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赤ずきん君と狼ちゃん

作者: ぼうし

昔々、ある都会に大河おおか魅千屋みちやという女がおりました


彼女の年齢は19歳です


バイトをして稼ぎながら

彼女は今日も今日とて大学に通っておりました


彼女の専攻は心理学

仲のいい友達からは

みちやんという愛称で親しまれています


誰が見てもよくいる普通の女子大生





しかしそれは仮の姿

彼女の正体は人食い狼ちゃんなのです





とある日のこと


空に満月が真ん丸に輝く夜

狼ちゃんはその月を見て血がたぎってしまいました


自らの本能が押さえきれない狼ちゃん

その乾きを潤すために狼ちゃんは狩りに出ます


標的は森に一人で暮らしているおばあさん

狼ちゃんはおばあさんの家の前で時を待ちました


時刻は午後10時

狼ちゃんが待ってから十分ほどたったその時です

おばあさんの家の明かりが消えたのです



しめた、寝に入った今がチャンスだ



狼ちゃんは足音を潜めながら

家の裏に回り裏口の扉へ

そしてなれた手つきで解錠し

ゆっくりと家の中へ忍び込みました


廊下を進み

扉を開け

おばあさんの寝る寝室へ


そこは真っ暗な部屋の中

ベッドの上ではおばあさんが

スヤスヤと気持ち良さそうに寝ています


目の前の獲物の姿を見て狼ちゃんは大喜び



楽な獲物だ

それじゃあ、いただきまーす



そう思って狼ちゃんは大きく口を広げ

おばあさんの寝るベッドに近づきます


しかし

狼ちゃんがベッド近づいた時

急に部屋の電気がつきました


それと同時

狼ちゃんの後ろからおばあさんが現れ

狼ちゃんは羽交い締めに


そのまま流れるように倒され

狼ちゃんはおばあさんに

卍固めをかけられてしまいました


なんと

おばあさんは実は武道の達人

狼ちゃんの視線を感じて罠を仕掛けていたのです


まんまと罠にはまった狼ちゃん

狼ちゃんは暴れようとします

ですがおばあさんのホールドは強く固いままです


成す統べ無く力尽きた狼ちゃん

狼ちゃんはおばあさんに命乞いをしました



ごめんよおばあさん

あたしが悪かったんだ

何でもいうことを聞くから命だけは助けてくれ



そう言って狼ちゃんは抵抗をやめます

するとおばあさんはこう言いました



お嬢ちゃん何でもするっていってくれたよねぇ?

それじゃあお嬢ちゃんに一つお願いをしようか



おばあさんは拘束を解き

狼ちゃんをそのままつれていきます


家を出て

森の奥に歩いて十分

そこには小さな家がありました


そしておばあさんはこう言います



この森の敷地とこの家をお嬢ちゃんにやろう

その代わりに

家の中にいる一匹の動物の世話をしてやってくれ



狼ちゃんに拒否権などありません

ですが狼ちゃんはとてもずるがしこい生き物です



おばあさんの言葉を今の状況では受け入れて

この家の中にいる動物を食べ

ここではないどこかに逃げてしまおう



そう考え付いた狼ちゃんは笑顔で顔を縦に振ります


そんな狼ちゃんを見て

おばあさんはニヤリと笑いました



言質はとったよ



おばあさんは小さく呟きました


次の瞬間

おばあさんは煙となって消えてしまったのです


驚いて狼ちゃんはその場に倒れてしまいます


訳もわからないまま

狼ちゃんは混乱して地を這って

おばあさんがくれるといった

小さな家に逃げ込みました


家に怯えて隠れるように入った狼ちゃん


狼ちゃんはその家の中で

驚くべきものを見てしまいます



それは

ゆりかごの中で寝ている人間の赤ちゃんでした



おばあさんが言った動物というのは

人間のことだったのです


狼ちゃんはおばあさんの言葉を思い出しました



自らの罪は

この人間を育てることで償うことができる

償わなければ

おばあさんにどうされるかわからない

仕方ないが育てるしかないのか



こうして狼ちゃんは

人間の赤ちゃんを育てることを決めました


育てることを決めた狼ちゃん

狼ちゃんはそのゆりかごの外側を確認します

ゆりかごにはネームプレートが貼ってありました

そこには紅月あかづき翔太しょうたと書かれています



そうか

この赤ちゃんの名前は紅月翔太というのか



名前がわかったところで

狼ちゃんは今度はゆりかごの中をみます


そこにはぐっすりと眠った赤ちゃんが


他には土地の権利や戸籍のあれこれが

赤ちゃんの横に置いてありました

それを一つ手にとった狼ちゃん


なんということでしょう


既にこの赤ちゃんは

自らの戸籍に入っているではありませんか


加えて自らが偽造した住所や戸籍も

誰かが辿ったとしてもバレないような

仕掛けが施されていました



これは神様がくれた更生のチャンスかもしれない



これをみて狼ちゃんは真の意味で決心します


自らが今までに起こした罪を

この赤ちゃんを育てることで償うと


そして


一人の人間として社会に紛れ込むと






狼ちゃんは最初は初めての子育てで

たくさんの苦労を経験しました


ですがそれと同時に狼ちゃんは母性に目覚めます


大学の友達に自らの境遇を打ち明け

受け入れてもらい

たくさんの支援を受けることで

人を育てるということの大変さを学び

人に支えられることの大切さを知りました


そしていつしか

人を食べていた頃の狼ちゃんはそこにはいなくなり

一人のちょっと不思議なシングルマザー

大河魅千屋がいたのです









それから時は経ち

かつての赤ちゃん

紅月翔太くんももう立派な大学生になりました


赤いフードをいつも着ている

身体は小さいけど器は大きい男の子です



そして狼ちゃんも立派な人間になりました

今日も事務職をしたり

自分の土地にある畑を耕したり

大学からの友達とバカしたり



自慢の息子と一緒に人生をまっとうしたそうです











人とともに生きた狼ちゃんは

誰もが幸せと言えるように生きましたとさ




めでたし めでたし





本来は連載形式にしようと思っていましたが書く時間がないので短編ということにしました。

連載の場合、めでたしめでたしの後の話を赤月目線で描くというつもりでした。赤月の友達はグリム童話の主人公たち、魅千屋の友達は悪役たちで非日常を過ごすというものになる予定なのですが、続きが見たいという人がもしいたなら評価や感想次第で書くかもしれません(評価への些細な期待)。

ここまで見てくださりありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませて頂きました。読んでてスラスラ頭に入ってくる文章で、綺麗でした。また、古典的な物語の改良であるのですが、固定概念を良い意味でぶち壊す辺りが良い味を出してて良かったと思えます。 [一言…
2019/04/13 20:56 退会済み
管理
[一言] どうも。面白かったです。 でも狼ちゃんは赤ずきん君を食べようとどうして思わなかったのかはちょっと疑問だったり。
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