表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/207

閑話 ある少年の日常②

 ふらりと立ち寄った厨房は大忙しだった。


「料理長!僕、手伝います」

「ヨーゼフか。お前にできることなんてない。っと言いたいところだが、この有様だ。そこのジャガ芋の皮を剝いてくれるか。言っとくが、ただジャガ芋の皮を剥くだけだぞ」

「任せてくださいよ!そんなの余裕のよっちゃんです」

「……だから心配なんだ」


 ジャガ芋はカゴに山積みになっていた。100個はあるだろうか。厨房の勝手口から出たところで、椅子代わりに桶を逆さにして座り、2個3個と小刀で皮を剝いていく。

 ……飽きた。

 あーー、いい天気だな。ここに来るお嬢様ってどんな子かなあ。あの強面の旦那様の子供じゃ、やっぱりおっかないのかなあ。面白い子だといいなあ。あーー、日差しがあったかくて気持ちいいなあ。


「おーい、ヨーゼフできたか?」

「うーーん、母さん、もう少し。あと3時間だけ……」

「てめえ、寝てやがったな!」

「あ、料理長。おはようございます」

「おはようございますじゃねえ!ジャガ芋はどうしたジャガ芋はよ!」

「あ、どうぞ。出来てます」


 カゴをずいっと料理長の方に押しやる。料理長はそのジャガ芋を見て目をかっと開いた。


「てめえ、ジャガ芋の皮をただ剥くだけだっていっただろうが!なんだこれはよ!」

「普通に剥くのに飽きちゃったんで、ちょっと工夫してみました」

「ふざけんな!本当にふざけんなよ!たくっ、こんなのを、俺はどう調理すればいいんだよ……」


 料理長は膝から崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?」

「てめえのせいだよ!」


 フライパンが飛んできた。解せぬ。

 ちゃんとジャガ芋の皮は全部剝いたのに。


 料理長の怒鳴り声が聞こえないところまで走って避難した。


 さて、どうするかな。まだ寝足りないし、空き部屋で、また寝るかな。欠伸をしながら、適当な部屋に入った。


「………………。こんにちは、ロベルトさん」

「お前か。姿を見せるなと言ったはずだが」

「えっと、これは偶発的事故というか、はたまた必然的衝突というか。ってか、なんでロベルトさんこそこんな空き部屋にいるんですか?ロベルトさんなら、執事長室で事務仕事するか、他の使用人を見張りに行っててくださいよ。もう」

「……貴様」

「それに何で壁掛け時計なんて手に持ってるんですか?それよりも、時計のかかっていた場所の後ろにある穴はなんですか?」

「貴様には関係のないことだ」

「その穴の中の書類はなんですか?」

「関係ないことだと言っている」

「そんなところに穴が開いていたら、困りますよね。修理しなくちゃいけませんよね。僕やりましょうか?得意なんですよそういうのも」


 時々は僕の有能さをアピールしておかなくちゃ。

 なのにロベルトさんは、額のところの青筋がピクピクしている。

 あーー、あれか。お屋敷の壁に穴が開いてるなんて重大事、ロベルトさんじゃどうしたらいいのか分からないのか。そりゃ、大変だなあ。


「遠慮しなくていいですよ。僕から、おじいちゃんに報告しておきますから、安心して下さい」


 ロベルトさんは、持っていた壁掛け時計を大きく振りかぶった。あれはヤバイ。

 僕は急いで部屋から飛び出した。ロベルトさん、どうしたんだろう。あんなに怒るなんて。解せぬ。




 その日の午後。お嬢様がお屋敷にやってきた。

 残念、普通の女の子っぽい。

 でもお嬢様の侍女は銀色の腰まである真っ直ぐな髪の、めちゃくちゃきれいな女の子だ。

 最近、よぼよぼしっぱなしのおじいちゃんが、やたらピシッとしている。おじいちゃん、お嬢様に会いたがってたもんなあ。嬉しいんだなあ。

 ここでの日常がちょっと面白くなるかなあ。






 その日の夕食。


「え、今日の前菜はふかし芋?珍しいわね、そんな庶民的な料理。いいえ、好きよ。問題ないわ」


 ふかしただけのジャガ芋は、彫刻のように牡丹の花の形に削られていた。花びらの先に僅かな食紅で色を引いているのも美しい。付け合せは、牡丹が際立つように緑の野菜がほんの少しだけだ。

 花びらの形を崩さないように、蒸気で蒸したものらしく、湯気がもうもうとあがっていた。バターが一片、牡丹の花の真ん中に落とされて、たらりと溶けて食欲をそそる香りが立ち上っている。


「これは……見事ね。『ふかし芋』と言われて、こんな芸術品のような料理が出てくるとは思いもしなかったわ。でも…ここまで綺麗だとナイフを入れづらいわね」


 しかし眺めてばかりもいられない。仕方無しに、一口サイズに切り分けて口に運ぶ。


「……あたりまえだけど、味は普通ね」




少年ヨーゼフに壁掛け時計を投げた(投げそうになった)のは、ロベルトさんでしたΣ(´∀`;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