39 ユリアちゃん
遅くなりましたが、ヨーゼフパートをスキップされた読者様のために、3行でなろう小説の題名的にまとめてみました。
死神執事はご主人様と無双する
老化しましたが、娘が可愛いので幸せです
死神の友達は、お嬢様に夢中だってよ
こんなところでしょうか(^_^;)?
今日はお忍びで街に買い物だ。
私とミーシャは、街娘が着るような服を着た。
私が普段着ている服も、子供らしく動きやすいものを選んでいるが、生地は高級だし、デザインも凝っている。このシンプルで多少汚れても気にしなくていいワンピースというのは、着ていてホッとする。
私は薄い緑色で膝丈のワンピース。ミーシャはすみれ色でふくらはぎまで隠れる位の長さのワンピースを着ている。その上からお揃いで白いエプロンを被った。エプロンとはいっても、背中まで布で覆い肩甲骨の間でリボンを縛ってとめるものだ。肩のところと裾に大きなフリルがあって、とてもかわいらしい。私が着ると子供っぽいが、スラリとしたミーシャが着るとおしゃれな感じだ。それに二人共茶色の編上げブーツを合わせた。最後の仕上げに、私は耳の上の髪を両側から三つ編みにして、緑色のリボンで後ろでミーシャに結ってもらった。ミーシャも自分自身で同じ髪型にして、すみれ色のリボンで結んでいる。
くるっと回って鏡の中の自分を指差した。スカートがふわりと持ち上がり、中のペチコートがちらりと鏡にうつった。髪もさらりと広がる。
うん、よく生地が伸びて動きやすい。
「お、お嬢様……なんて破壊力!」
ミーシャは、わけの分からない事を言って、口だか鼻だかを押さえて、身悶えている。
「あ、そうだ。私のことは『お嬢様』って呼ぶの禁止よ。それじゃお忍びにならないわ。もちろん敬語も禁止ね」
「えっ……じゃ、じゃあ……ユリア……ちゃん?」
「ええそれでいいわ」
「じゃあ、私のことはミーシャお姉ちゃんって呼んでもらえたりなんかしちゃったりしますか」
「『ミーシャお姉ちゃん』ね。分かったわ」
あ……、ミーシャが壊れた。
もう、早くしてくれないかしら。街に買い物に行きたいのに。
屋敷の出口でアランが待っていた。アランも普段の軽鎧ではなく、普段着に皮の胸当てをして、腰にいつもの剣を下げた軽装だ。
「お待たせいたしました」
「いいえ、このようなかわいらしいお嬢様方を待つのは苦ではありません」
「ふふ、お上手ですね」
「いいえ、本当の事です」
私がアランと話すのは久しぶりだ。あの山での採取以来となる。ミーシャの方は、ちょくちょくと鍛錬場の方に顔を出しているというが、いっこうに打ち解けている様子がない。緊張しているのだ。
今回のお忍び外出は、告白の前に、アランとの距離をもっと近づけたいというミーシャの希望によるものだった。
「僕も苦じゃありません!」
「なんであなたがいるの!」
ヘンゼフの登場にミーシャは即座に反応した。
「だって、お嬢様方がお忍びで街に行くって、アランさんが教えてくれたから。ですよね?」
「はい。また荷物持ちをお願いできないかと思い声をかけました。私は両手が塞がっていては護衛が難しいことがありますので」
「と、いうわけです!」
どや顔のヘンゼフ。それをギリリと睨むミーシャ。
まったくミーシャったら、アランともこんな風に普通に話せばいいのに。
「あなた、今はヨーゼフの看病休暇中でしょ。ほっといていいの?」
「はい。なんか、じいちゃん元気になりました。もうすぐ仕事も復帰するそうです」
「何言っているの。あれだけ瀕死の状態になったのよ。復帰だなんてまだまだ無理に決まっているわ」
「あ、でもじいちゃん、体が軽いって言って、けっこう機敏に動いていますよ。いない時もあって、僕も母さんも探して回るほどです」
「そんなに元気になったの?」
私は首をかしげる。藍色の薬は治療薬だが、それほど劇的改善を見込めない。他にヨーゼフに施したのは、気付け薬だけだ。それで、なんでそんなに元気になったのだろう?
「あ、じいちゃんお嬢様に話したいことがあるって言ってました」
そう言って、ヘンゼフはしまったと口を抑えた。
「その……、じいちゃんが回復したことも耳や口が治ったこともお嬢様と家族だけの秘密にするそうなんです。何をするんだか、この方が都合が良いと言っていました」
「そう……分かったわ。じゃあ、あなたも今日から仕事復帰してね」
ヘンゼフは一瞬ぽかんとして、次いで悔しそうな顔になった。ヘンゼフの休暇は、ヨーゼフの看病のためだ。そこまでヨーゼフが回復したのなら、休暇はいらないだろう。
それにしても内緒にしてほしいとは……ヨーゼフにはヨーゼフの考えがあるのだろう。ヨーゼフがそういうのなら、内緒にしておこう。
幸い、アランは今日の行程をミーシャに説明している最中でヘンゼフの話に気がついていなかった。
結局、私とミーシャ、ヘンゼフとアランの4人で行動を共にすることになった。呼び名はそれそれ「ユリアちゃん」「ミーシャお姉ちゃん(さん)」「アランさん」「ヘンゼフ」だ。もちろん敬語禁止で。
ヘンゼフは「お兄ちゃんと呼んでいいんだよ」と言ってきたが、もちろん却下だ。
街までは、屋敷の使用人が使う馬車で移動する。そしてその街の中央公園で下ろしてもらった。
中央公園には、大小の屋台が並び、軽食をつまむ者などで賑わっていた。
「街に来たのは、ずいぶん久しぶりだわ」
「私は初めてです」
そういえばそうだった。ミーシャが私付きになってから、領地に来た記憶がない。
このミーシャの答えに喜んだのはヘンゼフだ。
「え、ミーシャさん初めてなんですか?僕、詳しいんです。案内しますよ!」
「いえ、私はアランさんに……」
「それはいい。私は道や危険な場所は知っていますが、ユリアちゃん達が喜ぶようなお店はわからないので」
「任せて下さい!」
私が何も言わないうちに、ヘンゼフが道案内することが決まった。