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挿話 生還

ついにあの人が登場します!

ここまで長かった……

・゜・(ノ∀`;)・゜・



 暗い、暗い場所にいた。

 でもその場所は、冷たくも寂しくもなかった。暗闇に抱きしめられていると、心が溶け出し、世界の一部になったような、いや世界が自分の一部になったような、そんな満ち足りた思いになった。

 そんな闇に、一条の光がさした。その光の元を見ると、懐かしい顔がたくさんあった。

 父、母。それに叔母さん。みんな穏やかで安らかな顔をしている。

 ああ、それに妻。出会った頃の姿だ。とても若くて、可愛らしい。背が小さくて、子供のようだ。そう、君は子供みたいだと言うと、頬を膨らませて怒ったね。尖った唇がかわいくて、わざと怒らせては、ご機嫌取りに何度もついばむようなキスをした。君の鈴のような笑い声、まだ耳に残っているよ。ずいぶん待たせたね。

 旦那様、お久しぶりでございます。あの世では、平和すぎて退屈でしょう。仕方ありませんね。あの時の続きをいたしましょうか。なあに、もう死ぬことはないのですから、思う存分戦えますよ。


 いつの間にか若返ったヨーゼフは光の中に足を踏み入れて、妻に、レオンに、両親に、その他に手を伸ばした。幸福な気分に包まれる。ふわりとヨーゼフの体が浮かんだ。


 ああ……もうすぐ私もあそこへ……。


 ガンッ!


 なぐられたような衝撃を覚えた。暗闇の中から、手が伸びてヨーゼフの足に絡まりつく。そしてヨーゼフは、暗闇の中に引きずり下ろされた。


 やめろ!離せ!


 手はだんだんと増えていった。

 ヨーゼフはその手を必死に払いのけようとするが、全くかなわない。

 もがく中、ふと、ヨーゼフはその手の中の一本に見覚えがあることに気がついた。


 お……お嬢様?


 その瞬間、ヨーゼフは重力と浮力がいっぺんに来たような抗えない力によって、別の場所に移動させられた。


 苦しい……

 寒い……

 痛い……

 ああ、なんて寂しいところなんだ。

 さっきの場所に帰りたい。こんなこところには、いたくない。ああ、旦那様……。妻や……。

 老いて小さく丸まったヨーゼフに、再び手が伸びる。


 ダメだ!来ないでくれ!あっちに行きたいんだ!


 しかしその手はヨーゼフの気持ちなどおかまいなしに、絡みついてきた。いや、絡みつくのではなく……抱きしめる?


 温かい。


 先程は気付かなかったが、その手には温もりがあった。寒さに凍えるヨーゼフは、おそるおそる、自分からその手に触れた。


 暗闇が弾ける!


 ヨーゼフは、見慣れた屋敷の客間にいた。正確には客間の天井から見下ろしていた。ふわふわと浮かんでいるのだ。


『ヨーゼフ、ヨーゼフ聞こえる?だめよお祖父様のところに行かないで、私のところに帰ってきて!あなたがいないと、私、また泣くわ。ええ、絶対に泣くわよ!だから、お願い……戻ってきて!』


 お嬢様!


 なんと、ヨーゼフの下には、お嬢様がいた。お嬢様は上にいるヨーゼフにも気付かず、なにかに一生懸命語りかけている。泣いているのか、か細い肩が小刻みに震えていた。

 その瞬間、ヨーゼフは理解した。ああ、私は死ぬのだと。お嬢様が語りかけているのは、自分の魂の離れた体なのだと。

 

 お嬢さま、お嬢様、私のお嬢様。どうか泣かないで下さい。

 どうか、私のことはお忘れになって、幸せな人生を歩んで下さい。私は、旦那様のところへ行きたいのです。どうか、お許し下さい、お嬢様……。



『父さん!せっかく一緒に暮らせるようになったんだから、どこにも行かないで!私に父さんの世話をさせて!父さん言っていたじゃない、家族で末永く幸せに暮らしてほしいって。私、父さんと、ヨーゼフ坊やと3人で一緒に末永く暮らしたいの。父さんが、普通の人みたいに、こんな病気で弱って死んじゃうなんて信じられないわ。前よくしていたみたいに、ただの冗談なんでしょ?お願い帰ってきて!』


 アリスや、アリス。

 泣き止みなさい。それでは赤子のようではないか。

 お前の夫は約束の半分しか叶えてくれなかったなあ。あの男はお前に温かく幸せな家庭と子供をくれた。でも、末永くという約束は破りおった。海の男が海で消息を断つなんてなあ。父さん、やつに会ったら、こらしめてやる。なあに、あの世なら、二度は死にはしないから安心しなさい。

 すまないなあ、アリス。私は母さんのところへ行くが、お前は孫と幸せに暮らすんだぞ。

 本当に私の子供として産まれてきてくれてありがとう。



『じいちゃん!母さんが言っていた、じいちゃんのナイフとフォークを投げる技を教えてくれよ!それに短剣の技も!じいちゃんと話ができるようになって、俺、じいちゃんみたいな執事になりたいって思ったんだ。なのに今の俺じゃ、全然仕事出来なくて。じいちゃん、俺に執事の仕事を教えてくれよ』


