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17 山へ行こう③


 滝壺から遠く離れる。地面の乾いたところならば、急にスライムが出てくるようなことはないだろう。

 落ち着いたところで、皆で昼食を摂ることにした。


 私は腰に下げた小袋から出した小瓶から、薬液を数滴地面に垂らす。


「お嬢様、それはなんですか?」


 敷物を伸ばしていた手を止めて、ミーシャが聞いてきた。


「魔物よけの薬よ」

「魔物よけ!」


 ミーシャは目を丸くして、敷物をバサリと落として両手を自分の頬に添えた。


「お嬢様ったら、そんなものがあるなら早く出してください!そうすればスライムに襲われなかったのに!」


 思わず苦笑いが浮かぶ。


「そうは言っても、魔物よけの薬はね……」


 ふと同じような小瓶をアランが手にしていることに気付いた。


「あら、アランも魔物よけの薬を使おうとしていたのね。余計な真似をしてごめんなさい」


 魔物よけの薬は旅をする者にはごく一般的なものだ。護衛として何度も王都と領地を往復しているようなアランも、常に携帯していてもおかしくない。


「いいえとんでもありません。それよりもお嬢様が野外での活動に慣れているのに驚いています」

「そんなことはないわ。常識的なものだけよ」

「その魔物よけもお嬢様が作られたので?」


 私はアランの求めに応じて、小瓶を渡した。

 中を一嗅ぎしたアランが唸った。


「これは……素晴らしい。薬学を学んでいる最中だとおっしゃっていましたが、この薬だけ見ても、そこらへんの薬師に引けは取りません。お嬢様の薬作りの腕は大したものですね」

「ありがとう」


 しびれをきらしたミーシャが袖をひっぱる。


「アラン、説明をしてもらえるかしら」

「かしこまりました」


 アランはミーシャに向かって話し始めた。


「魔物よけの薬は、魔物が嫌がる臭いをさせるものです。臭いがしている間は、魔物が近寄ることはめったにありません。また強い魔物には効果がありません。あくまで低級から中級のモンスターのみに効果があります」


 私達が王都から領地に来た旅の間も、森での休憩のたびにこの魔物よけの薬が使われていた。散策の間は、護衛の持ち物にこの臭いを移して魔物を払っていたはずだ。それでもゴブリンと遭遇してしまったのだから、その魔物よけの薬を作った薬師の腕はあまり良いものではなかったのだろう。

 お父様も領地と王都を年に何往復もするし、安全のために護衛の持っている魔物よけの薬を、私の作ったものに差し替えようかしら。


「だったら、山に入る前からその薬を使えば良かったのではありませんか?」


 ミーシャはもっともな質問をした。


「ミーシャさんは、嫌いな相手がいたらどうしますか?」

「相手のいい面を探しますわ」

「ミーシャさんはお優しいですね」

「いいえ、そんなこと」


 ミーシャは頬を染めて、両手はグーに握って口を隠すように頬に当てている。もともと顔立ちの整ったミーシャは、そういうポーズも様になるのだが……。

 私と二人きりの時に、思い切り嫌いな人の悪口を言ってるわよね。ミーシャって男に対しては態度が変わる系なの?


 イラッ。


「多くの人は嫌いな相手を避けます。でも逆に突っかかる人もいるのですよ」

「突っかかるですか?」

「はいそうです。モンスターも同じです。魔物よけの薬でほとんどのモンスターは近寄りませんが、反対に襲いかかろうとするモンスターもいるのです。特に魔物よけの臭いが弱まった時に襲われる場合が多いので、休憩の間だけとか短い時間だけに使用するのですよ」

「ええ、ってことは薬の臭いが弱まったら、またスライムに襲われちゃうのですか?

 でも……アランさんが守ってくれますわよね?」


 胸の前で手を組んで、上目使いで目をしているミーシャ。マツゲが必要以上にバサバサとはためいている。


 イライラッ。


「いえ。スライムは臆病なモンスターですから、臭いが弱まっても襲ってくるようなことはありません。もし襲ってくる魔物がいたとしても、私がお守りします。ご安心下さい」


 アランも爽やかに笑う。


「はい。どうか……私をずっと守ってくださいね」


 その後に「きゃっ、言っちゃった」と、顔を真っ赤にさせてぴょんぴょん飛び跳ねている。


 イライライラッ。


 ミーシャの恋は応援してあげる約束だけど、あの態度にはお仕置きが必要ね。






少年「お嬢様、最初に使うのは嗅覚の薬じゃなくていいんですか?」

お嬢様「…………あっ(´゜д゜`)」

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