7 領地へ
プロットを変えた部分があるため、手直しのため明日は更新できません。申し訳ありませんm(_ _)m
貴族院にも入っているお父様は、お仕事で王都にいることが多い。田舎暮らしが好きではないお母様は、それにかこつけてあまり領地には行かなかった。私もあまり行っていない。お父様一人が、貴族院でのお仕事の合間に年に何回も訪れて領地経営をしていた。
お父様、優秀すぎるわ。でもおかげで眉間のシワが深くなりすぎね。
私が入れられた修道院は、うちの領地からほど近い分水嶺にあった。東に流れる水は領地を通り王道まで通じている。そして西に流れる水は海に通じ、その近くに森の家があった。
王都から森の家に比べれば領地からの方が距離が短い。それでも決して近いとは言い難いのだが。
領地にいる間に、なんとかして森の家に行きたい。もしかしたらあの家の元の住人、ルイス様に会えるかもしれない。いえ、なんとしてもあの家に行って、ルイス様に会うんだ。
本人に会ったこともないのに、緻密に記載された資料や温かな人柄の伝わるその日記から、私はルイス様に何十年も恋をしていたのだから。
王都からオルシーニ伯爵領まで一週間かかるそうだ。
確か勘当されたときは、ガタゴト揺れる幌馬車に荷物や家畜と一緒に詰め込まれて3日で着いた。
屋根と窓付きの馬車で、護衛を伴い、しっかりとした警備の整っている宿屋に泊まり、朝夕は宿屋か飯屋で食事を取り、昼はカゴに詰められたサンドイッチや肉の燻製と果物などを馬車のなかか景観の良い外でシートを広げてその上で食す。ゆっくりと快適な旅だった。幌馬車の旅とは大違いだ。
また行く先々の市場や商店を見て回り、森では散策をした。
領地に行ったら、薬を作ろうと思っている。そのため薬の材料になるものや、調合に役立つ道具を探していたのだ。
森の散策中、柔らかな薄桃色の花の下に姫リンゴのような膨らみがある草を見つけた。
「あらこれは、オークアップルだわ」
草の名前はモリウチワ草だ。かわいいピンクの花とうちわの形の丸い葉の植物だ。オークアップルではない。
オークアップルのオークとは、魔物のオークのことだ。この膨らみは、実でも蕾でも子房でもない。オークに似た顔を持つ昆虫、オーク虫が寄生したものだった。
卵を産み付けられたモリウチワ草はその部分が瘤状に膨み、リンゴのような形の「虫こぶ」になる。
オーク虫は「虫こぶ」というゆりかごの中で、孵化し成長していく。そしてオーク虫は成虫になると、虫こぶから自分で出て来る。
成長したオーク虫は顔は醜いのに、乾燥させて粉末にすると、滋養強壮に絶大な効果があるのだ。そしてオーク虫がいなくなったモリウチワ草には元々、その草には備わっていないような薬効成分が含まれている。
うーん、持って帰りたいけれど、瘤の中でオーク虫は生きていて植物の組織や汁液を餌にしているから、むやみに宿主の草を引き抜けないし……。
私は仕方なく、指で株の根元を掘り始めようとした。すると、散策に付いてきた若い護衛が、すっと手を差し込んで私を止めた。
「お嬢様、その草が欲しいのですか?」
「ええ、そうなの」
「私におまかせください」
「まあ、ありがとう。草には傷つけないでもらえるかしら?根っこもあまり痛まないように掘り出したいの」
護衛はにっこり笑うと、ナイフを取り出して土を掘り始めた。あっという間に、土のついた株が差し出された。
「あ、どうしましょう。せっかく掘り出してくれたのに、このままじゃ乾燥しちゃうわ」
「お嬢様、こちらをどうぞ」
いつの間にかミーシャが湿らせた紙を用意してくれていた。なんてできた使用人たちなんだろう。
私の我儘のせいで、思いがけずに時間を食ってしまった森の散策。馬車に戻ろうとすると、魔獣が襲ってきた。ゴブリン。
護衛の彼が瞬殺してた。ザコだしね。
ゴブリンからは取れる素材もないしスルーね。
でも戦いにも、動物や魔物の死骸にも慣れていないミーシャは顔を青くして、口を押さえてよろめいた。すかさず護衛さんがミーシャを抱いて支えた。
「大丈夫?」
「ひゃ、ひゃい!だ、大丈夫です」
あら?ミーシャったら、さっきまで顔色が悪かったのに、今は随分と血色が良いこと。
これは後で尋問しなくちゃ。だって、領地までまだ時間はかかるもの。馬車の中での退屈がまぎれるわ。
オークアップルは本当にある虫こぶです。オークは樫のことだそうです。
作中の薬草は植物図鑑から名前や解釈を変えて見た目はそのまま描写しています。でも薬効はほとんど創作です。念のため(^_^;)