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8 出迎え

家名を付け加えました。

ユリア→オルシーニ伯爵家

エンデ→コロンナ侯爵家


またプロット変更により、従姉妹のフランチェスカは年下から、同い年に設定変更になりました。


ご迷惑おかけしておりますm(_ _)m




 単調な馬の蹄の音に、うとうとしていると、天井からゴンゴンと音がした。


「お嬢様、もうすぐ屋敷につきます」


 ムチの柄で天井を叩いた御者の声に、心が浮き立つ。

 窓から首を伸ばせば、代官と屋敷の使用人達が勢揃いし出迎えてくれているのが見えた。


 護衛の手を取って、馬車のステップを降りた。もちろん、ミーシャも例の護衛に手を取られて降りてきた。 

 馬車に一番近いところで骨と革のような体をかっきり45°に曲げ、ピカピカと光る禿頭を見せ、手の指先まで、ピンと体の脇で伸ばしている高齢の男がいた。執事長であるヨーゼフだ。


「久しぶりね。体調とか変わったことはない?」

「おっ、ひしう、ご……ます。わたしはあ、だいじょーーす。おじょおあ……は、……になられましたあ」


 多分『お久しゅうございます。私は大丈夫です。お嬢様は??になられました』って言っている。無駄に声が大きくて、変な抑揚があって、聞き取りづらい。

 歳を取って耳が遠くなると、無意識に大声を張り上げてしまうのもだ。それに歯が抜けてしまって、発音が聞き取りづらい。

 それでも目をキラキラさせて、くしゃりと笑うヨーゼフを私は今も昔も好きだった。


 ヨーゼフは死んだお祖父様が若い頃からこの屋敷で仕えてくれている。「ヨーゼフが望む限り、その地位で仕事を続けさせよ」というのが、お祖父様の遺言だった。

 ただ、執事長という激務は今のヨーゼフには難しく、補佐という形で屋敷を取り仕切る者が必要だった。



「お嬢様、私もご挨拶させていただいてよろしいでしょうか?」



 黒髪をオールバックにし、一分の隙きもなく執事服を着こなす男が、左手を腹部に当て右手を体に後ろに回して頭を下げていた。


「ええ、もちろんよ。お久しぶりね、ロベルト」


 ロベルトに向き直ると、ヨーゼフには背中をむけてしまった。そこから、けほけほと乾いた咳が聞こえたが、聞こえなかったふりをする。ヨーゼフも高齢だ持病の一つや二つはあるだろう。でも主の一家に、心配はかけたくないはずだから。


「顔を上げて。これからしばらく世話になるわ」

「お嬢様にお仕えできるのは喜びでございます」

「ありがとう。お願いするわ」


 ロベルトは口の端を曲げただけの微笑みを返した。

 ロベルトは優秀な男だ。ヨーゼフの代わりに屋敷を取りまとめて、時にお父様の仕事の手伝いもする。

 私は昔、この男が冷たい感じがして苦手だった。でも今は警戒している。なぜなら、この男がフランチェシカが伯爵家を継ぐと、執事から代官となり、領地中で賄賂と横領を横行させ、民を苦しめたということを知っているからだ。前の私では遠くにいて噂を聞いて心を痛めることしかできなかった。

 今、何かしているかは分からない。でも、私が領地にいる間は目を光らせておくつもりだった。


「しばらくは部屋で休むわ、ミーシャにお茶を持ってこさせてちょうだい」

「かしこまりました」


 使用人の出迎えの列の末端に、一際真っ赤な髪の少年がいた。きっかり45°に体を曲げ指先までピンと伸びている。最近急に身長が伸びたのか、お仕着せの丈が足りずに踝が見えている。使用人全員を覚えている訳ではないけれど、あんな髪だったら記憶に残っているはずなのに。


「彼は?」


 ロベルトは片眉を上げて赤髪の少年に目をやると、バカにしたような口調をにじませながら「執事長の孫です」と言った。




次話、いよいよ美中年が登場!

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