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30 一人目の客





「この度は、貴重な情報をありがとうございました。ユリア様」

「まあ、そんな……頭をお上げ下さい叔父様」


 ゆっくりと顔を現したのは、色気だだもれの美中年だった。今日は白いシャツを開襟にして、金のネックレスを首元に垂らしている。浅黒い肌によく似合っていた。少し疲れた様子なところがさらに色気を放出している。

 魅了系の魔法?いえいえ叔父様は魔力はないはずですから、「地」ですわね。ま、私には効きませんけれど。そうでしたわ。叔父様は笑顔で流すんでしたわ。

 ニコニコっと。


「……。

 お嬢様の情報のおかげで、昨夜無事に盗賊団のアジトを壊滅させることが出来ました」

「それは良かったわ、指揮をとった叔父様と、自警団の皆様のおかげですわね。叔父様もお疲れでしょう。こんなにすぐに報告にこなくてもよろしかったのに」

「いえ、処理に時間がかかったものですから、結局朝まで仕事詰めでしたので、そのついでです。お気になさらず」


 叔父様ももう歳なんですから、徹夜なんてしたらせっかくの肌があれますわよ。

 

 盗賊のアジトには拐われた子供達がいたらしく、それを救出した叔父様は、子供達を親元に返していたら時間が予想以上にかかってしまったそうだ。

 そんなこんなで叔父様の評判はまた高まったらしい。費用とか捕らえた盗賊の裁判とかの後処理はお父様に丸投げするくせに。少しはお父様の苦労を分けて差し上げたいわ。そしてそのつややかな黒髪にお父様の半分でも白いものが混じればいいのに。


「それと、もう一つの方なのですが……」

ちんね」

「あの魔物は、成長に従って縄張りを広げます。まだこの時期に発見できて幸いでした。いずれ領民に被害がでていたでしょうから」


 そう。前の人生では、鴆は成長して領民に被害を及ぼしてから討伐になった。成鳥になった鴆を打ち取るために、多くの被害者がでたそうだ。今回はそこまでいかなくてよかった。


「ええそうね。討伐はいつ頃になりそうかしら?」

「それですが、危険な魔物です。自警団だけでは心許ない。できれば、お屋敷の兵士と護衛を私にお貸しいただけないでしょうか?」

「兵士と……護衛まで?」

「ええ。盗賊を壊滅させた今、我が領の治安は良くなるはずです。一方、鴆は触れたものを昏睡に陥らせる魔物。自警団だけでなく冒険者も雇っていますが、それでもなお人手が必要なのです」

「そうね。ええ、構わないわ。日程はロベルトと調整して下さい」

「ありがとうございます」


 ブルーノ叔父様は慇懃に頭を再び下げた。

 叔父様も後頭部が薄くなっていれば、もう少し可愛げがあるんですけれど。


「ところで……」


 あら、そよ風?ああ、叔父様お得意の威圧ね。

 私の後ろに控えている二人をチラリと盗み見る。

 ミーシャは取り繕っていても、やっぱり恐いようね。小刻みに震えている。ヘンゼフは……、窓の外をぼーっと見てないでちゃんとこっちを見ていなさい!本当に図太さは私以上だわ。


「あの盗賊と鴆の情報はどうやって入手されたので?」

「まったくの偶然ですわ。

 幸運にも、いいえそれとも悪運かしら?山に散策に行きましたところ、ちょっと迷ってしまいましたの。そうしたら、あの恐ろしい風景に偶然ぶつかりまして。図鑑であれが鴆の習性だと知っていましたので、叔父様にご連絡したのですわ」

「ほう、あれが偶然ですと?」


 まったく信じてないですよという具合に、右の眉をクッと上げる。でもだからといって、別の説も思い浮かばず、私の説明を飲み込まざるを得ないようだ。


「それで盗賊の方は?」

「ああ、あちらも偶然山中で出会って不穏なものを感じましたので逃げ出そうとしたところ、何故か急に倒れて気を失ったんですの。なので縛り上げて叔父様にご連絡したのですわ」


 叔父様の目がすっと細くなる。

 気温が少し下がったようだ。


「こちらも偶然だとおっしゃるおつもりですか?二人の盗賊が、偶然にも同時に気を失ったと」


 私はかわいらしく、唇の高さで両手を合わせたまま、小首をかしげてにっこり笑う。


「ええ。偶然ですわ」

「ほう、偶然……」


 大波のような威圧感が襲い、そのあとパッと消えた。


「……情報をもらい、更には手助けを求めている身です。今日はここまでにしておきますが、次に何かあった時は正直に話していただきますよ」

「次なんてありませんわ」


 ニコニコ。


「それと、その気持ち悪い笑顔も止めていただきたい」


 ま、失礼な。最上の笑顔を作っていたのに。

 ぷうっと頬を膨らませる。


 その時ロベルトから急な別の来訪者の知らせがあった。

 もうそろそろだとは思っていたけれど……。ため息がこぼれる。それを叔父様は意外なものを見たといったように片眉を上げた。


「では私はこれで失礼するとしましょう」


 颯爽と退出する叔父様とほぼ入れ違いに、別の客が案内のロベルトの制止を聞かずに応接室に入ってきた。

 窓からの光がお客様の髪に当たりキラキラと輝きを放つ。


 立ち上がって、スカートの裾をつまみ上げて礼をする。うつむいて相手には見えない顔の下で、密かに再びため息を吐いた。


「お久しぶりでございます。エンデ様」




エンデ君が来るとなりゃ、ため息位出ますわなぁ


所要により、感想返信を一週間位休みます。申し訳ありませんm(_ _)m

更新は予約で設定しましたので、続きをお楽しみ下さい♪

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