16 山へ行こう②
今回は説明回になります。
誤記指摘いただきました。UBOB様、甍様ありがとうございますm(_ _)m
馬車で山の中腹まで行き、そこから沢に歩いて下る。そこから少し登った先に滝壺があった。景観が良く、幼い頃に何度かピクニックに行った場所だ。今回もそこで早めの昼食を取るつもりでいた。
滝壺は木漏れ日を浴びて、キラキラと輝く水面にしばし目を奪われる。
ふと、目の端にゆらりと動く影があった。
「スライムだ!みんな動かないで下さい!」
アランは警告がてら、鞘を付けたままの剣でスライムを薙ぎ払った。ビシャっと音をさせて、スライムが弾ける。
スライムとは手のひらサイズの水球のような形のモンスターで、獲物を体内に取り込むと溶かして消化する。粘性なので、剣の攻撃は効果が少ないが、打撃や魔法攻撃にはめっぽう弱い。
ホッとしたのもつかの間、先ほどとは反対方向から別のスライムが飛びかかってきた。アランは剣を引き戻しがてら、左手に持ち替えてそのスライムを打ち付ける。
次から次にスライムが襲い掛かってきたが、アランは余裕で倒している。
あっという間に最後の一匹を叩き潰した。
ミーシャがアランに向けて送る声援がうるさい。
「お嬢様、無事ですか?」
「ええ大丈夫よ、ありがとう。アランは?」
「なんともありません。まあ、相手はスライムですから」
「いくらスライムとはいえ数が多くては、我が家の精鋭でも危ないのではなくて?」
「ご心配はありがたいのですが、スライムごときがいくら襲ってこようともお嬢様達を十分お守りできますよ」
アランは、苦笑いした。私が過剰な心配をしていると思ったのだろう。それはそうだ。スライムなんて、ポカリと叩けば子供でも倒せる最弱のモンスターだ。
「そうですか。アランがいれば、スライムの大群が来たとしても安心ですね」
「ええ、ご安心下さい」
「ところでこの滝壺でスライムが出てくるなんて、今まで聞いたことありませんが。いったいどうしたのでしょう?」
「分かりません。ただ、スライムが大発生する時は、山のバランスが崩れたときが多いようです」
「山のバランスが?」
「はい。強い魔物が新たに住み着いた時、その辺りに前からいた強い魔物と縄張り争いをします。圧倒的な力でどちらかが勝てばいいのですが、そうでない場合、中くらいの力の魔物が漁夫の利を得ようと縄張り争いで勝った方に戦いを挑みます。そんな風にして、他の魔物の餌にしかならないような最弱のモンスターしか生き残らない場合があるのです。最弱のモンスターであるスライムを捕食するモンスターがいなくなった時に、その高い増殖能力で大発生するという話です」
その話は、私も聞いたことがあった。
と、すると私の目指しているものはやはりこの山にいそうだ。
アランには見えないように、口元を緩めた。
「ああ、ところで、私が薬の勉強をしていることはアランにも話しましたわね」
「ええ。この散策はその材料を採取するためのものということでしたね」
「ええ、そうなの。こんな材料をね」
私は、スライムが倒されて消えるときに落としていった玉を拾い上げる。弾力のある殻に包まれた青く透き通った卵のようなものだ。スラ玉は30匹に1匹落とすと言われている。アランがさっき何匹倒したかは覚えていないけれど、そこまで多くはない。それなのに2個もスラ玉が落ちていた。運がいい。
「スラ玉ですか?」
「ええ。スラ玉は、中身の液体を加工すると、その濃度によって融解剤から接着剤にまでなるのです。この滝壺にスライムがいるのであれば、ここであと何個か採取できないかしら?もちろん私やミーシャも戦いますわ」
急に名前を出されたミーシャが目を白黒させている。
「いくらスライムとは言え、油断していたり隙きをつかれれば痛い目にあいます。護衛として、許すわけには行きません。
スラ玉が欲しいのでしたら、薬問屋から購入なさればよろしいのではありませんか?確か、スラ玉は初級冒険者に頻繁に採取依頼が出されているものだと聞きます。簡単に融通してもらえるのではありませんか?」
アランの口角はきゅっと結ばれていて、どうやらこの件に反論の余地はなさそうだった。
「ええそうね。分かりましたわ」
私がすぐに同意したことに、アランはホッとしたようだった。
また新たなスライムの影が迫ってきたことで、私たちは急いでその場を離れた。
夏風邪で体調不良のため、見直しが不十分です。誤字脱字、おかしな所があれば感想もしくはメッセージでご指摘いただけると幸いです。





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