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第1話



チュンチュンと小鳥達の囀りが聞こえる。頬と体に優しく触れるそよ風。木々や草花が風にあおられサラサラと自然の音を奏でている。緑が生い茂る木々の葉の隙間から温かな日射しが差し込み私の体全体に心地よい温もりを与えてくれる。


いや、今は自然の素晴らしさについての感想なんてどうでもいい。まず私に確認しなければいけない事、それはーー。


「ここは…、どこ!?」


自分の置かれた状況がまったく理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。私は「え、えぇっと…、確か私は…」と眉間にシワを寄せ額を指で押さえながら必死に自分の事についてとここまでの記憶を振り返ってみる。


まずは自分の事についてだ。私の名前は白崎 千夏(しらさき ちなつ)。農業を営む家系の生まれで両親は今もバリバリの現役だ。


その家の一人娘だった私は跡取りとして幼い頃から親に農業のいろはを叩き込まれて育ってきた。が、当時の私は農業なんてどうでもよく、遊び盛り真っ只中の私は近所の友達と遊びたくて遊びたくて仕方なかった。まぁ、結局は農業の手伝いをさせられて遊ぶことはほとんど出来なかったけどね。


毎日のように朝早くから起こされ農業の手伝いをした後、学校へ行き学校が終わって家に帰ったら夜遅くまで明日の準備の手伝い。これが私の一日の生活だった。


クラスの皆みたいにちょっとしたお洒落やお化粧したり、雑誌を載ってる服やアクセサリーを見ては「これ可愛くない?」とか言って盛り上がったり、恋話に花を咲かせて「キャー♪」とか言ってりなど、そんなイケイケの青春とは無縁だった。


そんな生活に嫌気がさした私は高校を卒業したと同時に親の反対を押し切って東京に上京。これからはお洒落や恋愛など周りの女の子たちが普段やってる事を沢山しようと決めた。だけど、現実は厳しくそんな些細な私の夢は儚く砕け散った。


当時の私は東京の光景に圧倒していた。何もかもがキラキラしていて欲しい物や買いたい物も沢山あった。なので羽目を外して遊びまくった結果、1週間足らずで所持金のほとんどを使ってしまった。しかも東京はお金が凄く掛かる。生活費はもちろんだが、マンションの家賃代や職場に行くまでの移動手段など結構なお金を使う。オシャレにお外でランチ♪なんてもってのほかだ!


仕事も給料がなかなか良かったから入ってみれば黒クロの真っ黒なブラック企業で過度な労働を強いられるようになり、ほぼ徹夜なんて当たり前の働く毎日に身も心も疲れ果てて…、あれ?なんか涙がでてきた…。


「…まぁ、昔の事を思い出すのはこれくらいにしとこ。悲しくて泣いちゃう…」


夜遅くまで残業していた私はフラフラになりながら歩いて帰宅途中だったのは覚えている。だけど、そこから先の事がさっぱり思い出せない。


「………うん、間違いないね」


私は冷や汗を流しながら「過労死かぁ…」とため息混じりに呟いた。テレビなどで何度も過労死による死亡者の放送を見てて「自分は大丈夫!」「私には関係ないや!」と思っていたのに、まさかその自分が過労死によって死ぬとは思いもしなかった。


「まぁ、それは一旦おいといて…!まずは今のこの状況よね?」


深呼吸して気持ちを落ち着かせた私は周りを見渡した後、自分の体を見てある事に気付いた。


「…なんか、私の背が縮んでない…?」


まず最初に自分の身長が縮んでいる事に気が付いた。それだけじゃなく着ている服も見たことがないほど高そうな制服っぽい服装に白いフード付きのローブ、おまけに腰には剣をぶら下げている。見る人によってはコスプレの格好だと言われてもおかしくない。


髪もセミロングほどの長さしかなかったのに、今では太股までの長さがある超ロング。しかも黒色じゃなく白銀の綺麗な髪色だ。


肌も手入れとか一切してなかった荒れた三十路肌とは思えないほど、モチモチスベスベの若い肌だ。そして一番驚いたのが、この胸だ!元の私より二回りほど大きい。あまり言いたくないないけど…、ペチャからボイン急成長した。弾力と張りもあり、そしてとても柔らかくずっと触っていたい気持ちに…、っておっさんか!?


