31 二人目の客
『愛しい娘ユリアへ
領地での生活は気に入っただろうか?』
お父様からの手紙はこう始まる。
そして、以前私がお父様に送った薬を褒めて下さり追加の注文があった。
私がお薬と一緒に送った手紙にあったお願いも了承していただけた。
そして手紙はこう続く。
『ユリアの婚約の話だが、まったくの白紙に戻った。理由は話をでっち上げたが、許してくれ。向こうも、まだ婚約していたわけではなし、あっさり引いてくれたよ。もっとも我が家の儲け話にコロンナ侯爵家を一枚噛ませてやることにしたがね。
コロンナ侯爵家はそれで済んだのだが、どうもエンデ君は納得がいかないらしい。私が無理矢理二人を引き離したと思い込んでいるようだ。申し訳ない。私はコロンナ侯爵家との関わりばかり気にしていて、エンデ君本人に誠意を込めて話すことをおろそかにしてしまったようだ。
コロンナ侯爵家との話が通ってから、数日後エンデ君が数人の従者だけを連れて出奔してしまった。どうやら我が領地に向かったようだ。なんと考えなしの無謀なことをする若者だ。今更ながらに、愛しいユリアにはふさわしくない男だ。
しかし我が領地で侯爵家の子息が害されでもしたら問題になる。どうか、すぐに王都に戻ってくるように取り計らって欲しい。
厄介なことを押し付けて申し訳ない。
愛を込めて 父 ゴッソ・オルシーニ』
お父様は自分がエンデ様と話すことをおろそかにしてしまったとおっしゃるけれど、本当に話さなくてはいけなかったのは私の方だ。
私は自分が人生をやり直していることの混乱の中、エンデ様とろくに話もしないで領地に来てしまった。
エンデ様にしてみたら、ついこの間まで自分に熱を上げていた少女が、急にいなくなり、婚約の話はなくなったのだ。納得いかないのが当然だ。
お父様に無理やり仲を引き裂かれたと思い込んだのも無理はない。エンデ様は私に直接会えば、どうにかなるはずだと思っているのだろう。
手紙を受け取ってから、そう日を置かずにエンデ様が屋敷に現れることは予想していた。思っていたよりも遅かったくらいだ。
「やあ、ユリア。元気だったかい?」
エンデ様は期待に満ちた目をしながら、金髪の髪をかきあげる。
「……。ええまぁ」
その髪かきあげは効果ないって忘れちゃったのかしら?なんでしょうか、叔父様と話すよりもずっと疲れましたわ。まだ一言しか会話していないというのに。
申し訳ないと思っていた気持ちが薄まりそうだ。
「……」
「……」
「コホン。エンデ様、今日はいったいどのようなご用でこんな遠方まで?」
「もちろん君に会いに来たんじゃないか」
ああ、ですよね。
目をキラキラさせていますけれど、「まぁ、私のために?ユリア嬉しい」って言って欲しいんでしょうね。
こら、ヘンゼフ笑うな!
「あの……婚約の話は白紙に戻ったと言うことですが」
「ああ、君のお父上が強引に話を撤回してしまった。僕はどうしても納得がいかずに、君の家を訪ねたんだが、君はもういなかった」
申し訳ありません。逃げるように領地に来てしまっていて。いえ、エンデ様から逃げたわけじゃないんですよ。あの時は、人生やり直すんだーーって思うと、もういっぱいいっぱいで。正直エンデ様と婚約の婚約がなくなれば、あとはどうでもいいていうか。もうエンデ様と関わる気がないというか。
内心ではこんなことを思いながらも、表情は申し訳なさそうな顔をする。
「いいんだ。君の気持ちはよく分かっている」
いいえ、分かってないと思います。
「君のお母上が教えてくれた。君のお父上が僕達の仲を引き裂こうとしているけれど、君は領地で僕が来るのを待っているって」
エンデ様を焚き付けたのは、お母様かーーーー!