 すまない。孫よ。

 やっと会えたお前に、いろいろと教えてやりたかったが、もう時間が足りないようだ。

 お前には才能がある。精進しなさい。そして、お嬢様に尽くすのだ。りっぱな主となられる方だ。


『じいちゃん、俺、好きな子が出来たんだ。すっごくきれいでいい香りのする女の子でさ。俺のことをあだ名なんかで呼んじゃって……なんか、いい感じなんだよ。じいちゃんにひ孫を見せてやる日も遠くないって思ってるんだ。じいちゃんが夢だって言ってた家族団らんに、人数が増えるんだぜ。だからさ……戻ってきてくれよ」』


 好きな子?

 きれいで、良い香りがして……。

 それは、あの方のことか?

 そういえばお前は「ヘンゼフ」とかいうあだ名で呼ばれていると自慢しておった……。

 家族が増えるだと!な……、なんということだ!もうそんなところまで!お前と言うやつは!!!


 ヨーゼフの体に重さが戻る。息をする(・・・・)のさえ、苦しい。ヨーゼフは自分の孫を薄目を開けて見上げた(・・・・)

 肺を熱い空気が膨らます。そして、それを一気に吐き出した。


「ゆ………ん」


 ヨーゼフの喉は張り付き、舌は痛いほど乾き、唇は皮が剝けていた。思うように声がでない。


「じいちゃん!じいちゃん!気がついたのか!じいちゃん!」


 わずかな唾液を、口の中で回す。


「ぜ……に、ゆ……ん」

「じいちゃん、何?何がいいたいの?」


 ぼやけていた頭が、急に鮮明になる。くわっと、目を見開いた!


「ぜっ……たい……に、ゆ……るさん!」


 お前とお嬢様(・・・)の恋仲など、絶対に許すものか!!!





 その日の夜。屋敷では皆が寝静まり、ヨーゼフに付き添っていたアリスも船を漕いでいた。

 そんな中、ヨーゼフはパチリと目を覚ます。妙に冴えた頭を斜めに少しずらした。


「久しいの、悪魔や」

「よう。死神」


 そこにはフード付マントを目深に被った男がいた。ヨーゼフは驚く様子もない。

 男の様子からは、どんな容姿なのかは見て取ることができない。しかし、きっと数十年前に戦場で会ったときのままの姿なのだろう。


「お前に中和剤を持ってきたぜ。俺の愛し子がお前の命をつないだから、ほんのちょっとだけ手助けしてやろうと思ってな」

「愛し子……?まさか、お嬢様のことか?」

「ああ。あの子は、お前の不調の本当の原因を知らないからな」

「お前の薬の副作用のことか……。そのことは旦那様とわししか知らんからのお」

「ぷっ!なんだその言いようは。お前、しばらく会わないうちにずいぶんジジイ臭くなったな」

「はて、そうじゃろか?ところで、その薬を飲んだらわしはどうなる?」

「言っとくけど、健康にはならないぞ。あくまで副作用を中和するだけだ」

「お前さんなら、エリクサーを作る方が簡単じゃろうに」

「ばかいえ。そんなことをしたら、必死になっているあの子を見れないだろ。そんなの、もったいないじゃないか」

「ふう。なんと、かわいそうなお嬢様じゃろか、こんなのに見込まれるだなんて」

「ああ、そうさ。俺はあの子を見込んでるんだ。俺の求めるものをくれるかもしれないからな」

「お前の求めるもの……死ぬ方法か。まったく難儀よのお」

「それに、あの子はこれから大変な苦労をするぞ。お前なら守れるだろう。そのための中和剤だ」

「お前が守らないのか?」

「……」

「そうか……。よかろう。その薬をもらおう」


 見えないフードの奥で、男がニヤリと笑ったのをヨーゼフは感じた。

 口元に瓶を押し当てられ、少しづつ液体が流し込まれる。反射的に吐き出したいほどのひどい味だったが、耐えて飲み込む。

 痛いほどの清涼感が体の隅々まで走った。その後、急激に眠気がおそう。


「また会おう、死神」


 失いかける意識の中、悪魔の声を聞いた。


 旦那様、もう少し待っていて下さい。妻や、すまない。

 ここ数十年なかったような、安らかなヨーゼフの寝息が響いた。







長かったヨーゼフパートお終いです。


☆悪かった点。バランスが悪かった。設定等がブレブレになってしまた。反省につながりました。いずれ大編集したいと思います。


☆良かった点。文字数の多い話も書けることが分かりました。この先の本編一話分の文字数が若干増えました(^_^;)1700〜2500字になりそうです。←いや、それでも短いからヾ(-д-;)ぉぃぉぃ



感想では不評もいただきましたヨーゼフパートですが、評価ポイントがジリジリと上がっていました。これは「ポイントを入れてやるから連載止めないでくれよ」って言う皆様のお心かと……(^_^;)実は私も、よくそういうタイミングでポイントを入れるもので。

本当に、皆様がたの応援に感謝です。

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