「…ごほん!そ、それにしてもこの体かなりスタイル抜群ね。何かモデルとかしてたのかな…?」


誰の体か分からないが、私はペタペタと触ったり、ピョンピョン飛んだり、動かしたりしながら調子を確かめた。元の体は過度の労働によって肩、背中、腰などの体のあちこちに支障が出てたけど、この体はどこも痛くないし、羽のように軽く感じた。


「若い体って良いわね~…、元の体なんてあちこち痛くて夜もまともに眠れなかったのに。さて、次は…」


一通り体のチェックを終えた私はある事をしようと思った。仕事の同僚が「面白いから読んでみて!」と勧められたマンガ本に異世界転生系があった。もし、私の身に起こっている現象が転生そのものだった場合は「あの言葉」を唱えれば答えがハッキリと分かるはずだ。


「えぇっと…、マンガの通りなら魔法を使う際はイメージが大事だったかしら?それなら何度も読んだあのマンガの通りのイメージで大丈夫かな」


私はゆっくりと手を前に出し、あのマンガと同じものをイメージして「ステータスオープン!」と唱えた。この歳にもなって厨二病みたいなことを言う羽目になるとは思いもしなかったから若干恥ずかしさがあったけど、ここはグッと我慢した。そして思った通り目の前に現れたのは少し透けた見えるウィンドウに私のものと思われるステータスが表示されていた。



【ステータス】


名前 ルーナフェシナ・フィルファンクス


性別 女 年齢 15歳


Lv1


HP 40


MP 550


【固有スキル】

創造魔法



とまぁ、こんな感じのステータスだ。正直に言ってこれが強いのか弱いのかさっぱり分からない。ただ言えることは…。


「友人が借りたマンガと一緒ね…。てか、HPって体力の事よね?あまりにも低すぎない!?」


マンガでもこんな感じっぽいものが表示されていてスキルとか魔法とか色々あった。だけど、私の持つスキルは【固有スキル】であり、しかも創造魔法と何だかとんでもないスキルのような気がした。後はHPが異様に低いということだけ…、これ転んで受けたダメージだけで死ぬレベルじゃない?超怖いんですけど!?


「えぇっと、名前はルーナフェシナ・フィルファンクスかぁ…、うん、私の名前じゃないわね。もしかして、この体の持ち主の名前かしら?ていうか、身なりもそうだけど、名前からして間違いなく貴族だよね…?」


「う~ん」と唸りながら少し頭の中を整理する。つまりこうやって魔法が使えるということはこの世界は私の知ってる世界ではなく、私は過労死によって死んでしまい転生したが、転生は転生でもこの体の持ち主であるルーナフェシナちゃんに乗っ取った、もしくは憑依した…と。そう思った瞬間、嫌な汗がダラダラと流れた。


「ど、どどど、どうしよう…!生まれたての新しい体に転生したならまだしも人様の体を勝手に乗っ取っての転生なんて洒落にならないよ!」


あたふたと慌てふためくもどうすればこの体をルーナフェシナちゃんに返せるのかさっぱり分からない。私は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせ、まずは情報収集から始めようと思った。


ルーナフェシナちゃんの後ろの腰に小さなポーチがあった。もしかしたらこの中にルーナフェシナちゃんに関するもの或いは手掛かりがあるかもと思い中身を確認しようと思った。人様のバックの中を勝手に見るなんて本当はNGなんだけど、そうも言ってられる状況じゃない!なので意を決してポーチの中を確認すると、中身は何も入っていなかった。


「なんで何も入ってないの!?いや、ちょっと安心したけど…、でもこれじゃぁ手掛かりゼロじゃん!一体どうすればいいのよ~!」


(まずは辺りの探索から始めれば良いのでは…?)


