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67 ミーシャの体調不良

申し訳ありません、改稿前の物をアップしていたため、いったん削除して再投稿しています。

2/11の9:30よりも前に閲覧の読者様、本当に申し訳ありませんでした。


 修道院は貿易の盛んな海辺の街と、オルシーニの街の中間にある。とはいっても、にぎやかな宿場町のある大きな街道を途中から外れ、人気のない道を進み、険しい山の中腹まで登たところにあるのだ。

 野獣や魔物が出る道なので、急ぎ通り過ぎなければならないのだが……。


「ぎぼちわるい……」

「困ったわね。車酔いかしら?」


 ミーシャはしばらくすると、今度はお腹を押さえた。


「おながもいだいでず……」

「まあ、腹痛も? どうしたものかしら」


 私はミーシャの体を診察しようと手を伸ばした。


「あ、馬車を止めて! 止めて下さい! も、もれるううう」


 ミーシャの目はグラングランとあらぬ方向に回転し、半袖から見える腕には鳥肌が立ち、真っ青な顔から脂汗が流れ出た。

 これはマズいわ!

 私は急いで備え付けの杖を取り、それで馬車の屋根を叩いた。

 すぐに馬車は止まり、外からアランが扉を開いた。


「どうされましたか、お嬢様?」

「そこをどいて下さい!」


 ミーシャはアランを押しのけて外に飛び出した。押されたアランがバランスを崩してよろける。


「ミーシャさん! どうしたんですか? 森に一人で入るなんていけません!」


 アランが叫ぶが、ミーシャは構わずに森の奥に一人で分け入る。すかさず追いかけようとするアランを止めた。


「アラン、ミーシャは『お花摘み』なの」

「ああ……」


 さすがのアランも、いつもの爽やか笑顔と違い、気まずそうな微妙な表情をした。しばらくすると、重い足を引きずるようにして、げっそりとしたミーシャが戻ってきた。口の端も汚れが付いている。


「大丈夫?」

「はい……」

「ミーシャさん、少し休憩しましょうか?」

「いいえ、私のためにこんな危険な道でゆっくりするなんて……」

「大丈夫よ」

「でも……」


 馬車に乗り込むために、アランがミーシャに手を貸した。


「ミーシャさんの手がすごく熱いです」


 ハッとしたようにアランが私に向かってささやいた。私がミーシャのおでこを触ると、かなり熱が高い。


「嘔吐、下痢、発熱、腹痛。そうね……食中毒かもしれないわ」

「食中毒……」


 アランが困ったように私の言葉を繰り返した。もうそこでは街に引き返すには遅く、修道院に急ぐには遠すぎたからだ。


「今は横になって少し休みましょ。かなり辛いんでしょ?」

「はい……」


 アランは手慣れた動きで、馬車の座椅子の背もたれを取り外して椅子と椅子の間に掛け渡し、収納されていた毛布をかけて馬車の中に簡易ベッドを作ってくれた。旅用の馬車は、こうしたいざという時のための仕掛けがいくつかある。

 私はミーシャの手をとって、そのベッドに寝かせた。


「でも食中毒なんて……。ミーシャ、私と同じものを食べたり飲んだりしているはずよね?」


 オルシーニの街を出てからは、いつも私とミーシャは同じテーブルで同じ食事を摂っていた。そこにダンやガウス、それにヘンゼフも混じる事があった。目立ちたくない私たちは、それぞれ私服を着ていたのだが、やはり人の注目を浴びずにはいられなかった。絶世の美少女のミーシャ、筋肉ダルマのヘンゼフ、派手が服をきて歩いているようなガウス。カリスマ性のあるダン。その中にあって私は空気のようなものだが、一行は人目を引くなという方が無理な話だ。

 昨日の夜も、ミーシャとガウスで話を盛り上げ、ヘンゼフが珍発言をかまし、ダンがピシっと締めてくれる。笑ったり頷いたりしながら、みんなで同じ食事を摂った。朝も二人で同じ宿屋の食事である。


「じつは……」


 ミーシャは昨夜泊まった宿屋で、私と離れた時に、知らない商人から外国の菓子をもらって「試食」したそうだ。


「お菓子?」

「はい。何でも海で採れるキラースクイッドって海産物を乾燥させて麺みたいに細く割いたものなんだそうです。なんか甘しょっぱくて後を引く味がして、商人さんもお金はいらないから全部食べていいっていうものですからつい……」

「キラースクイッド……」


 キラースクイッドは、イカに似た魔物で、毒があり、けっして食用ではない。確かにそれを食べた場合、食中毒に似た症状を起こす。その商人は騙されて仕入れたか、それとも何か別の目的があったのか、ともかく処理に困っていたのだろう。

 ただ毒性は強くないので、しばらくすれば症状は落ち着くはずだ。

 私【浄化】魔法で、汚れてしまったミーシャの口の端や来ている服などをきれいにしてあげた。次いで【防護】の魔法を私自身にかけた。これは薬の調合中にもよく使う魔法で、調合中の薬の影響から身を守るための魔法だ。キラースクイッドの毒なら、二次感染はしないが用心のためだ。

 ミーシャは半目状態で、ぐったりとしている。


「本当にミーシャさん、お辛そうですね。ここから少し行った所に、開けた草原があります。今日はそこで野営をしましょう。そこまで我慢できますか、ミーシャさん?」


 ミーシャは苦いものを飲み込むように、ゆっくり頷いた。

 アランの言う通り、馬車はのろのろと少し進み、歩みを止めた。ミーシャは大人しく毛布にくるまって丸くなっていたが、ガタガタと震えている。


 食中毒は、下手に嘔吐や下痢を止めてはいけない。また解熱もしてはいけない。それらは、体に入った悪い菌などを外に排出しようとしている体の作用だからだ。しかし毒ならば、解毒薬を使うことができる。


「ちょっと待っていてね。薬を作って来るわ」


 ミーシャの返事はない。気を失ったようだ。ミーシャのために、【温熱】の魔法をかけると、馬車の中が温まって、ミーシャの表情が少しだけ緩んだ。


この小説を書き始めたのが真夏。そして今は真冬。

なのの作中ではまだ初夏です。

この分だと、あっという間に1年遅れになってしまいそうですね(^^;

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