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挿話 娘との思い出③ ヨーゼフ視点

挿話 娘との思い出、最後の話ですm(_ _)m




 とうとうヨーゼフの見合い当日になった。


 ヨーゼフが叔母の家をこっそりと覗くと、テラス風の大きく突き出した軒下に白いクロスをかけられたテーブルが置かれ、その上の花瓶には黄色や赤の花が活けてあった。テーブルには二十歳台半ばの女性が神妙な顔でついている。女性の横には、約束の時間になっても現れないヨーゼフにイライラした様子の叔母の姿が見える。アリスの姿は見えなかった。

 ヨーゼフはニヤリと笑った。そして自分の身なりを確認する。

 足元は、いつもの黒靴。ブラシをかけて、油を塗り込み、よく磨いた革靴はピカピカと光っている。服はいつもの執事服の上下。折り目のピシッと入った黒いズボンに、細身の体に沿うラインで皺一つ無い上着。上着の中は、細かなピンタックのたくさん入った白いシャツだ。シャツの襟元には、黒い絹で作られた光沢のある蝶ネクタイが締められている。自分からは見えないが、頭の上の山高帽も黒く、糸くず一つ無いだろう。

 いつも通りの完璧な身支度である。


 叔母が飲み物か菓子をとるために、女性を一人残して室内に消えた。ヨーゼフは意気揚々と見合い相手に近づいた。


「こんにちは、お嬢さん」

「え?ああ、こんにちは」

「今日は良い天気ですなあ」

「ええ、そうですね」


 ヨーゼフは、女性の対面の椅子に腰掛けた。


「あ、あの、そこは……」

「はて?どうしましたかな?」

「いえ……。あの、こちらの家の方のお知り合いですか?」

「ええそうです。親戚なんです」


 女性は、ほっとした顔をした。

 家の者がいない間に、見ず知らずの男を同じ席につかせたとあっては咎められもしようが、親戚だというのならば仕方ないとでも思ったのだろう。

 ヨーゼフは何気ない風体を装って呟いた。


「こちらの親戚に見合いを勧められましてな」


 ヨーゼフがそう言うと、見合い相手はぎょっとしたような顔をした。

 ヨーゼフは、にっこりと女性に笑いかける。


「もしや、お嬢さんがわしの見合い相手ですかな?」


 女性は、最初の驚きから覚めると、今度は怒ったように目を吊り上げた。ガタンと椅子を倒して勢い良く立ち上がった。


「私、失礼させていただきます!」


 女性は、小さな手荷物を腕に下げて、足音も荒く庭の方から立ち去っていった。


 叔母が果実の汁を水で薄めたものを入れた大瓶と人数分のコップ、それに干した果物を混ぜて焼いた小麦菓子の皿をトレイに載せてヨーゼフの後ろの出入り口から戻ってきた。


「おや、ヨーゼフやっと来たのかい。おや、あの娘はどこへいったんだろうね?」


 叔母はヨーゼフの背に声をかけた。


「さあ」


 ヨーゼフは短く答える。


「まあ、すぐに戻ってくるだろうさ。おや、帽子くらいとんな。相手に失礼になっちまうよ」


 叔母は、トレイをテーブルに置き、3つのコップに果実水を注いだ。


「暑いだろ、これでも飲……え?兄さん?」

 え?あれ?ヨーゼフは?え!ええ!兄さん、死んだはずじゃ???えええ?」


 混乱のため、酸欠の魚のように口をぱくぱくさせている叔母に、ヨーゼフはにっこり笑った。


「叔母さん。ヨーゼフですよ」

「はあ!ヨーゼフ???な、なんだいその格好は!」

「格好?いつも通りの執事服です。いつも通りと言っても、これが私の一張羅ですがね」

「そんな事を言っているんじゃない!あんた見合いが嫌でそんな格好をしてきたのかい!」

「ああ、さっきのお嬢さんなら私が見合い相手だと言ったら怒って帰ってしまいました」

「当たり前さ!私だって、こんなに馬鹿にされたら、腹が立って……なんだいこれは」

「旦那様の証明書です」

「証明書?」

「読んでみて下さい」


 その証明書には、要約するとこのようなことが書かれている。

『ヨーゼフは伯爵家保有の魔道具を誤って操作し、老化の呪い(・・・・・)を受けてこのような姿になってしまった。伯爵家の不手際なので賠償はする』と。


 叔母の目の前にいるのは、筋肉はまだかろうじて残ってはいるものの、皮膚の張りは低下してくすんだ色をしており、顔にはくっきりとしたほうれい線と目元に笑い皺が刻まれている男だった。なでつけられた赤髪も、コシがなく量もかなり減ってしまっていた。

