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23 藍色の薬

孫の方のヨーゼフの略称は紆余曲折を経て、現在のように変更になりました。




 さて今日は調合の日だ。


 魔法で下処理した素材を鍋でエキス状になるまでグツグツと煮込む。長い時間煮込むことで、成分がよく溶け出す。なので、それに魔法は使わない。部屋に設置した竈が役に立っている。


「まるで童話に出てくる、かわいい魔女さんみたいですね」


 ミーシャはのんきに言うが、鍋に差した腕位の長さのしゃもじをずっとかき回し続けるのはかなりしんどい。

 前の人生では、慣れていたせいかこんなにしんどくはなかったはずだ。ふと自分の腕を見て、納得する。まだ子供の体だ。


「くううう、ただグルグルかき混ぜるだけならミーシャか、いっそあのヘンゼフに丸投げするのに」


 薬作りではほんの少しの変化も見逃す事が出来ない。なので、薬師自らかき回し続けるしか無いのだ。


 ところで、ミーシャは孫の方のヨーゼフへの怒りが収まらず変態ヨーゼフを略して「ヘンゼフ」と呼ぶようになってしまった。

 私も最初の方は「執事長の方のヨーゼフ」とか「孫の方のヨーゼフ」とか呼んでいたのだが、だんだん面倒になり私もヘンゼフと呼ぶようになった。

 それが今では屋敷中の人がヘンゼフと呼ぶ。面白半分でなのか、嫌われてのことなのかは分からないけれど。


 換気のために窓を開けていても、火の側でのこの作業はまだ暑い。吹き出す汗をミーシャがハンカチで拭い、団扇で風を送ってくれる。時折、冷たい飲み物もストローで口に運んでくれるのもありがたかった。


 そうしてグルグルグルグルっと根気強くかき混ぜ続ける。最初はただ青臭いだけだった鍋いっぱいの中身も、今では鍋の底に溜まった中身が蒸留した果実酒のような芳醇な香りをさせている。

 少ししゃもじを持ち上げると先から、トロッとした液体が鍋までゆっくりと落ちていく。かなり重い。


 腕の筋肉はずっと前から悲鳴を上げ続けていた。こんなことなら、回復薬を先に作っておけばよかったと後悔をしていた時に、しゃもじの重さがふっと一瞬軽くなった。

 急いで火を消して、鍋ごと氷で埋め尽くしたたらいに移す。


【コールド】


 魔法でも、鍋を冷やしていく。魔法力の少ない私では、たらいの氷はどんどん溶けていく。あと氷一欠片というところで、鍋の中身は急に水のような液体になった。


「さあ、もうじき完成よ」


 鍵の付いた扉から、密閉された容器を取り出す。

 直接触れないように、容器の中から黒い羽を一枚ピンセットで取り出した。ちんの羽だ。


 息を詰めるような緊張感のもと、鴆の毒が付いたその羽の先を鍋に沈めて小刻みに動かす。

 すると濃い茶色だった鍋の中身が濃い藍色になった。


「成功だわ」


 急いで鴆の羽を鍋から引き上げて、鍋に付いた先端部分だけを慎重に切り落とし、残りをまた厳重に保管した。


 藍色の薬を小瓶に移し替える作業はミーシャにお願いした。もうくたくただ。私が移し替えの作業をしたら、腕がプルプルして薬をぶちまけそう。


「これがお嬢様が作りたがっていたお薬ですか?」

「いいえ、私が作りたい薬は、これを材料にまた調合しなくちゃいけないの。とはいっても、これだけでも十分な薬効はあるけれど」

「どんな効果があるんですか?」

「これはね……」

「たーーすた、うでーーすなあ、おじょーま」

「ひっ!」


 びっくりして変な声が出てしまった。真横を見ると、執事長の方のヨーゼフがすぐそこにいた。

 扉が開く音もしなかったはずだけれど、と思いミーシャを見ると彼女は必死に首を振っていた。ミーシャもヨーゼフが入ってきたことに気づかなかったのだろう。


 ヨーゼフは前歯などが抜けているため、息が漏れてしまい、ちゃんとした発音ができない。多分、ヨーゼフは『大した腕ですなあ、お嬢様』って言っている。


「あ……ありがとう。それにしてもあなたが入ってきたことに気づかなかったわ?」


 ヨーゼフは「は?」と耳に手を当てて聞き返した。そうだったわ、ヨーゼフは耳が遠かったんだ。大きな声でしゃべらなくちゃ。

 大声で先程の言葉を繰り返すと、ヨーゼフはうんうん頷いて手紙を三通差し出した。


「……。ありがとう」


 ヨーゼフが現れた要件は分かったが、どうやってこの部屋に入ってきたのかはわからなかった。




実際には麻薬、麻酔薬などの劇薬は薬品金庫で保管しなきゃダメなのだそうですよφ(..)

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