銀の長い髪に青色の瞳の綺麗なお姉さんが申し訳なさそうに笑っていた。
「串焼き美味しかった?」
「「ご、ごめんなさい…」」
勝手に串肉を食べた事で怒られると思った私達は体を震わせながらお姉さんに謝った。すると、お姉さんは私達の頭を優しく撫でてニッコリと笑った。
「別に怒ってないから安心していいよ。それよりお腹空いたんでしょ?まだあるから沢山食べなさい」
「え?い、いいんですか…?」
「ええ、もちろんよ!」
ニッコリと微笑んだお姉さんは手元にある串肉を次々と焼き始めた。少し時間が経って焼けた串肉を私とミーシャに笑顔で差し出した。
「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね」
「あ、ありがとうございます…」
「ありがとう…」
モグモグと串肉を食べながらお姉さんの方にチラッと視線を向けた。私達に対してお姉さんは何も思ってない様子だった。私がじーっとお姉さんを見つめているとお姉さんは私の視線に気付いたみたいで優しく微笑んだ。
「…ん?なぁに?」
「い、いえ!なんでもないです…」
優しく微笑みかけてくるお姉さんに私は慌てて視線を逸らした。
「そう?あ、ほら!新しいのが焼けたよ。はい、どうぞ♪」
「あ、ありがとう…ございます」
差し出された串肉を受け取ってお礼を言うとお姉さんは笑顔で「どういたしまして」と言った。
「こっちのも焼けたよ。はい、どうぞ♪」
「わぁ~!ありがとうお姉ちゃん!」
「ふふ、どういたしまして」
笑顔で串肉を受け取ったミーシャにお姉さんは微笑みながらミーシャの頭を優しく撫でていた。
(ミーシャ、いいなぁ…。私も頭を撫でて貰いたいなぁ…)
「クス。ほら、遠慮せずにもっとこっちに来なさいな」
「あっ…」
羨ましそうに眺めているとお姉さんは私とミーシャの肩に手を置いてグイッと寄せた。
「あ、あの、お、お姉さん!?私達汚れてて…!」
「お姉ちゃん、ミーシャ汚いから離れないとダメだよ…!」
慌てる私と体を震わせて今にも泣きそうなミーシャにお姉さんはギュゥッと抱き寄せて頭を優しく撫でてくれた。
「全然気にしないから平気だよ。それより2人とも大変だったでしょう?こんなにボロボロになるまでよく頑張ったね。えらいえらい」
お姉さんの言葉に私は自然と涙が溢れてきた。ミーシャも同じみたいで顔をぐちゃぐちゃにしながら必死に涙を堪えていた。
「もう大丈夫よ。私が側に付いててあげるから安心してお腹いっぱい食べてなさいね」
「うっ、ひっく…はい!」
「うん、うん!…ぐすっ」
人並みの扱いなんて受けてこなかった私達が初めて人として優しくされた。私達はお姉さんの優しさと温もりを感じ涙を流しながら串肉を食べた。その食べた串肉はほんの少しだけしょっぱく感じた。