15 山へ行こう①
アホの子登場です(笑)
「どうして僕はここにいるんでしょうか?」
燃えるように真っ赤な髪が目に痛い。
「さあ?」
ヨーゼフの孫を目の前にして、私は首をかしげる。
「どうして僕はカゴなんか背負わされているんでしょうか?」
赤い髪の少年は、私と同じように首をかしげる。そばかすだらけの顔は、何が何だか分からなくて困っているようだった。
「あら、本当ね。どうしてかしら?」
私はカゴをミーシャに頼んだはずなのに。
背後から不気味な笑い声が聞こえた。
「ふ、ふ、ふ。私が連れてきたのです。何故なら、あなた一人だけが暇そうにしていたからです!」
「暇じゃありません!」
即答する少年。
ちっ、ちっ、ちっと立てた人差し指を振り、少年の答えを否定するミーシャ。
「使用人歴8年、侍女歴5年の私の目はごまかせません。あなたは早足で廊下を移動していても、それはただ忙しさを装ってるだけだって」
「使用人歴8年って、あなた、何歳ですか?」
「15歳です」
「15……!僕と同じ歳……。なのに侍女歴5年……。僕は……僕はまだ下僕見習いでしかないのに」
がくりと膝をつくヨーゼフの孫。ちなみに屋敷務めにもヒエラルキーがある。頂点は執事長。以下、執事、侍従、下僕、そして下僕見習いだ。この少年は一番下の位ということになる。
ミーシャは、少年と同じ高さに目線を合わせた。
「恥じることはありません。だれにだって、始まりはあるものです。そんなあなたに、機会を差し上げます。ご当主様の一人娘、つまり伯爵家の跡取りであるユリアお嬢様に直接お仕えすることができる機会です」
「ええ、そんな大役をですか?でも僕にできるか……」
聖母のような優しげな顔で、そっと少年の両手をすくい上げるミーシャ。
「大丈夫。あなたならできます」
少年の瞳に希望の火が灯る。
「僕なら……できる?僕なら……できる。僕ならできる!
分かりました。僕、やります!!!
ロベルトさんが仕事の役割分担してくれないから、いつまでたっても下僕見習いから下僕になれなくて。先輩たちに仕事を手伝うって言っても、なんでだか靴を投げられたり、フライパンを投げられたり、壁掛け時計を投げられたりするけど。後から入ってきた奴に先輩としていろいろ教えてやったら、泣かれて、すぐにロベルトさんに止められたけれど。おじいちゃんが執事長だからクビにできない僕ですけれど。僕、やります!」
急に立ち上がり天に拳を突き上げる少年を、感動したように見上げるミーシャ。
なんなのこの茶番?
ミーシャったら、そんなにカゴを背負うのが嫌だったのかしら?それにこの少年……不安しかないわ。
ところで誰なの?壁掛け時計投げたのは!
ポンポンと服の汚れを叩いて落とし、身なりを整えていたミーシャは「来ました!」と瞳を輝かせた。その方向に目を向けて、「ああなるほどこういうことか」と納得した。
「お待たせしました」
さわやかな笑顔の22歳、護衛のアランである。ミーシャは頬を染めてぽぉっとなった。
カゴを背負った姿を、彼に見せたくなかったということね。なるほど、乙女心だわね。
ここにみんなが集まったのは採取のためだ。作りたい薬の材料を採取するために、山に行く。私の記憶が正しければ、この時期に必要な素材が山で採れるはずだ。先日作った薬は、この採取のためのものである。
叔父様の言葉から、外に行くのには護衛が必要だった。その護衛だが、どうやらミーシャがアランを指名したようだ。
アランと少年が御者台に座り、私とミーシャが幌のある荷台に乗り込んだ。
「出発前だけど、なんだか疲れたわ。さあ、さっさと行きましょう」





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