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挿話 若かりし日の思い出① 〜ヨーゼフ視点

 もしかしたら、ヨーゼフのイメージが変わるかもしれません(^^;)




ーーーー夢を見ていた。

ーーーー遠い……遠い昔の日の夢だ。


「旦那様ーー、もう帰りましょうよーー!これ以上、家を開けたら、俺、本当に離婚されちゃいますって!」

「がははははっ!離婚されたなら、それはお前に魅力がないってだけだ!第一、いまだにお前が結婚しているなんて、わしは信じられんわ!」

「何を言っているんですか!結婚式で乾杯の音頭をとってくれたのは旦那様じゃないですか!」

「そうだったかの?がははははっ!」


 いたって平和な会話をしているが、二人の周りには絶え間なく血飛沫が上がっている。

 真っ赤な髪に黒い瞳、細くて手足がひょろりと長いヨーゼフは、ステーキ肉を切り分けるように手慣れたしぐさで短剣を滑らす。その先にあるのは、もちろんステーキ肉などではない。


「ヨーゼフ、あっちのが逃げるぞ。何とかせい!」

「たくっ、人使いが荒いんだから。帰ったら特別ボーナスを頼みますよ」


 ヨーゼフが漆黒の執事服の襟元に手を入れるとほぼ同時に、逃げ出した盗賊・・は首から血を噴水のように吹き出して倒れた。盗賊の首には、銀のフォークが刺さっている。

 ヨーゼフがあまりに速くにフォークを投擲したため、投げた瞬間を誰も見ることができなかった。


「ヒュウーー!やるなヨーゼフ、でもそのフォークはうちの屋敷のものだろう。さてはガメる気だったな。ボーナスは無しだ!」

「そんなあ……とほほ」


 ヨーゼフの主人である獅子のような大男、レオン・オルシーニ伯爵も、大剣を振り回し軽々と盗賊の命を奪っていく。


 軽口が落ち着く頃には、二人の周りに生きた人間はもう誰もいなかった。


「よし、片付いたか」

「やれやれです。それにしても、毎回疑問なんですが、よく旦那様みたいなのを襲う人がいますね。私だったら、こんなの恐ろしくて近づくのも嫌ですけれど」

「わしは、関節を外して背中を丸めればただのデブに見えるからな。きっと旨い物をたらふく腹に詰め込んだ、金持ちの商人にでも見えるのだろう。お前こそどうだ、常人にはない危ない雰囲気をさせとるぞ」

「はて?自分では分からないものですが、そうなのですかね?」

 ヨーゼフはコトリと首を横に倒す。

「私はコトが起こるまでは旦那様の影に潜んでるんです。だから、盗賊は気づかないんでしょう。盗賊にはデブでモテない冴えないケチな男一人旅に見えるはずです」

「がはははは、そうかそうか。お前の『死神』というあだ名は、伊達ではないな」

「センスのないネーミングです。旦那様こそ『狂い獅子』でしたっけ?そっちは、あまりにぴったりで笑いました」


 レオンというのは獅子を意味する。獅子のタテガミのような金茶の髪を生やし、同じく金茶の瞳で生まれ落ちた瞬間に産婆を睨みつけたとの逸話を持つこの男は、その名に恥じぬほど大きく、猛々しく、強い男に育った。今はヨーゼフと同じく30歳の男盛だ。

 20歳代は戦場で過ごした。後ろで控えているのが当然な貴族当主でありながら、一般兵と共に常に前線で戦い、大剣を振るい、魔法を駆使して、大きな手柄を立て続けた。

 そのレオンの傍らには影に隠れて、ひっそりと敵を葬るヨーゼフがいた。敵国では狂い獅子と死神と呼ばれ、大いに恐れられた二人であった。



「それにしても、戦争が終わってから、兵士や傭兵崩れ、それに食い詰めた農民がこぞって盗賊に早変わりしおる」


 レオンは、困ったものだと顎の無精髭をざらりと撫でた。


「本当にゴキブリのように湧いてきますね。でも何も全滅させなくてもいいんじゃないですか?特に農民は自分の畑に帰せば税を収めてくれそうなもんですけれど」

「馬鹿者。そんな盗賊に早変わりするような民を、誰が信用できるか!反乱を起こすのがオチだ」

「そんなものですかねえ?」


 レオンは、ニヤリと口の端を歪める。


「それに命を奪わないような手加減は、なかなかに難しい」

「何ですかそれ!手加減位覚えて下さいよ」

「『死神』がよく言うわい。戦場でも、わしが討ち漏らした敵を残らず葬ってきたのはお前だろうに」

「討ち漏らすって……旦那様は、強い相手を見つけると目の前の雑兵なんて放り出してそっちに行っちゃうから、後始末をしていただけじゃないですか!」

「弱い者と戦ってもつまらん。戦いは強い者と戦ってこそ面白い」


 レオンは重々しくため息をついた。


「今はつまらんのう。こんな盗賊しかおらん。

そうだ、ヨーゼフ。お前、わしと戦わんか?それが一番面白そうだ」

「まっぴらごめんです。屋敷に帰れば愛しい妻がいる身ですから」

「『妻』のう……」


 またもやレオンは思案げに顎をなでる。


「ああ……旦那様の結婚も、もうすぐでしたっけ?」

「それくらいちゃんと把握しとけ、お前はうちの執事じゃろうが」

「執事長の父が把握してるので問題ありませんよ。ともかく結婚はいいですよ〜。かわいい妻の顔を見れば、旦那様にこき使われた疲れも吹き飛びます。それに、もうすぐ子供も産まれるんですよ。楽しみだな〜。妻似の美人かな〜?それとも私似のハンサムかな〜」

「何がハンサムじゃ、死神の癖に」

「ともかく!妻には、もうすぐ子供が産まれるっていうのに、こんなに家を空けてばかりいるんじゃ離婚するって言われているんです!だから盗賊退治が終わったなら、さっさと帰りましょう」

「まだこやつらのアジトを叩き潰さにゃならん。今夜は帰れんぞ!」

「そんなぁ……」


 ヨーゼフは、大げさに膝を落とした。


「そうだ、盗賊を生かしとけん理由をもう一つ思い出した。生かしとったら、領主として裁判をしなきゃならん。面倒だ」

「旦那様はダメな貴族ですねえ」


 ヨーゼフはしみじみと言う。

 普通の貴族が相手ならば、その場でヨーゼフの首が飛んでいてもおかしくない。しかしレオンは「がはははっ」と、豪快な笑いを返すばかりだった。





次もヨーゼフの思い出が続きます。


注意

2018.1.28

ヨーゼフの挿話が予想以上に長くなってしまいました。

そのため本文とのバランスが悪くなってしまいました。

読者様からのご指摘もあり、最初の掲載から入れ替えをしています。

ただ後書き前書きに関しては、反省の気持ちを込めて、当時のままにしています。

ご了承の上、お読みいただけると幸いです。



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