表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/207

閑話 悪夢  ~~ゴッソ(お父様)視点

私はグーグルドキュメントで原稿を書いているのですが、何故かなろうの投稿ページにペーストする時に空白の改行が消えるようになってしまいました。読みづらいかと思いますが、物語上必要でない改行は省かせて下さい。申し訳ありません。

「そんな馬鹿な……、そんなことがあってなるものか」

 手に持っていたガラスのグラスがバリンと音をたてて割れた。飲み物の雫と共に、私の血がしたたり落ちるのを呆然と見つめるが、痛みは感じない。

 そんなことよりも先程聞いた私の娘の訃報に、頭がいっぱいだった。


 私のたった一人の娘。小鳥のように小さく愛らしい娘、私のユリア。私の宝物。

 十代にもなると反抗期を迎え、男親のふがいなさで、どう接していいか分からないまま無駄に時を重ねてしまった。いつか分かり合える日が来ると期待しながら。

 そんな美しく、賢い娘の娘のたった一つの欠点は、男を見る目がないことだ。

 エンデ・コロンナ。侯爵家の五男。

 私の了承を得ずに、妻のアドリアーナが婚約の申し込みをしてしまった。気付いたのは、コロンナ家から婚約の承諾の知らせがあった時だ。もちろん、アドリアーナを責めて、私の力で強引に婚約破棄させることもできた。でもそうしなかったのは、何よりもユリア自身が彼に惚れぬいていたからだ。

 子供の頃から、何かと人目を気にする小僧だった。歳が経つうちにその傾向は助長し、なにかとユリアを馬鹿にするような態度をとるようになった。それに何度苦言を呈したのかわかりはしない。

 そしてこともあろうがあの小僧は、ユリアと婚約しておきながら従姉妹のフランチェシカと情を交わしていたという。

 可哀想なユリアは、小さな胸を痛めて、魔力を暴走させてフランチェシカを傷つけてしまった。とは言っても、ほんの僅かな傷だ。私の調べでは、フランチェシカは前もって防御魔法をかけていたらしい。とすると娘ははめられたのかもしれない。でもそれをやってしまった場所が悪かった。学園のパーティーの最中だ。身分のある目撃者が大勢いた。


 結局、ユリアを守るために、婚約を破棄させて修道院でほとぼりを冷ますしかなかった。

 数年もすれば勘当を解き、また家に迎え入れるつもりでいた。結婚適齢期は過ぎているかもしれないが、ベアトリーチェの例もある。貴族は難しくても、優しく、才能があり、かわいらしいユリアを愛してくれる人は必ず見つかるだろう。ユリアが幸せになれるなら、伯爵家の後継ぎの座は誰かに譲り、外に嫁に出してもいいとさえ考えていた。


 それなのに、ユリアが短慮を起こすとは……。


 領地から数日離れた分水嶺にある修道院。

 教会は往々にして腐敗していたが、その修道院だけは清貧を貫き、公正さと慈愛に溢れていた。そしてその修道院には、私の学園時代の友人もいた。きっと彼女なら娘を正しく導いてくれるだろうと信じて、厳しく、そして平民としての生活もできるような技術を身に着けさせるように依頼した。

 しかし娘はそんな修道院の生活に耐えられなかったのか、脱走してしまった。その知らせを聞いて、私は金に糸目をつけずに娘を捜索させた。

 しかしその娘は思わぬ姿で見つかった。それも私の領地で……。


 私はその知らせを聞くと、上着を着る間も惜しんで、ユリアらしき娘の遺体が寝かされている水車小屋に駆け付けた。小屋から出て来た農夫らしき男が、見ない方がいいと言ったが、押しのけて中に体をねじ込んだ。

 しかしその瞬間後悔した。鼻がまがりそうな腐敗臭。一瞬で気持ちがひるんだ。

 それでも寝台に近寄り、大きな白い布をはぐと、その体は水風船のようにぶよぶよに膨らんでいた。肌は生きた人間ではありえない、深緑としかいえない色に変色していた。もちろん顔は判別できない。しかし頭皮にへばりついたアドリアーナと同じ栗色の髪と私と同じ深い緑色の瞳。そして水を吸い、重くなった服は、修道女見習いの地味な制服でありながら良い生地で、ユリアの制服に似ている。

 ユリアなのだろうか?

