129 グレテルの嫉妬
18/9/19 グレテルとユリアのセリフを少し調整しました。内容は変わりませんm(__)m
「具合はどう?」
「……」
グレテルさんは、ダンの胸によりかかりながらフイッと首を背ける。どうやら私の質問に答える気はなさそうだ。代わりにダンが答える。
「ああ、大丈夫だ。変わりない」
ダンは困ったように、私とグレテルさんを見比べた。
「すまん、ユリア。グレテルは、あまり友達と遊んだことがないせいで、内気で人見知りな性格なんだ」
「お兄ちゃん!」
ダンの言葉のどこかに、グレテルさんの気にさわったようだ。でも今までの様子からは、とても「内気で人見知りな性格」には見えない。「もうっ」と頬を膨らませながら、グレテルさんはダンの胸を痩せた手で叩く。まるで恋人同士のような空気にいたたまれなくなり、コホンと咳ばらいをした。
「グレテルさん、診察してもいいかしら?」
「え……はい」
ダンには外に出てもらい、グレテルさんの診察をした。
「動悸や息苦しさは?」
「いつもと変わりません」
「手足のしびれは?」
「ありません」
「他に気になるところは?」
「特にありません」
脈を診て、手足のむくみや貧血の症状が出ていないなどを見ながら質問をしていく。もちろん魔力の流れも調べる。思いのほかグレテルさんは診察に協力的だった。
「昨日と変わりなさそうね」
「そうですか」
グレテルさんはホッとしたように返事をした。
「でもおかしいわね……」
「え? 何がですか?」
「だって、昨日私が診察したのは発作がおさまって少したった時よ。それと同じだなんて……」
ギクッと、グレテルさんは体をこわばらせた。
「やっぱり仮病だったのね。でも……どうして?」
必死な顔をしてグレテルさんは、私の服を引っ張る。
「お願いします! お兄ちゃんには言わないで下さい!」
「もしかして、昨日の発作はダンが近くに来たのを知って、それで?」
「…………」
「分かっているの? あなたの発作のせいで家族はみんな神経がすり切れそうなくらい心配をしているのよ!」
特にお母さんのカーナさんは酷い様子だ。今日もミーシャは寝込んでしまったカーナさんの看病をしている。グレテルさんはバツの悪そうな顔をする。
「悪い事をしているっていうのは分かっています。でもいろいろな場所へ行き、冒険しているお兄ちゃんが、この家に帰ってきた時には独り占めしたいんです!」
「ダンはグレテルさんのために……」
「……それも分かっています。でも寂しいんです。それに昨日は仮病でしたが、発作はよくあるんです。そのたびに、もう死ぬんだって思うんです。だから……」
辛そうなグレテルさんを見ると、それ以上は何も言えなくなった。
「あの……お兄ちゃんには内緒にしてくれますか?」
「ええ、いいわ。その代わり、グレテルって呼び捨てにしてもいい?」
「そんな事でよければ……。でも約束は守ってもらいます」
「治療は薬組合に登録してからっていう約束ね。いいわ。でもなぜそんな事を気にするの? 治療して早く元気になりたいとは思わないの?」
「……あなたの治療を受けたくないんです」
「どうして?」
「……私があなたを嫌いだからです」
「私、何かグレテルさんに嫌われるような事をしたかしら?」
「お兄ちゃんと仲良く旅をして、信頼されている。それだけで嫌う理由は十分です」
グレテルは、キッと私を睨んだ。
そうか……、グレテルは私を妬んで嫉妬していたのか。「仲良く旅をして、信頼」されたいのはグレテルさんなのだろう。好き嫌いが問題なのでは、どう説得しても難しい。やはり治療を受け入れてもらうには約束を果たすしかなさそうだ。
診療が終わったので、扉の外に出ていたダンを呼び戻す。その際に、やはり廊下で待っていたヨーゼフを部屋の中に招き入れた。グレテルはベッドに横たわりながら、ヨーゼフに会釈する。
「グレテルに紹介するわ。グレテルの病気と同じ、魔力栓塞の病気だったヨーゼフよ。きっとグレテルの気持ちがよく分かると思うわ」
「病気だった……ですか?」
グレテルは首をかしげる。
「ええそうよ。完治したの」
「でもこの人は……」
「ええ。魔力栓塞は子供の病気だとされているわ。でも、ヨーゼフは魔力栓塞だったのよ。それはダンが証言してくれるわ」
ダンは力強く頷いた。
「ああ。確かにヨーゼフさんは魔力栓塞だった。ただ、俺が出会った時はユリアの作った藍色の薬を飲んでいたから、普通に動く分には多少つらそうなくらいで問題はなかったが……。そしてそのあと完治させるための治療にも立ち会っている」
「でも……」
「グレテルさんはダンを信じられないの?」
「そんなことあるわけないです!!」
「……なら」
ダンは心配そうにグレテルの瞳を覗き込んだ。
「グレテル。頼むから、ヨーゼフさんの話を聞いてくれ」
ダンの強い視線と口調に、グレテルは頬を赤らめながらもしぶしぶ頷いた。
ヨーゼフは、ダンに勧められた背もたれ付きのクッション椅子に座って指を胸の前で組んだ。
「じゃあ、私は少し席を外すわ」
「それなら俺も……」
「お兄ちゃんも一緒にいて!」
「しかし……」
「ダン、興奮すると発作を起こすかもしれないから……」
チロリと嫌味な視線を送れば、グレテルさんはツンと顎を上げた。そしてダンはため息をついてグレテルさんに付いていることを了承した。私はヨーゼフに向き直る。
「お願いするわね」
「かしこまりました。ユリアお嬢様」
10/10に二巻が発売になるので、どんどん盛り上げていかないといけないというのに、ちょっとスランプ気味です(இдஇ ) 申し訳ありません。