11 採取
まったり薬師生活はじまりま〜す
前の人生ではこの領地でいろいろあったが、今はまだ何も起こっていない。それにどう起こるのかも何もわからない。
ひとまず、私は自分のできること、そう薬を作ることにした。
王都からここに来る間の街で、市場や商店から調合するための器や薬さじ、秤なども買った。十分とは言えないが、おいおい揃えて行くつもりだ。これ以上のものは、王都の専門店に特注しなくてはならないだろう。
材料も買ったり、自分で採取した薬草や動物やモンスターの素材がある。その素材でも作れるものは何種類もあるけれど、私には作らなくてはいけない薬があった。それには薬草も素材も足りなかった。ひとまず近場で使えるものがないか採取してみることにした。
「お嬢様、それはいけません!」
真っ先に庭師の小屋に行き、そこにあったカゴをなんの躊躇もなく背中に背負ったところ、ミーシャに止められた。
「何言ってるの。薬師の必須道具よ、カゴ」
「お嬢様は薬師ではなく令嬢です。カゴを背負うなんてだめです」
「あら。じゃあ、あなたが背負ってくれる?」
「嫌です」
「やっぱり私が背負うしかないじゃない」
「だめです。かわいくありません」
「かわいい必要なんてないわよ」
「いいえ、必要です」
自分の格好を見てみる。
ベージュの透かし穴のある生地を使った、膝丈までのワンピース。渋茶の編み上げブーツ。頭にはつばが広めの麦わら帽子。髪は帽子の中でもこもこしないように編み込みからの三つ編みをしてワンピースと同じ生地のリボンを結んでいる。
ミーシャがコーディネートして、着せてくれた服だ。
「確かに、もったいないわね」
「そうでしょうとも、そんなに可愛らしいお姿にカゴを背負うなんてもったいないです」
「いえ……、服が汚れるからもったいないって話よ」
一悶着したあげく、ミーシャが背負ってくれることになった。ちょっと涙目のミーシャである。
領地にあるこの屋敷は、中庭を囲んだコの字型の建物で、中庭には花壇やハーブ園、小さな温室などがある。
まずはハーブ園に行く。ハーブの中には薬として使えるものも多いが、今ここにあるハーブは私が望むよりかなり薬効が薄い。無いよりマシなので、いく種類かカゴに入れた。
「私、このハーブ好きなんです。なんでもお肌にいいらしいんですよ」
そのハーブの主な薬効はダニ退治と利尿効果である。ふんふんと、鼻歌を歌いながら、その葉を頬に当てていたミーシャには何も言わないでおきましょう。
次は温室に回る。温室は代々領主の妻が管理していたものだ。庭師の出入りは禁じられている。お母様の代になってから、ほとんど領地には来ないため荒れていた。こぼれ落ちた種が変なところから生えて温室の中で権勢を誇り、育てるのに手間のかかる株は枯れた葉だけを残して消えていた。
ご先祖様はいったい誰を毒殺するつもりなの?というような薬効の強すぎて一般的には毒草とされるものがいく種類もある。
えっと……オルシーニ伯爵家に黒い歴史はないわよね?私、そんなの知らないわよ。
素手で触ってはいけない草をよけつつ、探索を続ければ、思いもよらない薬草を見つけた。釣り鐘のような花を付けるオトヨロイ草。これがあれば、次の採取の時にとても楽になる薬ができる。思わずにんまりとしてしまった。
他と混じらないように油紙でそっと包んでミーシャのカゴに入れおく。
「お嬢様、見て下さい。なんて可愛らしいスミレなんでしょう。私、スミレの花みたいだって言われたことあるんですよ。あの護衛の方、アランさんもスミレ好きでしょうか?」
それはスミレに擬態した食虫植物よ。ほらミーシャがつんつんってしている花の真下の葉っぱには半分消化された虫がいる……ミーシャには何も言わないでおきましょう。
それにしても、いつの間にか護衛の名前を仕入れたんですね。仕事は本当にできる娘なんですけれどねぇ。
花壇は、庭師が手入れをしている最中だった。庭師の目の前で根を掘り起こそうとしたら涙目で見つめられたので、花壇に手をつけるのをやめた。その代わり、屋敷の外の採取に向いている場所を教えてもらうことにした。そこは図らずとも私が次に採取に行こうとしていたのと同じ場所だった。
ところでカゴを返してほしいと、庭師に懇願された。
近日中に新しいものを買うからと返事をすると、なぜか庭師もミーシャもガックリ肩を落とした。
いずれ「たーる」ってのもしたいです(笑)え?あれは職種が違うって?いいんです、好きだから( *´艸`)