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106 オークアップル畑

前回の更新予約を失敗していたことに、昨夜気付きました(;´Д`)

もうしわけありませんでした。


104 訪れた平和、後半部分(◇◇◇以下の部分)を削除しました。

100 もう一つの出口

   「オークアップルはありますか?」に対して、「1週間後」から、

   「まだ孵化する前のがある」に変更いたしました。

   重ね重ね、申し訳ありません。


「そうね。お祭りをしましょう。いつものお祭りよりも、もっと楽しそうな」


 背中の皮をはぎ取られたはずの老齢の女性は、以前のように、茶目っ気のある笑顔でそう言い切った。


「「「祭り?」」」


 院長は楽しそうにパンッと手を打った。


「ええ。みんなが、楽しそうにしていれば、そんな病だかなんだか分からない物が、ここで起ったなんて、誰も信じないでしょ? そしたら、さすがの聖騎士団だって、何もできないはずよ」

「しかし……。母様だったら、ガシリスクが閉ざした外門の開け方を知っているだろ? みんなで逃げた方がいいんじゃないか?」

「そんなことをしたら、あいつらは飢えた猟犬のように追いかけて来るわよ」


 とんでもない、と言わんばかりに院長は、ふるふると首を振った。


「それに、聖騎士団は手足みたいなもので、ただ上の命令に従っているだけ。上がここに問題なしと思ってくれたら、すぐに引き返すわ」

「そうだろうか……。しかし、上というのが、どんな人なのか……」

「大丈夫。あの方は、公明正大な方だもの。きっと楽しそうに祭りをしている様子をご覧になれば、どんな命令を聖騎士団にしていたにせよ。撤回するに違いないわ」

「聖騎士団の上を、母様は知っているのか?」

「これでも、教会籍の中では地位が高い方なのよ」


 院長は片目をつぶった。茶目っ気たっぷりな仕草だが、その顔色はすぐれない。無理もない。院長に施されたのは、傷薬だけ。カイヤが使った鴆の麻酔薬の効果はきれて、目が覚めたものの、どんな副作用が残っているか分からない。それに加えて、出血による貧血。魔力切れ。他にもどんな症状が出ているのか……。


「母様は、また少し休んでくれ。もう少ししたら、私の魔力がある程度回復する。そうしたら、治癒魔法をかけるから」

「あら、楽しみにしているわ。確かに、疲れたわ。でもまた休むその前に……」


真剣な顔をして私に向き直る。


「私の命を救ってくれたのはユリアちゃんだそうね。ホントにありがとう。背中も、そんな傷があったのかと思うくらい、違和感がないわ」


 そう言って、手を肩の上に置き、首を後ろに傾けた。

 三十年なんだそうだ。クラリッサを産んだ後に『三人の聖女』に選ばれてから、あのレシピを背負って生きてきた年数が。院長のその姿は、嬉しいのか悲しいのか困っているのかほっとしているのか、その胸の内を、他の人には分かるよしもなかった。


 そのまま、私達は院長の部屋を出た。


「祭りはやるんですか?」

「やる」

「何か策はあるのですか? みんな、快方に向かっているとはいえ、さすがにあと一日や二日で誰が見ても元気にだなんて……」


 クラリッサ様は、顎に手を当てて「う~ん」とうなった。


「母様からは、私に全てをゆだねると言われている。私の判断が、この修道院の判断だ。その上で、ユリアに聞くことがある」

「はい。何でしょうか?」

「ユリアは、魔力回復ポーションを作れるのか?」

「材料さえあればですけれど……」

「今、この修道院にはリンドウラ・エリクシルの仕込みをするために、大抵の薬草や素材が揃っている。それで作れないか見てもらえないか?」

「それは構いませんが……。もし足らなかった場合は、作れないか、似たような効果がある素材で品質が劣るものを作るしかありませんが、それでもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ」

「それで私が魔力回復ポーションを作って、あとはどうするのですか?」

「治癒魔法をかけまくる!」


 ……とんでもない力技が来た。

 私の後ろで、ヘンゼフが「脳筋」と呟いて、ミーシャに頭を叩かれていた。


◇◇◇


 さっそく、仕込みで余った薬草などが保管されている場所に連れていかれた。そこからは、修道院の中でも選ばれた人しか入れない場所だということで、クラリッサ様と私の二人だけだ。


