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70 危険の回避



 間もなく、ワイルドバイソンの群れが間近に迫ってきた。

 私を信頼しているとは言っても、さすがの護衛隊も数名を除いては平然としている事などできずに、浅い息を繰り返していた。

 ……平然としている護衛隊員の方が異常だと思うわ。その中にアランがいたのは……残念な限りね。


 ワイルドバイソンの群れは、先頭をその群れの長が走り、その後ろを次の群れの長候補の二頭が走る習性がある。年老いたり怪我をして先頭を走れなくなった長は、後続に踏み潰されて死ぬしかない。そして長候補の二頭が速さを競い、先頭になった個体が次の長になるのだ。


「ガウス、今よ!」

「任せて!」


 ガウスの引いた矢がワイルドバイソンの群れの長の額に突き刺さる。クロスボウではないが、狙いは正確で、頭の固い牛型魔獣の頭蓋骨に深々と突き刺さる。長は慣性で少しの距離を真っすぐ走り、たたらを踏んだかと思うと、ぱたりと倒れた。しかしその長を踏み潰す後続はいない。

 二頭の次の群れの長候補に率いられて、五十頭程の群れが長が倒れた少し後ろの場所からきれいに左右に二つに割れていく。これで直撃の危険は回避された。


「やったわ!」

「やったわね!」


 私とガウスはキャアキャア言いながら抱き合った。


 私がガウスに指示したのは、魔物よけの薬の効果の境界線だった。先頭の群れの長なら直進してしまったかもしれないが、それが倒れた事により群れが二つに割れ、魔物よけの薬の境界線に沿ってガウスがボウガンで放った矢をそれぞれ追いかけて行ってしまった。

 そのままワイルドバイソン二つの群れは地響きを立てながら、野営地の周りを走り抜け後にしていく。

 残されたのは、群れの長だったワイルドバイソンの死体と、土煙だけだ。


「ユリア様の言ったとおりね。ううん、『様』なんてまどろっこしいわ、『ちゃん』で良いでしょ?」

「もちろんよ。でもこんな事ができたのはガウスの腕があったからよ」

「ううん、やっぱりユリアちゃんの薬があったからだわ」


 今回の魔物よけの薬は旅に出るのに新たに作り足したものだ。良い素材が手に入ったので、持続時間も大幅に上がり、中級モンスター程度なら寄り付かせないように調合した。

 この改良した魔物よけの薬がなかったら、いくら私でも遠くにいるワイルドバイソンの群れをおびき寄せる(・・・・・・)のは難しかっただろう。


 以前、魔物よけの薬とスラ玉を使ってスライムの群れをおびき寄せた事があった。あれと同じ方法だ。ガウスのボウガンの矢に付けられたハンカチの中身は、ワイルドバイソンの糞と魔物よけの薬だ。それらが反応して、遠くにいたワイルドバイソンを引き寄せたのだ。


 私とて、群れを呼び寄せたからと言って必ずこの一行を救えると確信がなければしなかっただろう。でもガウスがいる。ガウスの矢なら、ワイルドバイソンの群れが追いかける糞を遠くまで飛ばしてくれ、先頭の群れの長も倒す事で群れを分裂させる事ができるだろうと信じていた。最初から、この作戦にはガウスありきだったのだ。

 もちろんワイルドバイソンの長を倒してもらったのには訳がある。ワイルドバイソンの胆石が、キラースクイッドの毒に苦しむミーシャ達の特効薬になるからだ。


「お嬢様、あのワイルドバイソンはお入り用ですか?」


 私の考えを読んだかのようにアランが近づいてきて、爽やかに微笑む。でも何故か今までのように素直に受け取れず、その笑顔にざわつきを感じてしまった。


「……ええ。あ、ついでにワイルドバイソンの胆のうから、胆石を取り出してくれないかしら?」

「かしこまりました」


 アランは無駄口をたたく事なく、私の願いを聞いてくれた。

 間もなく、内臓を抜いたワイルドバイソンを護衛隊が数匹の馬で引きずってきた。少し遅れて血まみれのアランが現れる。


「申し訳ありません、遅くなりました。内臓を土に埋めていたもので」


 感染予防や野獣対策として食べないのなら内臓は土に深く埋めた方が正しい。でも、血まみれな上に泥まみれになったアランは、どこぞの殺人鬼だというような見た目である。

 そして赤い血と深緑の胆汁にまみれた手で胆石を差し出し、それでいつものように爽やかに笑うものだから……。


「ひいいいい! こわい、こわいわ、ユリアちゃん。この人メチャクチャ怖いわよ!」

「落ち着いてガウス。ガウスだって、魔物討伐して返り血を浴びる事位あるでしょ?」

「そりゃあるけど、そんな時にあんな風に笑ったりしないわよ!」

「それは確かに。ちょっと待ってて」


 アランに【浄化】魔法をかける。一瞬アランがぽうっと光り、すぐにワイルドバイソンの血も胆汁も消えてなくなった。アランは不思議そうに自分の手足を見ている。


「……ありがとうございます。血の汚れだけではなく、入浴したてのような爽快感と、洗濯したてのような衣類の気持ち良さになりました」

「【浄化】魔法よ」

「魔法……」


 アランが噛みしめるように呟いた。そういえば盗賊騒ぎで忘れていたけれど、ミーシャ以外の人には魔法を使いこなせる事も秘密にしていたのだった。……でも、もういろいろと遅いわね。

 私は自分のうかつさを呪いたくなった。



常識人枠だった、アランさんその座をダンに譲り渡し、

信者さんになってしまいました(´;ω;`)ウッ…


この変容の裏話は、いずれ閑話でm(__)m


それにしても、ユリアさんはこれくらい腹黒くなくちゃ(笑)

最近、いい子過ぎて心配していました。


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