5 エンデ様
えっ?ブクマが1800件越えΣΣ(゜д゜lll)
お茶の時間。エンデ様は真っ赤な薔薇の花束と、この王都で流行っているお店のクッキーの缶詰を持って現れた。
「ユリア、気分はどう?」
エンデ様は、サラサラとした耳にかかる金髪を軽くかきあげた。そして、反応をうかがうように、何度もちらりちらりと緑の瞳を私に向けた。
???
思わず小首をかしげると、舌打ちせんばかりの表情になった。
ああ、そうでした。私はエンデ様が、きれいなその髪をかき上げる動作が好きでした。金髪碧眼、細身のエンデ様はやさしく微笑むと本当の王子様よりも王子様らしく、皆の憧れでした。私はそうするエンデ様を、真っ赤になって固まって凝視するか、キャーキャー声を上げるかのどちらかだったのでした。
そうですか、エンデ様はそれを期待していたのですか。前はそれがさりげない動作だと思っていましたが、そうではなかったのですね。
「ええと、良くなりましたわ。それよりも、昨日の粗相、申し訳ございませんでした」
エンデ様は、ヒクリと頬を引きつらせた。
「いや、いいよ。でも思い出したくないから、その話はやめてくれ」
思春期の男の子ですもの、自分がゲロまみれになったなんて、思い出したくもない話ですものね。
大人になると、むしろゲロまみれになっても嫌な顔をせずに介助してくれる男性の方が頼もしく、好ましいのですけれどね。
「かしこまりました」
ホッとしたように笑って、花束とクッキーが差し出された。
うぅっ。あまりにも強い香りに、胃が引きつります。これはけして体調のすぐれない人に渡すような種類のものではありません。
「ううっ」
思わず口を押さえて白目を剥く私から、エンデ様は後ろにピョーンと飛び退いた。
私も投げるようにミーシャに花束とクッキーを渡して難を逃れた。
数十分後。
胃腸不良に効くハーブティーをエンデ様とすすっています。
ハーブティーも薬師をしながら自分のためによく作りました。紅茶は貴族の飲み物ですが、ハーブティーは庶民でもよく飲みます。嗜好品というよりは、病気の予防だったり、薬を飲むほどでもないちょっとした不調の時にです。ちなみにハーブティと煎じ薬は似ていますがちがいます。ハーブティーは完全に植物でできているのに対して、煎じ薬はそれ以外のセミの抜け殻や動物の角、貝殻なども混ぜて作ります。それにハーブティはいくつかの例外を除いて、どんなときでも飲むことができるのに対して、薬はその体調に合わせて調合されたものなので、合わない薬を飲めば反対に体調を害することもあります。
「お、お嬢様」
ミーシャに小突かれて、正気に戻りました。
エンデ様が困ったように、頬を引きつらせていました。
「申し訳ありません。少し考えにふけっていたようです」
「ああそう……。いつもと雰囲気が違うね」
「そうでしょうか?」
「服装とかもいつもと違うし」
「背伸びをすることはやめましたの」
「そう……なんだ。あ、そういうユリアも別の魅力があって可愛らしいよ」
「そうですか」
愛らしいとか可愛いといった感情を感じられない。ただ媚びたような印象を受ける。
昔なら顔を真っ赤に染めて喜んだだろうし、もう一度「可愛い」といわれるためになんでもしたかもしれない。
いつだって私はエンデ様の気を引きたくて、話題を提供し、エンデ様の一挙手一投足に嬌声をあげて喜んだ。するとエンデ様も気分がよくなり、私も楽しませてくれた。
今更ながらに自分のピエロ具合に頭が痛くなる。
私が12歳なら、エンデ様は14歳だ。常に肯定してくれて気分を良くしてくれる相手なら一緒にいる価値はあるが、それをしない相手にはどうしたらいいか分からないのだろう。これは前の人生で婚約破棄された20歳のときのエンデ様も同じだった。
つまりは自分勝手な子供だ。
私は体は12歳だが、中身は56歳である。当然、エンデ様に恋心なんて抱けるはずがない。
そうなると『婚約者の浮気から嫉妬に駆られ、相手の女性を魔法で傷つけてしまう』という将来は起こらない。それならそれでいいと思えた。
エンデ様は居心地が悪そうにして帰ってしまった。
夏バテ真っ最中の時に一稿を書いたので、テンション低めでしたが。回復した今、訂正をしながら書き直しているので、文中のテンションがおかしなことになっています。申し訳ありません。