 どこからどう見ても初老の男性である。叔母が亡くなった自分の兄、つまりヨーゼフの父と間違えても仕方がないほど、そっくりであった。


「こ、こんなもんに騙されるもんか!」

「え?領主の出した正式な証明書なのに?じゃあ、こっちは医者の診断書と教会からのお悔やみの手紙」


 医師の診断書には、ヨーゼフがなんらかの原因で急激な老化をしてしまったこと。それ以外は、いたって元気な事が書かれていた。また教会からのお悔やみの手紙は、呪いによって老化してしまったが、祈りや聖水によってもその呪いを解除できなかったことへのお悔やみが書かれていた。


 これだけの事が書かれている書類を揃えているのに、叔母は胡乱な目をヨーゼフに向けてくる。


「そんな呪いがあるなんて、聞いたこともないさ。お前が見合いが嫌で、みんなをだまくらかしているんだろう。旦那様は、きっと共犯に違いないさ」

「それじゃ医師の診断書や教会からの手紙は?」

「お医者さまは『なんらかの原因』って言っているんだろう。きっとお前がなんかしたに違いないよ。そもそもお前のインチキで、呪いじゃないんだろう?聖水でどうにかなるわけないさ」


それに普段のヨーゼフを知る者としては、仕方のない反応であった。


「やれやれ、叔母さんの疑い深さは仕方がないですね。でも、こんな私と見合いをしたがる女性はいますかね?」


 叔母がさらに批難を口にしようとした瞬間、アリスがその場に飛び込んできた。


「父さん!」


 見た目の変わったヨーゼフに、アリスはなんの躊躇もなく胸に飛び込む。老化したヨーゼフは、少しよろめいた。


「アリス……」


 力いっぱい抱きつくアリスに、ヨーゼフは優しく抱き返す。赤みがかった金髪のアリスがヨーゼフの頬をくすぐり、愛しさに溢れてアリスの額にキスをした。


「父さん、会いたかった。本当に会いたかった」

「父さんもアリスに会いたかったよ。もう大丈夫だ。またしょっちゅう会いに来れるよ」

「ホント?」

「ああ本当さ。お見合いはもうしなくていいんだから」


 とたんにアリスの顔が曇る。


「もう、お見合いしなくていいってことは、結婚する相手がみつかったからなの?」

「そうじゃないさ。結婚なんかしないし、見合いもしない。そうだろ、叔母さん」


 苦虫を噛み潰したような顔で叔母は頷いた。


「本当にそんな呪いがあるのかどうかは疑わしいところだけれど、そんなに老けちゃ、相手も嫌がるからね。見合いはなしさ」

「「やったーー!」」


 ヨーゼフとアリスが歓声を上げる。

 ふと気になって、ヨーゼフはアリスに尋ねた。


「本当にアリスはいいのかい?アリスにお母さんができたかもしれないのに」

「私のお母さんはちゃんといるもの」


 アリスは、自分の胸の上に手を置く。


「新しい母さんが欲しかったんじゃないなら、なんで父さんを避けていたんだい?」


 アリスは言いにくそうに答えた。


「ブルーノたちが、父さんも幸せになるべきだって言ってたから……。父さんに会ったら、見合いも結婚もしないでって言って、困らせちゃうと思ったの。でも、やっぱり……」


 ヨーゼフはもう一度アリスを抱きしめた。


「大丈夫さ。父さんの幸せは、アリスと一緒にいることだよ」


 アリスは、ヨーゼフから身を離す。


「それに父さんが結婚したら、一緒に暮らせるかもしれないけれど、叔母さんとハトコ達とブルーノともお別れしなきゃいけないんでしょ。そんなの嫌!」


 これには叔母も観念したように微笑んだ。


「そうか。分かったよ。ところでアリスは父さんの姿についてはなんにも言わないのかい?」

「え?だって、父さんだもん、何かしたんでしょ」


 一緒に住んではいなくても、父のことをよく理解している娘であった。



ヘンゼフ「お嬢様……、僕のおじいちゃんって本当は何歳なんですかヽ(゜Д゜;)ノ!!知っているなら教えてくださいよお。・゜・(*ノД`*)・゜・。」

お嬢様「そっ、そんなの私だって知らないわよΣ(-`Д´-ノ;)ノ?!いっ、いったいどういうことなの?私達が思っていたよりも、ヨーゼフは若いってこと?あ……、だから耳が聞こえなかったのも老人性難聴じゃなかったのかしら?」

ヘンゼフ「お嬢様、感想欄で作者が『私も知らなかったヨーゼフの真実が明かされる』と呟いていたそうですが……」

お嬢様「そういえば、しばらく前からヨーゼフの歳の計算が合わないってあの作者悩んでいたわね……」

ヘンゼフ「え?ってことはこの一連の挿話はその辻褄合わせ……?」

お嬢様「………………お仕置きが必要かしらね( º言º)」

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