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75 祭りの始まり

2018/3/14 ユリアと院長の会話を一部変更いたしました。申し訳ありません。


 大食堂はわっと歓声が湧きあがる。

 どの顔にも笑顔があふれ、とっても楽しそうだ。正面のテーブルは教会籍、つまり修道女と修道女見習いの席だ。教会籍の者は、それほど異動することはない。なのに、なぜかほとんどの顔に見覚えはなかった。人数は二十人くらいだ。それらの人々は、テーブルの真ん中に置かれたガラスの水がめから、直接自分の酒杯に緑色に輝く薬酒、リンドウラ・エリクシルを注いでいる。中には、お酒にそれほど強くない質なのか、角砂糖にリンドウラ・エリクシルを染み込ませてそれをかじっている修道女もいる。どの顔も、みな嬉しそうな笑顔だ。


 そして教会籍のテーブルを櫛の背としたら、歯のように並んだテーブルは、下働きの席なのだそうだ。全部で百人程だろうか……。こちらは見た顔がちらほらあった。指導係に、彼女と共に積極的に私に嫌がらせをした者達、嫌がらせはしなかったが、それを黙って見ていた者達もいる。幽霊が出るという元の独房に私を閉じ込めた時の陰湿な笑いとは違って、今日の彼女達は本当に楽しそうだ。彼女達も配膳係の数人を除き、普段の仕事を免除されて、それぞれの席で水で薄められたリンドウラ・エリクシルを飲み、普段よりもずっと豪勢だという食べ物に舌鼓を打っている。その中にまじったミーシャもすぐに彼女達と打ちとけたように談笑しはじめた。


 私の隣の席はこの修道院の院長がいる。彼女は私が前の人生でこの修道院にいたときはすでに他界していた人で初対面だ。院長はヨーゼフよりも、年上の女性に見える。顔には深くしわが刻まれていはいるが、頬の高いところは皮膚が薄いのかつるんとしたピンクになっており、頬の下の方はたるんだ皮膚がふわふわと揺れている。重力で目尻が下がった灰色の瞳は、深い知性に溢れ、今は子供のように輝いていた。

 祭りの開始宣言直後のざわめきが落ち着くと、院長は私の方に体を向けた。 


「あなたがユリアちゃんね! あのゴッソ君の娘さんの……」


 初対面の教会籍の人、それも院長などという上層部に、こんなふうに親し気に振舞われるとは思いもせず、私は内心びっくりしてしていた。お父様を「ゴッソ君」なんて呼ぶなんて、クラリッサ様だけでなく、この院長もお父様の知り合いなんだろうか? そういえば、オルシーニの街の教会を批判した時に、「純粋に人を導こうとしている聖職者もいる」と言っていた。クラリッサ様はそんなタイプには思えない。とするとお父様の言っていたのは、この人なのだろうか?


「初めまして。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。オルシーニ伯爵家の娘、ユリアでございます。父は領地での急な仕事のため、来ることが叶いませんでしたが、院長にはくれぐれもよろしくと伝えるように申しつかっております」


 私は立ち上がり、深々と淑女の礼をとった。


「まあまあ、そんな風に固くならないで、ユリアちゃん。お願いだから頭を上げてちょうだい」

 

 私はゆっくりと、頭を上げた。


「ようこそ、ユリアちゃん。こんな山奥まではるばるよく来てくれたわね。ゴッソ君が、来られないのは残念だったけど、ユリアちゃんに会えて嬉しいわ。ゴッソ君の手紙にはよくユリアちゃんのことがよく書いてあるもの」

「父の手紙に、私のことがですか?」

「ええ、そうよ。あの手紙を読むと、どんなにゴッソ君がユリアちゃんのことを愛しているかよく分かるわ」


 院長はニコニコしている。

 人生をやり直した今の私なら、お父様に愛されているのは分かる。でも、他人への手紙でそんなに私をほめたりするだろうか? と、ふと思い出した。そういえば、頭痛薬を追加で依頼し、エンデ様が領地に来ることを知らせてくれたあの手紙……。やたらと「愛している」とか「かわいい娘」とかを連発していたわね。お父様は、文面だと人が変わるってことなのかしら?


「父は、院長とも親しいのですか?」

「ええ。とは言っても、ここ最近は手紙だけよ。昔は娘のクラリッサと学生時代の先輩後輩のよしみで、よくここに来てくれていたの」

「え! クラリッサ様は院長の娘さんなのですか?」

「ええ、似てないでしょ? 父親似なの」


 白いローブですっぽり隠れていて髪の色は分からないが、いたずらっ子のように輝く灰色の瞳の院長と、うねるようなはちみつ色の髪で、深く青い瞳で、軍人のようにキビキビとしたクラリッサ様は似ていなかった。


「そうなんですか……。旦那様も教会籍の方ですか?」

「ええそうよ。それが教会の推奨ですもの。私も早くに結婚したけれど、子供ができたのはずいぶん遅かったわ。相性が悪かったのかしらね。性格も合わなかったわ」


 院長はカラカラと笑った。


「そうそう、親の私達がそんなんだからかクラリッサはどんなに教会総本部から結婚を勧められてもうんって言わないのよ。だからてっきりクラリッサは……」


 院長は、しまったという顔で口をつぐみ、すぐに話を変えた。クラリッサ様は「てっきり」どうしたのだろうか?


「ほら、教会籍の人間って世間に疎いでしょ? だからゴッソ君にはお金とか法律とかの相談によく乗ってもらったわ。でもゴッソ君が伯爵になってからは、ご無沙汰なの。寂しいわ……」


 わざわざ逸らせた話を、ほじくる返すのは失礼にあたる。私は座ったまま、また頭を下げる。


「そうなのですか……。本当に父が来られなくて申し訳ありませんでした」

「そんなの仕方がないわ! 忙しいんでしょうから!」


 院長は雰囲気を変えるためか、パンっと軽く手を叩いた。


「そうだ! ユリアちゃんは、うちに治癒魔法をかけてもらいに来たのよね? それは明日でもいいかしら?」

「もちろんです」

「よかったわ。今日は午前中が仕上げでちょっと疲れちゃって。本当に、緊急なら、魔力切れになってもなんでも、がんばっちゃうところなんだけど……ユリアちゃんには治癒魔法なんて本当は必要はないのでしょう?」


 いたずらっぽい笑顔で、院長が尋ねた。私が口ごもっていると、院長は訳知り顔で頷いた。


「まったく、教会はがめつくて嫌だわ。どうせあなたの街の教会も、悪い噂をばらまくとか言って、必要もないのに治癒魔法を押し売りしたんでしょ。そうやって何かというと教会にお金を落とすように脅しをかけるんだから」

「院長! それは教会批判になります! 止めてください」


 まだ年若い女性の声が、刺すように響いた。


う……、ストックが……。

自転車操業とはこんなに辛いものなのか……。

おまけに、章の最初は説明も多くて筆がのらない( ノД`)シクシク…

あと数話は説明回が続くと思われます。多分……。


Twitterで他の作家さんが一日何文字書いているのか調べてしまいました。

1日に6千、1万……え? 2万?? つい落ち込んでしまいました。

うん、やめよう。他人との比較は良くない。自分にできることを少しずつ。


これは更新が遅れた時のための伏線、いやただの言い訳です。

がんばるけど、遅れたら許して!

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