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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

千年戦争~ダークファンタジーはこうして生まれる

作者: 葉月

【俺だけ入れる悪☆魔道具店無双〜お店の通貨は「不幸」です~】

が、異世界ファンタジー部門でランキングに載ったことをお祝いし、短編を書かせて頂きましたw( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆

 それは遠い遠い昔。一つの争いがもたらした悲劇である。


 クロルニア帝国がエルビア小国に進軍を開始すると、小国であるエルビアは瞬く間に戦火に包まれた。


「ラグーン第六王子、お逃げください」


 髭を蓄えた中年の男が王城の間で玉座に座る少年に声を掛けている。


 少年の名はラグーン・パレス・ブラッドレイ。

 鮮血に染めた赤い髪と紅月のような瞳。降ったばかりの雪のように光のこもった冷たい肌は女性のように美しい。


 慌ただしく近衛騎士隊や大臣が行き交い、怒号混じりの声音を上げる中、ラグーンは眉一つ動かさず正面を見据えている。


 ラグーンはエルビア小国で6番目の王子であったが。

 王である父が病死し、5人の兄は戦場に散った。

 その為、現在のエルビア小国における実質的な支配者はこのラグーン・パレス・ブラッドレイ、15歳であった。


 しかし、そのエルビアも直に滅びる。

 にもかかわらず、ラグーンは一切動じない。

 まるで感情が抜け落ちてしまったように表情が変わらないのだ。


「ラグーン王子、早くお逃げください! 直にこの城は落とされます」


 近衛騎士隊の男がラグーンに詰め寄り、城から脱出するように言っている。

 が、ラグーンは男の言葉を遮るように手を翳し言った。


「逃げる? 一体どこに?」


 凍てつくような囁きが王の間に木霊すると、その場にいた全ての者が俯き、言葉を失う。

 そう、逃げることなど最早叶わない。

 この城は既に四方を敵に取り囲まれ、どこにも逃げる術などありはしないのだ。


 自らの死を悟り、頭を抱え呻き声を上げる大臣達とは違い。

 王の(つるぎ)としてこの場に留まっている近衛騎士隊は険しい表情を見せながらも、騎士の誇りを胸に堂々としている。


 だが、そんな騎士達から見ても、ラグーンの落ち着きようは目を見張るものがあった。

 それはまるで歴戦をくぐり抜けてきた英雄王とでも言えばいいのか。

 或は生まれ持った王たる者の器なのか。

 何れにせよ15歳とは思えぬほどの落ち着き払ったその堂々たる態度。

 死を悟りながらも慌てぬその姿に、感服の念を抱くほどである。


 だが、ラグーンは自らの死を決して受け入れた訳ではない。

 ラグーンにはこの絶対絶命の窮地を覆す秘策があったのだ。

 それは決して人が冒してはならぬ禁忌であり、自らの魂に永久に等しい呪いを宿すことである。


 ラグーンは徐に立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。

 その顔にはやはり表情はない。

 ラグーンは歩き、玉座の後ろに飾られていた小さな鉄箱を手に取った。


 ラグーンはその鉄箱を開けると、初めて表情を見せる。

 微笑んでいた。

 そのラグーンの微笑みがあまりにも不気味でおぞましく、その場に居た者達が息を呑むほどである。


 ラグーンは薄らと笑い、鉄箱の中からドクンッドクンッと低重音を響かせるそれを取り出し、また微笑んだ。


 そのラグーンの姿に近衛騎士隊の男が声を上げた。


「お止めくださいラグーン様っ!」


 張り裂けるような切羽詰った声音が王の間に響き渡る。

 ラグーンはゆっくりと周囲を睥睨し、手に持った血まみれのそれを頭上に翳した。

 同時に、ラグーンは悪魔に取り憑かれたような甲高い笑い声を響かせる。


 ラグーンが掲げたそれは、悪魔の心臓。

 ここエルビアには古い言い伝えがある。

 【悪魔を喰らいし者、供物を捧げ自らを悪魔と化す】

 それはエルビアでは禁忌とされ、決して手を染めてはならぬ行為。


 だが、ラグーンは今――不気味な音を響かせるそれを天高く掲げている。

 近衛騎士隊の男と目が合うと、ラグーンは悪魔のような笑を顔に張り付けた。

 そんなラグーンを見やり、男は咄嗟に手を伸ばし叫んだ。


「よせえええええええええええええええええええっ!!」


 しかし、時すでに遅し。

 ラグーンは天に掲げたそれを握り潰して、果汁のように搾り出した鮮やかな血を大きく開けた口へと流し込む。

 そして――喰らう。


 その瞬間――

 エルビアの上空は闇雲に覆われ、破滅を知らせる鐘の音が響き渡った。


 ――ゴォォオオオオオオオオオン、ゴォォオオオオオオオオオンッ!!


 二度、重たい鐘の音が鳴り響く。

 すると、王の間には何処からともなく黒い霧が立ち込める。

 その霧の中から漆黒のローブを身に纏ったナニカが姿を現したのだ。


 邪悪な塊と呼ぶべきそれを、ただ呆然と見つめる者たち。

 だが、一人笑みを浮かべる者がいる。

 ラグーン・パレス・ブラッドレイである。


 闇よりも黒いローブに身を包むナニカが言った。


「すべて捧げるか?」


 ラグーンは愉快そうに言う。


「ああ、捧げる。全部やる。だから、力をよこせ」


 ナニカは頷いた。


「選ばれし者よ。汝の望みは叶えられた。この国の全てを供物に捧げ。汝は新たなる悠久の王となる」


 ナニカがそれを言い終わると、王の間は赤き燐光に包まれる。


 ――刹那。


 エルビア国中が血のような赤い光に包まれた。

 同時にエルビア国中から絶望の叫びが無限に響き始める。


 それは王の間でも起きていた。

 王の間にいた全ての者が突然苦しみ、もがき呻きを上げ。

 肉体は黒い霧と化していく。


 その光景をただ笑って見つめるラグーン。



 ――これより千年。


 暗黒時代と云われた世界が訪れ、終焉を迎える。

 暗黒時代の終焉は実にあっけなかった。


 それは一人の少年。

 ラグーン・パレス・ブラッドレイの一言で幕を閉じる結果となった。

 少年は言う。


「飽きた」



 これが千年続いた暗黒時代の終わりであった。

この作品を少しでも気に入って下さったら、評価をお願いいたします。m(_ _)m


また、別作品でポップなダークファンタジーも書いております。

【俺だけ入れる悪☆魔道具店無双〜お店の通貨は「不幸」です~】

宜しければ、読んで下さると嬉しいです。


下のからページに進めます。宜しくお願いいたします。m(_ _)m

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一話だけでも……!
是非お読みください!
俺だけ入れる悪☆魔道具店無双〜お店の通貨は「不幸」です~
― 新着の感想 ―
[良い点] 文章表現が巧み。
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