 その時、その遺体の首がゴロンと動いた。

「ひいっ!!!」

 私を引き留めた農夫が、水死体は水から引き上げられてしばらくすると硬直が溶けてこうして動くことがあると教えてくれた。

 私は、ひりつく舌を動かした。

「ユリアなのか?」

 遺体は、物言わず、黙って私を見つめた。途端に娘の幼い日の思い出が溢れ返る。

「ユリア……なのだな?」

 私は自分の服が濡れること、腐敗臭にまみれることなど恐れずに、ユリアをそっと抱きしめた。抱きしめたその下で、ユリアの皮膚がずるりとずれるのを感じた。


 もしどんなに嫌がっても会話し理解を深めていたら、お前は死なずにすんだのだろうか?

 もし婚約を無理にでも解消したなら、お前は死なずにすんだのだろうか?

 もし修道院にやりさえしなければ、お前は死なずにすんだのだろうか?

 もし数年で勘当は解くつもりだと告げていれば、お前は死なずにすんだのだろうか?

 もし……

 もし……

 もし……


◇◇◇



「ハァハァハァ!!!」

 額から滝のように流れ落ちる冷たい汗を手の平でぬぐう。そして、じっとその手を見つめた。

「なんだったんだ、今のは!」

 急に冴えてきた頭では、先ほどのが夢だということは分かっていた。しかし、何故かあれがただの夢とは思えない。実際に経験したことのように感じる。

 押しつぶされそうな不安の中、ガウンだけを羽織り廊下に出る。空が白んできたばかりの薄暗い廊下では護衛が立っていた。

「どうかされましたか、旦那様?」

「……」

 返事をするのももどかしく、ユリアの部屋へと急ぐ。私が屋敷に来て以来、ユリアは世話になったヨーゼフの家を出て屋敷に戻ってきていた。もちろんユリアの部屋の前にも警備がいたが、身振りで黙らせた。

 カチャリ。

 震える手で扉を開ける。

 すうすうっと、安らかなユリアの寝息が耳に入ると、安堵のあまり崩れ落ちそうになる。

 ベッドの端に腰を下ろすと、マットレスが揺れて、ユリアの眉根がわずかによる。私は、まるでイタズラがばれた子供のように、ビクッと体をすくませた。ユリアがすぐにまた微笑みを浮かべているかのような寝顔になると、ほっとため息をついた。

 我知らず、涙がこぼれ落ちる。

「ああ……よかった。お前は無事だったんだな。ここにいるんだな……」

 ふっくらとした頬を指先で軽く撫でると、くすぐったかったのかユリアは「ふふ」っと笑い、寝返りをうって私の方に体を傾けた。

 急に変わった態度や薬の知識に技術、ユリアに聞きたいことはたくさんあった。でも今はそんな些細なことはどうでもいい。

 ユリアが元気な姿で、そこにいて笑ってくれている。

 ただそれだけでいい。それだけで私は幸せだ。


これから10日程お休みして、2/5から新章を開始いたします。

その間に章編集をして「領地編」という章を作りたいと思うのですが、

技術的にどうやったらよいものか……(-_-;)

そして章編集をした時に、皆さんへの更新通知はどうなるのやら……?


2/5より前の更新通知が来たときは、

どうか温かい目で何やら作業をしているなと思って下さいませm(__)m

では、またお会いいたしましょう♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最初から言い含めておけよ馬鹿じゃねーの?
2021/06/12 12:50 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