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26 ヨーゼフの治療②



「♪

 ゆうべとうちゃんと寝たときにゃー

 変なところに芋がある

 とうちゃんこの芋なんの芋

 いいかよく聞けこの芋は〜

            ♪」


 陽気なヨーゼフの歌声が調合室に響いていた。ミーシャは「ヨイヨイ」と手を叩きながら合いの手を入れている。


 歯の治療で、ヨーゼフの発語は問題なくなった。

 鴆の毒は快楽性があるため、普段より陽気になる。要は酔っ払ったような気分になるのだ。


 それにしても芋の歌?


 今度は踊りだそうとするヨーゼフをなんとかなだめて、寝椅子に横たえた。


 テーブルの上には二つの小箱。

 一つは歯の治療を終えて空になった箱。

 もう一つの小箱を開けた。ガラスの瓶に、黒い丸薬が詰まっている。


 歯の次は耳の治療をする。


 老人性難聴は、耳の中の音を感知する細胞が老化で死んで減ってしまうものだ。高い音からだんだん聞こえなくなり、やがて低い音も聞きづらくなる。耳の中のカタツムリのような形の器官の入り口に高い音を感知する細胞があり、低い音を感知する細胞は奥の方にある。なので入り口の酷使される高い音を感知する細胞が痛みやすく、高い音から聞こえなくなるのだ。


 死んだ細胞を復活させるのは、手元にある材料では到底できない。それこそドラゴンの肝やルーン草の花蜜などといった伝説級の素材が必要になる。

 ヨーゼフは確かに耳が遠いが、大きな音はかろうじて聞こえる。その程度の難聴なら、身体強化薬を使うことにした。もちろん効果も日常生活が送れる程度に落として、その代わりに効果時間を長くしている。一日2回ほど飲めば一日中よく聞こえるようになるはずだ。


 五感を強めるような身体強化薬は、その部位を強化しているのではなく、その情報を読み込む脳を強化するものがほとんどだ。なので先日作った嗅覚を良くする薬は、脳の臭いを感じる部位を刺激したけれど、聴覚を刺激する薬は、材料はそのままで配合だけ変えて脳の部位を聴覚に変更するだけでいいというわけだ。


 さっそくヨーゼフに一粒内服してもらった。


「どうかしら、ヨーゼフ?ちゃんと聞こえる?」

「はっ?」

「あら、まだ効かないのかしら?」


 少し時間を置いてから、もう一度尋ねた。


「ヨーゼフ、少しは聞こえるようになった?」

「は?もう一曲ですか?」


 耳は聞こえていないようだ。


「ヨーゼフ、ヨーゼフ!聞こえる?」

「はい。わしは歌が得意です。

 ♪

 ゆうべかあちゃんと寝たときにゃあ

 変なところに穴がある

 かあちゃんこの穴なんの穴

 いいかよくきけこの穴は〜

             ♪」


 おかしいわ。配合を間違えたのかしら。

 それとも、脳の方に支障があるのかしら?


 その時、ミーシャが私の耳にふっと息を吹きかけた。

 ゾクゾクっとサブイボが全身を走る。


「な、何するのよ!」


 思わず息を吹きかけられた方の耳を両手で隠した。


「執事長は、多分こういうことかと思いまして」


 ミーシャは、真面目な顔をしている。一瞬、デレッとした顔を見た気がしたのは、きっと気のせいね。


「何なの、こういうことって?」


 ミーシャはヨーゼフの頭を自分の膝の上に置いた。そしてポケットから、キラッと輝く銀の棒を取り出したかと思うと、ヨーゼフの耳にグサっと突き刺した。


「きゃあ!何するの!」


 私の絶叫とは裏腹に、ヨーゼフは気の抜けた声を出した。


「ほえええええ。こ、こりゃ、たまらん」


 ヨーゼフが恍惚とした表情を浮かべている。このまま

あの世に行ってしまいそうだ。

 ミーシャは小刻みに銀の棒を動かしている。


「開通しました!」


 ミーシャの銀の棒。それは、耳かきだった。穴から抜いたそれには耳垢がこんもりと乗っていた。


「ほえええええ、なんじゃろか?よく聞こえるわい」


 ヨーゼフは両耳を手で抑えたり離したりしている。

 ミーシャはしたり顔で、うんうんと頷いた。


「時々、ある話なんです。

 耳の遠いお年寄りに耳掃除をしてあげたら、よく聞こえるようになったってことが」

「つまり、こういうこと?ヨーゼフの耳は老人性難聴になっていたわけじゃなくて……、単に穴が塞がっていたって……」

「はい。そういうことです」

「そういうことですじゃ

 ♪

 かあちゃんこの穴何の穴

 いいかよく聞けこの穴は

 お前の声聞く耳の穴〜」


 ガクリと膝から崩れた。

 それとお願いだからその耳かき棒は、私には使わないでちょうだいね。



耳掃除をしたらよく聞こえるようになったって、本当に高齢者あるあるです(^_^;)


ところで曲の続きが気になる方はググってみてください(笑)

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