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61 ダンとガウス

 ヨーゼフの家は、外まで聞こえるくらい楽しそうな笑い声に包まれていた。

 中に入ってもいいものか躊躇していると、アランが構わずにドアを叩いた。

「あ、お帰りなさいお嬢様!」

 頬を上気させたミーシャが、私たちを中に招き入れた。

「よかった。ちょうどお嬢様にお客様がいらしてたんですよ」

「あら、誰かしら?」

「お嬢様をお救いしてくれた冒険者の方々です!」

「まあ! ダン……さんがいらしてるの?」

「はい!」

 やたら嬉しそうなミーシャの先導で、居間に入った。ちなみにミーシャはアランのことをチラリとも見なかった。

 通された居間は、やたらとカラフルな色どりだった。アリスさんの赤みがかった金髪、ダンの白に近い透けるような金髪、それにミーシャの銀色の髪。それに派手な紫の長い髪を背中で結った細身で背の高い青年がいた。

 私が現れると、ダンとその紫の髪の青年が立ち上がって頭を下げた。

「頭を上げて頂戴。礼儀なんてどうでもいいわ。私はあなた方に命を助けてもらったんですもの」

 それぞれ上げた頭は、ほっとした笑みが浮かんでいた。

「そういってもらって助かります。私たちは荒くれ者の冒険者ですので、礼儀作法にはうとくて。私は上級冒険者のダン。そしてこちらも上級冒険者で相棒のガウスです」

 代表してダンが答えた。私は軽く頷く。

 紫色の髪の青年は前の人生でもよく見知った顔だった。私のレシピを狙う薬師に拉致られそうになってから、ダンは私に護衛を付けてくれた。それがこのガウスだ。ダン一人じゃないと聞いてから、きっとこの相棒のガウスも一緒だろうと思っていた。近距離攻撃の得意なダンと、弓などの遠距離攻撃が得意なガウスは冒険者としてコンビを組んでいた。

 ダンは二十才を少し過ぎたばかり、そしてガウスはそのダンよりも少し年上だったはずだ。そんな若い二人が上級冒険者とは、本当に才能も運もあったのだろう。

「上級冒険者ともなれば、荒くれ者なんて言えませんわ。国によっては準貴族扱いになるとか?」

「なあに、そんな地位をもらっても中身は変えようがありませんよ」

 私はダンらしい物言いに、思わず頬が緩んだ。それを受容と捉えたのか、口調も物々しい言いようがなくなった。

「改めてお礼を言うわ。命を助けてくれてありがとう。冒険者パーティというと、他にも人が?」

「ええ、他に六人ほどいますが、いつも組んでいるわけではなくて、たまたま方向が一緒だったから組んだ一時的なパーティです。昨日の夜、お屋敷から振舞われた上等な酒を飲みすぎて、みんなまだ二日酔いで寝込んでますよ」

「そう。その方々にもお礼を伝えてくれるかしら?」

「ええもちろん」

「そういえば、あなた方はミーシャの依頼を受けてくれたんだとか?」

 私は、視線をミーシャに移した。お茶の準備をしていたミーシャは、急にみんなの注目を浴びて目を白黒させている。

 紫色の髪のガウスが、藍色の瞳をきらめかせ、含み笑いをしながら答えた。

「そうなのよ。あの時の彼女を見せてあげたかったわあ。ギルド窓口で、こんな美少女が目を吊り上げて、受付係の首を絞めているんですもの」

 そう、ガウスは、その口調からも分かるように、非常に女性らしい男性だった。

 護衛をしてくれていた時も、最初は私がダンの恋人なのかと疑ってつんけんした態度だったが、そうじゃないと分かると、私の大切な女友達になってくれた。

 しかし、そんなことよりもガウスが気になることを言っている。

「首を……なんですって?」

 聞き間違えだろうか? ガウスは「絞めた」と言ったように聞こえたけれど。

 ガウスのあまりにも普段の口調と変わらない言葉遣いに、ダンは慌てたように「おい」といさめたが、私がそれを止めた。

「締め上げてたのよ、こんな風にね」

 そう言ってガウスは、自分の首を絞める真似をして、白目を剥き舌をべえっと出した。

「『今すぐ、私のお嬢様を助けに行かなきゃ、このまま殺してやるぅう!』って、そりゃあ恐ろしい顔だったのよ」

「……」

 ミーシャの顔は、真っ赤に染まっていた。

「私たちは、街に着いたばかりで何の事情も知らなかったし、ギルドで殺人なんてたまったもんじゃないって、引き離したのよね。そしたら、このお嬢ちゃんは大声で泣き出しちゃって。『私のお嬢様が死んじゃうぅ』ってね」

 そこでガウスがいたずらっぽくミーシャにウィンクした。顔を真っ赤にして、身を縮めてしまった。

 話はダンが引き継ぐ。

 

「なんとか、そちらのお嬢さんから事情を聞き出した俺たちは、緊急依頼ってことで受けることにしたんです。そして屋敷についたとたん、大男に捕まりそうになっていた女の子の助けに入りました。でもその女の子が、実は屋敷のお嬢様だったっていうのを後から知ってた驚きましたよ。さらにそのお嬢様がなんでメイドの恰好をしてたかっていうと、使用人を助けるためだったっていうじゃないですか。正直、感服しました」

「そんな大したものじゃないわ」

 肩をすくめる。自分自身の力でなんとかできたわけではないのは十分に承知しているからだ。私が無事でいられるのは、偶然に偶然が重なった結果に過ぎない。

 私の苦い顔から何か察したのか、ダンはそれ以上の言葉を続けるのをやめてくれた。


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