お正月特別SS
あけましておめでとうございますm(__)m
本年も、ごひいきのほどよろしくお願いいたします。
「おお、寒い」
ヨーゼフは、執事服の上に赤いマフラーを巻いただけの姿で、白い息を吐きながら屋敷への道歩く。
「オトソ」という東の島国の酒をレオンが注文したのは随分前のことだ。だが珍しいこの酒はなかなか手に入らなかった。それが街の酒屋に届いたと連絡が入ったのは、年またぎの日の深夜のことだった。それで新年早々、日も明けきらないうちに酒屋に取りに行ったのだ。 酒屋は嫌な顔をしたが、旦那様の言いつけだと言うと、同情した顔をして、温かい饅頭を一つくれた。
その饅頭をぱくつきながら、寒風が吹く屋敷への道のりを急ぐ。
レオンが調べてくれた「オトソ」という酒の飲み方はまた変わっていた。東の島国の酒器など、屋敷にあるはずもなく、仕方なくあるもので代用することにした。
「これは何だ?」
「旦那様が東の島国ではこの酒を、三枚の赤い皿のような器で飲むと言っていましたので、用意させていただきました」
「うむ。そうか……」
真っ赤なティーセットの皿の部分だけ三枚重ねられていた。
「で、これはどういうお酒なのですか?」
「ミリンという種類の酒に、薬草を浸したものらしい」
「ミリンですか? 初めて聞く名前です」
「うむ。そうして作った酒は、『ソ』という魔物を『ト』つまり、屠るから『トソ』というそうだ」
「またもや東の島国はぶっそうですね」
ヨーゼフは、不気味そうにオトソを見つめる。そしてレオンの指示通り、三枚の皿にオトソを注いだ。
「それで、この三枚の皿でどうやって飲むのですか?」
「たしか、一枚の皿を三回に分けて飲むはずだ。二人で飲む場合は、交互に。全部で九回だ」
「三三三と九回飲むわけですね。順番は旦那様の次は私、そして旦那様。皿を変えて私が飲んで、次は旦那様ということでいいですか?」
「ああ、それでいい。それを三三九度というらしい」
さっそくレオンは器を手に取った。そして思い出したように東を向く。
「なんでそっちを向くんですか?」
「分からん。でも東の島国では、初めて口にするものは東を向いて食すらしい」
「私もそうしましょう」
皿に口をつけるレオン。すぐさまヨーゼフがその皿を奪い取った。
「……甘い」
「うむ……」
期待通りの味ではなかったが、二人して器を交互に回して飲み干していった。
その後、ヨーゼフは酒屋で東の島国から来た行商人と会う。そして三々九度が正月にお屠蘇を飲む作法ではなく、結婚式の作法だと知って、膝から崩れ落ちたという……。
お屠蘇は、正月に飲む日本酒のことだと思っていましたが、味醂と日本酒を混ぜて生薬を漬け込んだものらしいです。そんなの飲んだことないなあ……(;´Д`)
炬燵で丸くなって、テレビを見ながら純米酒をちびちび飲む正月が好きです。