「こんなものが……」


 私がこの修道院で生活した『前の人生』でも、こんなところにこんなものがあるとは知りもしないものが地下にあった。修道院の敷地の半分はあろうかという広い地下室。この部屋も、カイヤの一族が、何かのために作った部屋なのかもしれない。しかし、今は、幻想的な風景が広がる美しい場所だ。ところどころに、支柱が立っている他は遮るものがない。きっと重さを軽減する魔道具が、どこかにとりつけられているのだろう。それに光の魔道具で、天井から青い光に照らされている。その光が当たるのは、陽の下で見るならば、かわいらしいピンクの花だが、ここでは淡い紫に見えるモリウチワ草の花畑。根元が膨らみかけたかわいい花が、空気取りの穴から吹き込んだ風に重い首を揺らす。

 モリウチワ草は初春から晩秋まで咲き続ける花だ。その蕾の根元に産み付けられたオーク虫の卵が作った虫コブをオークアップルといい、私が薬に多用する素材の一つだ。

 このオークアップルは、自然の中では見つけるのがとても難しい。千匹に一匹という割合で、異常行動を起こしたオーク虫が、モリウチワ草の蕾に卵を植え付ける。その行動は、オーク虫がモリウチワ草がわずかに持っている魔力に引かれることによるのではないかといわれている。また、卵や孵化した幼虫から出る成分のせいで、モリウチワ草の蕾は根元が大きく膨らみ、オークアップルと呼ばれる虫コブになる。

 自然にみつけるのが難しいオークアップルも、一つ見つけることができれば、その後はそこから羽化したオーク虫を育てて、エサの代わりに魔力を与え、再びモリウチワ草に産卵させれば時間はかかるが簡単に得ることができる。そして、そのサイクルを繰り返すごとに、薬効が高くなり、オークアップルも、卵も、オーク虫も、最高の薬の素材となるのだ。

 さらに、このオーク虫の卵が、ヨーゼフとダンの妹の魔力栓塞の治療に使える素材になる。

 このモリウチワ草の花畑……、いいやオークアップル畑は、私にとって最高の素材畑なのだ!


「そういえば、ユリアはオークアップルが必要だったんだな?」

「はい!」

「ここに並んでいるのは産卵したてだから、オークアップルにはまだ早いが、確か形が悪いとかで破棄したものや、オーク虫が羽化したあとの物があったはずだ。それでもいいか?」

「もちろんです!」


 そう答えてから、あることに気が付いて「あ……」とクラリッサ様の肩に鎮座するオーク虫の女王を見上げる。


「あの……、オークアップルはオーク虫の卵や幼虫を素材に……。それに、実は私の薬にはオークアップルで育った魔力豊富なオーク虫を素材に使うのですが……。あの……その……」


 オーク虫の女王は威厳たっぷりに「チチ」っと鳴く。


「問題ないそうだ。こいつらは集団意識のなかで生きている。末端の個体には特に意志もないそうだから、いくらでも使えと言っている」

「ありがとうございます!」


 もう一度花畑に目をやった。すると、さっきまで目に入らなかったものに気が付いた。花畑の真ん中に古くて素朴な木製の机が置いてある。その机の上に、何冊か本が置いてあるのだが、いったい何のために……?

 私の視線を追ったクラリッサ様が「ああ」と、息をもらした。


「あれは、この修道院を開いた最初の院長と、共にエリクサーの開発を目指した薬師の備忘録だ……」

「最初の……? それにしては、ずいぶんと新しく見えますが……」

「この環境のせいなのか、魔道具が組み込まれているわけでもないのに、不思議と状態が変わらんのだ」


 あの備忘録を読んでみたい。伝説の薬、エリクサーまであと一歩というところまでたどり着いた優秀な薬師なのだ。いったい、日々何を考えて研究していたのだろう……。そう、知りたい気持ちでいっぱいだった。

 クラリッサ様は、その机に向けて、少し武骨な長い指を、すっと指さした向けた。


「ここに連れて来たのは、素材を渡すためだけではない。あれを読んで欲しいからだ」


 そのクラリッサ様の表情は、少しだけ苦悩の色があったが、そんなことはあの薬師の備忘録を読むためなら、後回しだ。私は、興奮してクラリッサ様に問い返した。


「あれを、読んでいいのですか⁉ 本当に? 私が?」

「ああ。ユリアに読んでもらいたい理由は、あれを読めば分かる」




次回から、文字数少し長めになります。

次の章が、夏の海を舞台にしているので、早くこの章を終わらせないと(^^;

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