「あ!そ、そっか、そうよね!まずは辺りを探索して状況を把握するのが懸命よね…!」


(その通りです。そして、近くに村か町があれば行く事をオススメします)


「よし、分かったわ!ありがとう!それじゃぁ、さっそく……んん?」


気のせいなのか声が聞こえたような気がした。近くに誰か居るのかと思い辺りをキョロキョロと見渡してみるも私以外は誰もいなかった。首を傾げながら「気のせいかしら?」と呟くと(気のせいじゃないですよ)とクスクスと笑う女の子のような声が頭の中に聞こえてきた。


「キャアァァ…!?」


私はひどく驚き悲鳴をあげて近くの木の後ろに隠れた。プルプルと震えながらゆっくりと覗きこんで「だ、だだ、誰!?」と震える声で言った。


(あ、驚かしてごめんなさい。別に怪しい者ではありませんから警戒しないでください)


「頭の中に声が聞こえてくる時点で怪しさ満点なんですけどぉ…!?」


(まぁ、普通に考えたらそうでしょうね。ですが、私は決して怪しい者ではありません。むしろ私はその体の持ち主であるルーナフェシナです)


「えぇぇぇ~…!?」


少女の言葉に私は驚きを露にした。まさかこの体の持ち主本人から直接語りかけてくるとは思ってもみなかった。私の反応が面白いのかルーナフェシナちゃんは楽しそうにクスクスと笑っている。


(あ、悠長に話している時間がないんでした。…コホン。貴女に大事なお話があります)


急にルーナフェシナちゃんの声が真剣になった。私はゴクリ…と固唾を飲んでその大事な話というのを聞こうとした。


(私の体は貴女に差し上げます。なので、どうぞご自由にお使いください)


「…え?」


(それと貴女の世界の神から伝言を頼まれています。「ごめーん☆お詫びにその世界で自由に生きてちょ!」だそうです)


「はぁぁ…!?」


(特別にこの世界で何不自由なく暮らす為、役立つスキルとアイテムを差し上げるとの事です。スキルは問題なく発動できますし、アイテムの方はポーチの中に入れておきますね)


「ちょっ、まっ…!」


(私はこれから新たな人生を過ごすためにこの世界から旅立ちます。あ、そうだ。その体はもうすでに貴女のものですから名前も好きに変えて結構です。それでは…、貴女に女神の加護があらんことを。アデュ~♪)


頭の中でブツンと切れた音が聞こえルーナフェシナちゃんの声はそれっきり聞こえなくなった。とんとん拍子で進む一方的な説明に私は何も答える事ができなかった。身勝手にもほどがあるルーナフェシナちゃんと無責任な神に対して怒りが込み上げ私はプルプルと震えて「私の話を聞けやぁ~っ!」と綺麗な青空に向かって大声で怒鳴るとであった。



数分後ーー。



落ち着きを取り戻した私は地面に座り込んでルーナフェシナちゃんが言っていたスキルとアイテムを確認していた。


「覚えてるスキルは…、【スキル簡易習得】と【経験値倍加】ねぇ…」


ウィンドウに表示されているスキルの説明文には【スキル簡易習得】簡単にスキルを習得できる。と【経験値増加】貰える経験値が2倍になる。という簡単な内容だった。


「アイテムの方は…、歯ブラシと歯磨き粉、マグカップ、お箸、スプーンとフォーク、お茶碗、手鏡、毛ブラシの日用品。フライパン小と中サイズが2つ、鍋、ヤカン、フライ返し、お玉、包丁の調理器具。砂糖、醤油、みりん、酢、味噌、塩、胡椒の調味料。そして手紙…」


私は地面に並べたアイテムを確認した後、封を切って手紙の内容を読むと「消耗品はいくら使っても減らないようにしてあるから遠慮なく使ってね☆」とだけ書かれてあった。


「はぁぁ…、もうこんなに至れり尽くせりだと、怒る気にもならないわね。まずはこの状況をどうにかしないと何も始まらない…か」


深いため息を吐きながらアイテムを一つ一つポーチの中に入れいく。そして全てのアイテムを入れ終わり、私は「よっこいしょ…と!」と立ち上がった。まずはこの現状をどうにかする為にまずは食料調達から始めようと森の中の探索を開始した。


とても穏やかな森を歩きながら探索を続けること数分、そこら辺に落ちていた木の実や山菜、木の根っこ部分に生えていたキノコなどを採取しポーチの中へと入れていく。


「一応採取できるものは採取して食べれるかどうか後で調べよう。動ける内に数を集めなくちゃ!」


山菜などは近所のおばあちゃんから教わってるからある程度の物だったら分かる。それ以外はわからん!


