4 お母様
短いですm(_ _)m
時雨茶臼様に誤記のご指摘していただきましたので訂正しております。
「私は親に言われるがままにあなたと結婚いたしましたわ。熊のようなあなたと!私の娘には優美な貴公子に結ばれて欲しいんですの。エンデ様のような!
私、婚約させますわよ。絶対に!」
お母様はヒステリックに叫んだ。
私の記憶では、お母様は私の望みをなんでも叶えてくれる優しい人だった。そんなお母様を私は大好きだった。
でも、こうして見ると、その優しさにはお母様の虚栄心と自己満足、そして利己的な愛情が透けて見えていた。そして機会があればお父様を侮り罵る言葉を投げつけていた。
表情の乏しいお父様の顔は、かすかに傷付いたような色が浮かぶ。
自分の人生の不満を子供を通して解消しようとする人がいる。こういう人は「子供のため」といっても実は自分のためなのだ。
お祖父様の右腕として伯爵家に仕えてくれていたお父様との結婚は、お母様の意に沿ったものじゃないのは分かっていた。でも結婚生活を十数年も続けているんだから、少しはお父様のことをいたわってあげてもいいのに。昔は気づかなかったけれど、お父様も傷ついていたのよね。
冷たい目をお母様にむけていたのに気づいたのか、お父様が戸惑ったように話しかけた。
「どうしたんだ。お前が、そんな冷静でいるなんて。いつもなら、婚約に反対する話をするたびに子犬みたいにキャンキャン騒いでいるだろうが」
「そうだったでしょうか?」
思わず小首をかしげる。
よく覚えていない。自分の事であっても、私にとっては何十年も昔のどうでもいい話だもの。結局は裏切られて終わる恋だ。どちらかというと愛しさよりも、まだ恨みのほうが気持ちがかろうじて残っている程度だ。
「ふぅ。少々疲れましたわ。休んでもよろしいでしょうか?」
体はまだ本調子ではない。平和とはいかない会話に、ぐったりとしてきた。
「ああ。休みなさい」
「ユリア。午後のお茶の時間にエンデ様が御見舞に来るそうよ。あなた、昨日エンデ様のお召し物に汚物を吐いてしまったんだから、きちんと謝るのよ」
「……かしこまりました」
退室の際、お母様は部屋の鏡で御自分のお姿を見て、髪を直しているが、お父様は不思議そうな、そして面白そうな顔をして私を見送った。