私は森を進みながら木の実、果実、山菜、キノコを次々と採取していくと、ガサガサと茂みの中から角の生えた可愛らしいウサギが現れた。


「か、かわいい~♪」


鼻をヒクヒクさせながら物珍しそうに見つめるウサギの愛くるしい姿にウットリした私は刺激しないようにゆっくりと近付いて手を伸ばした。


「ちちち、おいでおいで~♪怖くないよ~♪」


「キュキュ?」


一歩、また一歩と近付くウサギにあと少しで手が届きそうになった瞬間、ウサギは急に目をギラつかせて「キュキィィ!」と尖った角を私に向けて物凄い勢いで突進してきた。


「うほおぉぉ…!?」


いきなり突進してきたウサギに驚き、間一髪のところで避けた私は慌ててウサギとの距離を取った。


「び、ビックリした!なんで襲ってくんの…!?」


ウサギは再び突進する為に姿勢を低くしている。まるでイノシシみたいだ。


このままじゃヤられる!と思った私は腰に携えていた剣を抜いた。がーー。


「うわっ…、重っ!」


包丁とハサミ以外の刃物を持ったことがない私は剣のずっしりとした重量感にとても驚いた。だけど、弱音を吐いてる場合じゃない!何故ならウサギはすでに角を真っ直ぐ私に向けて襲い掛かってきていた。


「キュヴゥゥ!」


(力の無い私が重たい剣を振ったとしても空振りして隙が出来るだけだし、あの尖った角が当たったら当たり所によっては死ぬわね。それならーー!)


両手でしっかりと剣を持って剣の切っ先をウサギに向けた。わざわざこちらから出向かなくてもあっちから来るのなら迎え撃つまでだ。


(…落ち着け私。…もう少し右、ちょっと下…、)


私とウサギとの距離が段々と縮まっていく。私は僅かな微調整を行いながら狙いを定め剣を突き出すタイミングを見計らった。


(ーー今だ!)


充分にウサギを引き付け、剣の届く距離まで近付いたと判断した私は素早く腕を前へと伸ばし剣を突き出した。


「ギュキュウゥ…!?」


突き出された剣はウサギの頭を綺麗に貫いた。私は安堵して「やった!」と喜びの声を上げたが、ウサギの勢いがありすぎたらしく貫いた剣がウサギの頭からズルリ…と抜け、ウサギの体が私のお腹に当たり、モロに体当たりを食らった。


「うぐぅ…!?」


当たり所が悪かったのか、あまりの痛さに悶絶した私はその場で倒れ込れてお腹を押さえてプルプルと震えた。


「……っ!し、死ぬぅ…、うぅっ」


私は慌てて口を手で塞いで吐き気を抑え、痛みにも堪えた。少しだけ吐き気と痛みが収まってゆっくりと息を吐いた。呼吸を整えゆっくりと起き上がって仕留めたウサギに視線を向けた。


「はぁ…、はぁ…、ふ、ふふふ、食料ゲット!」


笑みを浮かべ額の汗を拭いながら無事に食料をゲットできたことを喜んだ。すると、頭の中でパンパカパーン♪とファンファーレが流れると同時に目の前にウィンドウが表示されるとアナウンスが流れた。



角ウサギを倒しました!経験値15獲得。さらに固有能力【経験値倍加】の効果により、獲得した経験値が2倍になります。経験値30獲得。


レベルが1上がりました!Lv1→Lv2


レベルが上がった事により、スキル【火魔法Lv1】【水魔法Lv1】【風魔法Lv1】【土魔法Lv1】【闇魔法Lv1】【光魔法Lv1】【回復魔法Lv1】を覚えました!


固有能力【スキル簡易習得】により、スキル【剣術Lv1】【衝撃耐性Lv1】【刺突耐性Lv1】を習得しました!



「…なるほど、こんな感じでスキルをゲット出来るのね。なら、これからの方針も決まったわね。さて、安全な場所を探して少し休憩しよう…」


フゥ…と一息ついた私は立ち上がり、仕留めたウサギの耳を掴んで安全な休憩できる場所を探すために再び穏やかな森の中を歩くのだった。

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